蔵書印の役割と用法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 02:32 UTC 版)
所蔵者の明示 押捺された品を帯出したり譲り受けた人にもともとの所蔵場所・所蔵者を知らせ、その品の散逸を防ぐことが蔵書印の主な機能である。このため、蔵書印が捺されるのは単なる蔵書ではなく貸し出すことを前提とする蔵書であることが多い。 鑑定眼に定評のある旧蔵者が示されていれば、その書物が善本であること、内容の信憑性が高いこと:62のあかしにもなりうる。また、著名人の所有物であることを示す蔵書印の存在によって、捺された本の収集品としての価値が高まることもある:53-54:220。 蔵書印は所有者が変わるたびに加えられていくため、書誌学においてはその図書・書画の遍歴を解明するための手がかりのひとつとして使われる。本来は所有者自身が固有の印を捺印するものとされるが、記録や整理のために後世の人間が過去の所有者の名の印を捺す場合:44-49、伝来を偽り貴重なものであるかのように見せかけて販売するために捺す場合、親子代々同じ蔵書印を共有する場合、借用した本に借り手が捺した印:44-49などもあり、容易に実際の旧蔵者が同定できるとは限らない。そのため、持ち主が知られていない印と本も多く残っている。 借り手や後代の所有者への注意 所蔵者の署名とともに、貸し出し中の取り扱いを注意する文、返却を催促する文や、死後のその書物の取り扱いを指示した文などが加えられた蔵書印もしばしば見られる:44-49:32。この種類の蔵書印としてよく知られているものに、「コノフミヲカリテミムヒトアラムニハ ヨミハテテトクカヘシタマヘヤ」と刻まれた伴信友の印、 「勿折角勿巻脳勿以墨汚勿令鼠噛勿唾幅掲」(角を折るなかれ、脳を巻くなかれ、墨を以て汚すなかれ、鼠をして噛ましむるなかれ、幅に唾して掲るなかれ)と刻まれた青柳文蔵の印、 「またがしはいや 阿べ喜任」(「又貸しは嫌」)と刻まれた阿部櫟斎の印:48-49、 「我死ナハウリテ黄金ニカヘナヽムオヤノ物トテ虫尓ハマスナ 長澤伴雄藏書記」(「我死なば、売りて黄金に換えななむ。親の物とて虫に喰ますな」)と刻まれた長沢伴雄の印:48-49 などがある。 芸術的価値と美観 愛書家をはじめとする個人の蔵書印のなかには、所有者を明らかにするという実用性を超え、その書物への愛着を表現するために意匠や印文に工夫を凝らして作られたものがある。雅な蔵書印はそれ自体が芸術的価値を生んだり、本の美しさを引き立てたりすることがあるとされる。逆に、無思慮な蔵書印は本を汚すことにつながりかねない。そうしないための注意点としては、本の装丁と調和のとれた意匠の印を選ぶこと、無闇に複数の印や大きすぎる印を捺さないことなどが挙げられる:137:。 印の使い分け 蔵書印には、蔵書への捺印専用に作られたものと、他の目的の印が流用されたものとがある。流用される印としては認印や落款印がある:43-44。 同一の所蔵者が複数の蔵書印を持ち、対象書籍の種類や大きさなどによって使い分けることもよく行われる。 図書館における用法 図書館は、利用者にとって借りた本と私物との区別がつきやすいようにするためと、盗難にあった際に発見されやすくするために、館名を入れた蔵書印を捺す。新しく蔵書とする本には、登録と同時に蔵書印を捺し、廃棄などのため除籍する際には取り消し線などで印を無効にする:214,231。図書館蔵書での蔵書印は、利用者に私物と図書館の蔵書とを混同されないようにすることが目的であり、しばしば大型の目立つ印が標題紙や奥付に捺される。 蔵書印の偽造 名家の旧蔵品であると判断されると本の商品価値が上がることなどから、偽の蔵書印が捺された本がある:53-54。たとえば、金澤文庫印には偽印と鑑定された例が多くある。
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