1976年著作権法における内容と判断
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「フェアユース」の記事における「1976年著作権法における内容と判断」の解説
1976年制定の著作権改正法 (1978年1月1日より施行) では「批評、解説、ニュース報道、教授(教室での利用のための複数のコピー作成行為を含む)、研究、調査等を目的とする」場合のフェアユースを認めているが、著作物の利用がフェアユースになるか否かについては少なくとも以下のような4要素を判断指針とする。なお、下で示された4要素はあくまで例示に過ぎず、5つ目以降の要素を検討することも認められている。 利用の目的と性格(利用が営利性を有するか、非営利の教育目的かという点も含む)利用が営利性を有すると認められたならば、フェアユースの成立を否定的に、非営利であれば肯定的に見積もり、他の要素の判断を行う。非営利と認定されれば原告が、営利と認定されれば被告がそれぞれ「著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響」を立証する必要がある。また、トランスフォーマティブな利用(transformative use、「変形的利用」などと訳され、元の著作物の市場との衝突が少なく、元の著作物には存在しない付加価値をつけた利用をさす。パロディーが代表例として挙げられる。)については商業的であっても非営利である場合と同じく、原告が「著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響」を立証する必要がある。 なお、全ての会員がアクティベーション解除やアップロードなど、いずれかの作業を分担することで、著作権が存続しているソフトウェアを共有する会員制のウェブサイトを運営していた被告が「大学教授が、利用者から対価を受け取らず、大学構内にサーバーを設置して運営していたため、教育目的の非営利だ」と主張した裁判において、分担しなくてはいけない「いずれかの作業」を実行する労力の提供を「営利」と認め、フェアユースの成立を否定した判例が存在する。また、正規に著作物の複製を入手する費用を節約するための私的な複製も「営利」と認められている。 ただし、単に営利的・非営利的というのみで決定されるものではない。名誉毀損を目的とする広告に対抗するべく、支持者から寄付を募るために同広告を100万部に渡り複写し送付した事例では、利用の目的が資金を集めるという営利的なものではあったが、それ以上に「広告への対抗」である点を重視しフェアユースを認めた。 著作権のある著作物の性質著作物の内容が事実を伝えたり(例えば、書式が限られる学術論文)、単にある機能を果すだけの著作物(例えば、地図)であれば、その著作物の使用にフェアユースが認められる公算は高くなる。反対に著作物の内容が芸術性を多分に帯びたもの(例えば、小説)であれば、フェアユース成立の蓋然性は低くなる。利用が極めて困難な絶版などの理由があれば、それもフェアユース成立に有利に働く。公表権を侵害した場合はフェアユースの成立に悪影響を及ぼすが、決定的な要因たりえず、この事実のみでもってフェアユース成立が否定されることはない(#1992年の改正も参照)。 著作物全体との関係における利用された部分の量及び重要性一般に、著作物の使用量が少なく、また、使用箇所が著作物の核心的部分に触れていない場合、フェアユースが認められやすくなる。ただし、単に量のみが斟酌されるのみならず、目的の達成に必要な量を超えて使用したかが焦点となるため、状況によっては完全な複製であってもフェアユースが認められることはある。使用箇所が著作物の核心的部分に触れると量によらず、フェアユース適用に対して負に働きうる。 著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響複製物の使用が市場(潜在的な市場を含む)に悪影響を与える場合、フェアユースの成立を不利にする。 1976年の著作権改正法は著作物の無断利用がフェアユースとされる場合の要件を大まかに規定しており、判断指針として条文化されているに過ぎない(これに対し、§108以下の規定に基づく著作権の制限は準則として示されている)。このため、フェアユースになるか否かは個々のケースについて裁判所が判断する。またこれらの判断要素についてはある要素が他の要素より重きを置くことを要求されておらず、フェアユースになるか否かはこれらの要素を総合的に判断することによって決めることになる。ただし、実際上は4番目の「市場への影響」が最も重視されることを多く、裁判所もその事実を認めている。 このようにフェアユースの法理は抽象的な判断指針として示されているに過ぎず非常に曖昧な点があるため、個々のケースについて著作物の無断利用が著作権侵害になるのか否かに関して訴訟で深刻な争いが起きやすい。例えば日本の著作権法には私的使用のための著作物の複製に関する規定が存在するが(著作権法30条)、米国著作権法には同旨の規定が存在しない。そのため、テレビ放送の私的使用のための家庭内録画が著作権侵害になるか否かにつき深刻に争われたことがある(Sony Corp. of America v. Universal City Studios Inc., 464 U.S. 417、いわゆるベータマックス事件)。 なお、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約を批准しているアメリカ合衆国は同条約第九条第二項で示されたスリー・ステップ・テスト(英語版)に合致した条件で著作権制限規定を盛り込み、施行せねばならず、「特別の場合について」というベルヌ条約の定めを遵守しているのかという疑問が、学者から提起されることがあるが、加盟国からフェアユースについて異議が提出されたことはない。また、学説の通説も「米国法のフェアユースはスリー・ステップ・テストに反しない」とする解釈が大多数を占めている。
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