奄美料理 行事食

奄美料理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/29 07:22 UTC 版)

行事食

明治時代初期、徳之島の上流階級の宴会

日本の本土(大和、やまとぅ)では、冬の正月が最も重要視される年中行事であるのに対して、奄美ではもともとは夏の稲の収穫行事である「三八月」(みはちがち)が最も重要な年中行事であった。現在は稲作があまり行われなくなり、本土の習慣が根付いて、冬の正月、夏の三八月がともに祝われる。地域差もあるが、各行事と関連する料理は以下の通り。

  • 三月三日(さんがちさんち) - 桃の節句。喜界島ではうむむっちー(はったい粉入りの餅)を作る。
  • 浜下り(はまうり) - 旧暦4月の午の日にタイモの煮物、舟焼き、塩豚の煮物、焼き魚、野菜の煮物、おにぎり[5]などを詰めた弁当を持って、浜で唄い遊ぶ。
  • 行事 - 旧暦7月13日の夕方に墓参し、先祖の霊を迎える提灯に火を点す。床の間に祭壇を作り、庭には先祖の霊の従者が待つ場所として蘇鉄の葉とでむっ棚を作り、餅や煮物を供える。落雁(型菓子、かたぐゎし、しまっくゎし、むすこ)も作って供える。14日は精進料理を供え、食べる。15日には夕方に墓参し、集落で送り踊りをする[5]
  • 三八月(みはちがち) - 新節、柴挿、嫩芽(土賀)の総称。考祖祭。
    • 新節(あらせち) - 旧暦8月最初の(ひのえ)の日に行う収穫祭。みきを作り、赤飯(かしき、はしち)を炊き、火の神に供える。夕方は八月踊りを行い、集落内の家々の安全を願って踊って回り(家回り、やーまわり)、各家は料理と黒糖焼酎を用意して待つ。
    • 柴挿(しばさし) - 新節から中7日経った(きのえ)の日に、家の軒にススキを刺し、畑にはの枝を刺し、八月踊りをする。
    • 嫩芽、土賀(どぅんが) - 続く甲子(きのえね)の日。何もしない休息日。
  • 八月十五夜(はちがちじゅうぐや) - 旧暦8月15日(中秋)の豊年祭。奉納相撲を取り、八月踊りを踊り、おにぎりや餅を食べる。
  • 九月九日(くがちくんち) - 旧暦9月9日の家内安全、製糸の成功を祈ってみきを作る。
  • 種おろし(たにうるし) - 奄美大島北部では、旧暦9月ごろ、高倉から種を下ろす前に、豊作への感謝と祈願のために餅を作って撒く。家回りをする場合もある。
  • 年の夜(とぅしぬゆ、大晦日) - 旧来正月に備えてヤギニワトリなども屠殺されたが、最も一般的なのは黒豚で、ツワブキなどと味噌で煮て豚骨料理にする[5]。喜界島ではひるいっちゃーしー(にんにくの葉と豚肉と豆腐の妙めもの)が欠かせない。
  • 正月(しょうがち) - 元旦に家族で三献(さんごん、さんぐん)と呼ばれる料理を食べる儀礼を行う。奄美大島では、家長の「おしょろう」の声で始め、一の膳のむちぬすいむん(赤い椀に入れた海老、蒲鉾シイタケ、ゆで卵などと餅の吸い物、むちんしる、雑煮)、二の膳(刺身)、三の膳のうゎーぬすいむん(黒い椀に入れた塩豚と大根の吸い物。または鶏肉などの吸い物)と、スルメ(または魚のひむん、干物)、昆布からなる塩盛りを供する。各膳の間には主人が同席者に奄美黒糖焼酎を注いで飲み、最後に塩盛りの三品を一口ずつ食べる。喜界島ではすでぶた(お重)、しいむん(吸い物、雑煮)、さんぺーつき(三杯漬け、酢の物の紅白なます)で三献とする。二日は農作業や家業の仕事始めの儀式を行ってから、友人の家を回り、シマ唄を即興で歌う唄遊び[5]などをする。
  • 小正月(かめざらい) - 前日の1月14日にぶんぎ(クワノハエノキ)の小枝に食紅でカラフルに着色した小さな餅を刺し、なりむちと称して飾る。1月15日は正月の残りの塩豚のわんふに(豚骨料理)、とぅくむち(床餅、鏡餅)を食べる。翌16日はあくにち(悪日)とされ、仕事をしなかった。18日にはなりむちを煮て、蒸したタイモあるいはサツマイモと混ぜて、ひっきゃげを作る。

  1. ^ a b c 恵原義盛、「序にかえて」『シマ ヌ ジュウリ 奄美の食べものと料理法』pp3-5、1980年、鹿児島、道の島社
  2. ^ a b 原口泉、「奄美の食文化」『奄美の食と文化』pp108-109、2012年、鹿児島、南日本新聞社、ISBN 978-4-86074-185-3
  3. ^ a b 比地岡栄雄、「推薦のことば」『シマ ヌ ジュウリ 奄美の食べものと料理法』pp6-8、1980年、鹿児島、道の島社
  4. ^ 与論島では卵焼き全般を「ふが焼き」という。
  5. ^ a b c d 藤井つゆ、「行事の料理」『シマ ヌ ジュウリ 奄美の食べものと料理法』pp15-36、1980年、鹿児島、道の島社
  6. ^ 南海日日新聞 (2014年10月22日). “「喜界町中里でソーメンガブー」”. 南海日日新聞. 2014年10月26日閲覧。
  7. ^ 今村知子、『かごしま文庫51 鹿児島の料理』p24、1999年、鹿児島、春苑堂書店 ISBN 4-915093-58-1
  8. ^ 今村知子、『かごしま文庫51 鹿児島の料理』pp30-32、1999年、鹿児島、春苑堂書店 ISBN 4-915093-58-1
  9. ^ a b 久留ひろみ、濱田百合子、「喜界島の郷土料理」『奄美の食と文化』pp168-169、2012年、鹿児島、南日本新聞社、ISBN 978-4-86074-185-3
  10. ^ 蔵満逸司、『奄美食(うまいもの)紀行』pp78-82、2005年、鹿児島、南方新社、ISBN 9784861240508
  11. ^ 奄美新聞 (2015年8月11日). “「ウンギャルマツ」食べよう”. 2015年11月30日閲覧。
  12. ^ 藤井つゆ、『新版シマヌジュウリ 奄美の食べものと料理法』、p91、鹿児島、南方新社。
  13. ^ a b 久留ひろみ、濱田百合子、「徳之島の郷土料理」『奄美の食と文化』pp170-173、2012年、鹿児島、南日本新聞社、ISBN 978-4-86074-185-3
  14. ^ 宇都宮英之、『南の海の生き物さがし: 琉球弧・奄美の海から』p22、2006年、鹿児島、南方新社 ISBN 9784861240904
  15. ^ a b 宍道弘敏、塩浦喜久雄 ほか、「奄美海域におけるイセエビ類の生態と抱卵エビ蓄養技術」『鹿児島県水産技術開発センター研究報告 第2号』pp15-26、2011年、鹿児島、鹿児島県水産技術開発センター [1]
  16. ^ 蔵満逸司、『奄美食(うまいもの)紀行』p95、2005年、鹿児島、南方新社、ISBN 9784861240508
  17. ^ a b c 久留ひろみ、濱田百合子、「与論島の郷土料理」『奄美の食と文化』pp178-181、2012年、鹿児島、南日本新聞社、ISBN 978-4-86074-185-3
  18. ^ 鹿児島県 (2009年6月17日). “かごしまの伝統野菜 有良だいこん(あっただいこん)”. 2015年1月15日閲覧。
  19. ^ a b c 久留ひろみ、濱田百合子、「沖永良部島の郷土料理」『奄美の食と文化』pp174-177、2012年、鹿児島、南日本新聞社、ISBN 978-4-86074-185-3
  20. ^ 与那国町商工会の登録商標。登録3315327ほか。
  21. ^ 澄川盛昭の登録商標。登録5379620。
  22. ^ 高橋宙之、田畑耕作、田中征勝 「鹿児島県におけるフダンソウ在来種の調査と収集 (PDF, 723 KiB) 」『植探報』Vol.19 pp. 27–35、2003年、つくば、農業生物資源研究所
  23. ^ 鹿児島県 (2009年6月17日). “かごしまの伝統野菜 フル(葉にんにく)”. 2015年1月15日閲覧。
  24. ^ 蔵満逸司、『奄美食(うまいもの)紀行』p94、2005年、鹿児島、南方新社、ISBN 9784861240508
  25. ^ 蔵満逸司、『奄美食(うまいもの)紀行』pp110-113、2005年、鹿児島、南方新社、ISBN 9784861240508
  26. ^ 喜界島方言ですーきは料理、ご馳走の意味
  27. ^ 鹿児島県大島郡喜界町、『おいしいたのしい喜界島』pp22-23、2011年、喜界、喜界町保健福祉課
  28. ^ 国土交通省「平成17年度奄美群島生物資源等の産業化・ネットワーク化調査」. “奄美群島生物資源Webデータベース ヒラミレモン”. 奄美群島広域事務組合. 2014年10月26日閲覧。
  29. ^ 奄美新聞社 (2012年11月16日). “キウイフルーツの仲間  「クガ」の実たわわ”. 2015年11月16日閲覧。





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