蔵書印の形態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 02:32 UTC 版)
印の色 朱色(朱印)がもっとも多く、次に墨色(黒印、墨印)が多い:78,80。朱は経年劣化による褪色をしにくいため実用的にも優れ、見た目の上でも墨と紙の色によく調和するためよく使われた:76-79,80-82。一方、本来は朱は高貴な色、公的な行事のための色とされ私用に使うべきではないとされていたことから、黒も用いられた:76-79,82。禅の影響を受けた室町時代の日本では、華美さを避けて黒印が使われる傾向が強まったといわれる:79。桃山時代以降には顔料精製技法の発展を受けて、岩本活東子の「家在縁山東書会待賈堂」印や「美織屋文庫」印のような藍色の印、浜松校「克明館蔵書」印のような青色の蔵書印も出現した:79-80。ほかに黒、緑、梔子色などがある。近代の図書館においては書物の原状を保存する観点から、浮き出し印や空押し印(エンボッシング)を使うことがある:100。 印文 所有者の名前や号のあとに「蔵書」「蔵」「架蔵」「図書」「之印」「文庫」などの語句を加える印文が多い。特に、図書館の蔵書印はこのような定型的な印文をとる。居住地や出身地などの地名を加えたものも、特に中国の印にはよく見られる:50-51。個人の蔵書家の印には、詩句や和歌、利用者や後世の人々へのメッセージを記したものなど、様々な印文の遊印が見られる:70-73。 書体 文字は一般の印章と同じく秦の八体にはじまる中国の古書体による漢字を基本とするが、より新しい楷書、行書、草書や連綿体平仮名なども用いられ:70、まれにラテン文字も見られる)。特に国学者のものには、平仮名、片仮名、万葉仮名、神代文字を用いたものが多く見られる:40。 印の形と大きさ 文を枠(郭)で囲う様式が一般的。郭の形は古印では正方形がほとんどだが、円形もある:70-71。平安時代以降は、短冊形の郭、二重郭なども使われるようになった:72。その他には、俵型、楕円形、菱形、瓢箪型、鼎型のものも見られる。大きさは15cm角程度の大きなものから、6mm角程度の小さなものまである。図書館では見逃されないように大型の印を用いることが多い。 印材 印材としては、銅、鉄、金、銀、玉、石、陶、木、竹など様々なものが使われる。奈良時代、平安時代のものは金属が多い。近代の図書館では木印や水牛印が多く、より安価なゴム印も用いられる。 捺印位置 蔵書印が本の上で捺される位置としては、表紙、見返し(表紙の裏面)、遊紙(表紙の次に入れられることのある白紙)、巻頭、巻末などがある:91-92:79。和漢書においては巻頭付近が多く、なかでも巻頭紙にある書名の下または上の余白、欄の上部、欄外余白がよく使われる:92-95。洋装本の場合、基本的に標題紙の表か裏、もしくは遊紙に捺す:98。巻末の余白に捺されることもあり、その場合はしばしば余白の中央に捺される:51-52。本の紙面に直接捺すのが基本だが、紙片に捺して蔵書票として貼りつけることもある 多数の人の手を経た書物の場合、書名の下の欄内で、最初の所蔵者の印を一番下として順に上に向けて積み上げていく:51-52か、もしくは書名の直下から下に向けて続けていくことが通例となっている:51-52。同一所蔵者が位置をずらして1冊に複数の印を捺すこともあり、たとえば乾隆帝は、『快雪時晴帖』など愛蔵した書画に10以上の印を捺した。 本文にかからず、旧蔵印と重ならないように捺すのがよいとされる。 様々な蔵書印 伴信友(1773年 - 1846年)が貸し出す本に捺した蔵書印のひとつ:315-316。「この文を借りて見む人……」と借り手に呼びかける和歌が印文にある。 今井似閑(1657年 - 1723年)が上賀茂神社への奉納本に捺した印:63。印文は「上鴨奉納」:63。瓢箪型の墨印。 林羅山(1583年 – 1657年)の蔵書印のひとつ。印文は「羅山」。長方形の朱印。 林羅山(1583年 – 1657年)の蔵書印のひとつ。印文は「江雲渭樹」。短冊形の朱印。
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