食事の支度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 15:33 UTC 版)
あらゆる料理は加熱処理された。コンロが出現するのは18世紀になってからであり、それ以前の調理人は直火での調理法に頭を痛めていた。オーブンは使用されていたが、設備に出費がかさむためかなりの大家族かパン屋にあるだけだった。共同体にとり一般的だったのは、一つのオーブンを共同で所有し、誰にとっても重要なパン焼きを共同体の作業と位置づけることだった。移動可能なように設計されたダッチオーブンもあり、食物で一杯にしてから赤く焼けた石炭に埋めて加熱された。これより大きなものになると下に車輪をつけ、中世の街角でパイ売りが使用した。だが多くの人々は、簡素なシチューポットで調理を済ませることばかりであった。というのもこれが薪をもっとも効率よく使え、かつ煮汁を無駄にしない方法だったからで、ポタージュやシチューがもっとも一般的な料理だった。多くの証拠によれば、中世の料理は脂質を購入できるかぎりにおいてきわめて高脂質であった。中世は過重労働や飢饉が横行していたため肥満体が志向された時代であり、痩せていたのは貧民・病人・敬虔な苦行者だけだった。 中世の中東料理と同じく、肉・魚・卵と果実がつねに組み合わされた。イングランド王リチャード2世付の料理長が残したレシピ集『フォーム・オブ・カリー』(Forme of Cury)にある魚のパイ(Tart de brymlent)のレシピをみると、イチジク・レーズン・リンゴ・セイヨウナシ・インシチチアスモモと魚(タイセイヨウサケとタラの幼魚かハドック)がパイ皮の中で渾然としている。さらに重要なのはこの料理が現代の医学や食事療法学の観点からもバランスが取れていることである。この意味は、素材・調味料・スパイスを適切な組み合わせで混ぜ下準備し、その料理において本来の持ち味を引き出したに違いないということだ。例えば、魚は冷湿性なので熱く乾燥したスパイスを調味に用いて揚げ物・オーブン焼きなどの調理法で加熱・乾燥させるのが一番であると考えられた。また牛肉は熱乾性のため煮るべきであり、豚肉は熱湿性なのでつねに炙り焼きにすべきである、などである。 レシピ集のなかには代替の素材を選んだものもあるが、そこでは味よりも体液の性質に重点をおいている。カリンのパイのあるレシピではキャベツでも代用でき、別のレシピではナシをカブで代用できるとされた。 食べられる練り込みパイ生地がレシピに出現するのは15世紀である。それ以前に存在していたハフ・ペースト(huff paste)は小麦粉と脂身を熱湯でこねた生地で包んだパイだが、焼き上がると外側が大変固くなるため、中身だけを食べて肉汁のしみ込んだ外側は食事の後で召使いに与えた。残存しているレシピ集によれば、中世後期には美食術が急速に発達した様子を見ることができる。練り込みパイや卵白を使った透明なゼリーなどの新しい技術は14世紀後期に現れはじめ、レシピも熟練した料理人の備忘録としてのメモから詳細にわたる指南書となりはじめる。
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