競走生活からの引退
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/29 13:59 UTC 版)
競走馬が引退する時期については、種牡馬や繁殖牝馬としての期待の大きさや健康状態、馬主の意向など様々な要因が作用する。なお、現在の日本においては、競走生活を引退した後に種牡馬または繁殖牝馬として産駒を生み出した馬が、再び競走馬となることはできない(過去には、かなり昔の例ではあるがヒサトモや、オンワードゼアの様な例がある)。 競走生活を引退した馬のその後の用途・生活としては、 種牡馬や繁殖牝馬 競馬場の誘導馬 馬術競技 乗馬 競走馬の育成や、農業系学科の教育機関(高校・大学)の実習などに従事する使役馬 警察騎馬隊への入隊(京都府警察・平安騎馬隊、皇宮警察本部・騎馬隊、警視庁交通部第三方面交通機動隊・騎馬隊) などの選択肢がある。この他に馬主の飼い馬になったり、生産牧場や観光施設などで功労馬などとして飼われたりする場合もある。また、乗馬の一部であるが、相馬野馬追(相馬市)の様な伝統的な馬事文化が存在する地域や草競馬が盛んな地域では、これに参加することを目的とした個人に繋養される馬も少なからず見られ、その多くは元競走馬である(ごくまれに元競走馬が再度競走馬登録して復帰する例もある。2010年のばんえい競走では、11歳で草ばん馬に転向し一旦競走馬登録を抹消されたものの、各種の事情が重なり2年後に再度競走馬登録し勝利を挙げたゴールデンバージや、2013年のホッカイドウ競馬では当初は競走馬を目指そうとしたが諸事情で未出走で登録抹消しエンデュランス馬術競技用の乗馬に転向したものの、13歳で再度競走馬に転向、能力検査に合格し競走馬になったマーチャンダイズの例が存在する)。 日本における競走馬登録抹消の主な理由は以下の通りである(2001年の統計)。 1位 時効 - 3991頭、 2位 乗馬等 - 2886頭 3位 繁殖 - 1319頭 1位の時効は地方競馬のみに存在するシステムであるが、これには大きく分けて2つの理由が存在する。 馬齢による出走制限(定年制度) 長期間の不出走による競走馬登録の自動抹消 定年制度は南関東地区など一部の競馬場が定めているが、定年を迎えた馬であってもまだ競走で好勝負が可能と判断された馬の場合、競走馬登録を抹消せずにホッカイドウ競馬などの定年制度を定めていない地区に転籍して現役を継続することが見られる。不出走によって自動抹消となるまでの期間は、競馬場毎に多少異なるが多くは2年程度である。また、1年以上出走していない競走馬については、毎年4月と10月の2回、馬主などの関係者に出走継続の意思の有無について確認を行い、出走意志がある場合は関係者が所定の手続きを行うことになるが、この手続きによる意志表示が確認できなかった馬は時効による自動抹消の対象となる。 後2者はいわば再利用という形で第二の人生(馬生)を歩むことになるが、時効を迎え、もしくは充分な競走能力がないことが判明し、かつ引き取り手のいない馬の場合には、日本やフランスなど馬食文化が存在し、馬を飼っておく場所が限られる国・地域においては、かなりの割合が食肉(動物飼料・加工用、一部人間用)として処分されることになる。乗馬などの場合においても、皐月賞馬ハードバージのように使役馬として酷使された結果、斃死した例もある。また、競走馬を乗馬に調教するためには少なからぬ手間と費用を必要とし、調教が成功したとしても初心者に乗りこなすのは難しい。日本においては、名目上乗馬に用途変更された馬であっても実際には消息不明になることが多く、その大部分はやはり屠殺されていると言われる。 軽種馬の統計上、用途変更に関する統計は存在するため競走用から乗用、使役用などに転用となる数は明らかだが、食肉用という分類が存在しない。肥育用という分類は存在するが、肥育用馬の統計には馬の種類の区別がないため、競走馬が最終的にどれだけ食用になったかを示す統計は存在しない。なお、JRA が、海外に居住しながら JRA の馬主登録を行う本邦外居住者馬主申請者向けの資料によると、「日本には、フランス等と同じく馬肉食の文化があり、引退した競走馬についても一部加工食品の原料として利用される場合もあります。」と明記しており、これまで公然の秘密であった引退後の競走馬の食肉用途への転用が間接的ではあるがJRAも認知していることが裏付けられる。 『朝日新聞』によると、日本では年間約5000千頭の競走馬が引退し、このうち繁殖用などで余生を送るのは1200頭ほどで、多くの引退馬は命を絶たれている。 欧米においては馬に余生を安楽に過ごさせるための牧場が設置されているが、経済的問題や用地・人材確保の問題があるため、こういう場所で余生を送ることができる馬はごく一部に過ぎない。岡山県吉備中央町はふるさと納税による寄付も活用して、地元の岡山乗馬倶楽部と連携し、気性の荒い競走馬をアニマルセラピーや神事向けに再調教している。引退競走馬のファンが集まる日本サラブレッドコミュニティクラブ(TCCJAPAN)がJRA栗東トレーニングセンター(滋賀県栗東市)近くで、アニマルセラピーなど引退競走馬との交流を行う施設「TCC PARK RITTO」の開設を計画している。 アメリカは国内での屠殺は馬の頭数を考えれば比較的少ないが(馬食文化がないことや、馬肉の供給がしばしば違法であるため)、実際にはアメリカ国外に移送してから屠殺されているという。近年、アメリカでは屠殺及び屠殺目的の輸出を全面的に禁じようとする動きも見られる。 オーストラリアでは、競馬統括団体が馬主に対して競走馬が引退した後の計画を報告する義務を課しているほか、ニューサウスウェールズ州などでは全ての競走馬に引退後の引き取り先を用意するよう定めている。しかしながら、引退後の引き取り先から行方不明となる馬が半数近く存在すること、多数の元競走馬を食肉として処理する施設が存在し、国外へ馬肉が輸出される実態がある。
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