演技
『人間失格』(太宰治)「第一の手記」~「第二の手記」 人間の営みがわからない、空腹感すら理解できない「自分(大庭葉蔵)」は、自らの異質性を隠蔽するために幼い頃から道化を演じ、家族や級友を笑わせていた。ところが中学校の体操の授業で、「自分」が鉄棒につかまりそこねて砂地に落ち、皆を笑わせた時、竹一という低能の級友が「ワザ、ワザ」と囁いて、それが演技であることを見抜いた。
『十訓抄』第10-77 白河院の時、九重塔の金物に牛の皮を使ったとの噂が立ち、修理担当の定綱朝臣が問責されそうになった。院が、噂の実否を確かめるため仏師を塔に登らせると、仏師はおびえ、塔の半ばから返り降りてしまった。院は笑い、定綱問責の件も沙汰止みになったが、実はこれは、仏師がわざと臆病なふりをして定綱を懲罰から救ったのだった。
『黄金伝説』55「聖アンブロシウス」 裁判官アンブロシウスは、町の人々から司教になるよう請われる。彼は人々の考えを変えさせるため、大勢を拷問にかけたり異教徒のふりをしたり、果ては、娼婦を公然と家に入れるなどのことをする。
『閑居の友』上-12 近江国石塔の中年僧が、ある後家の宅を常に訪れ、女犯の噂がたって寺房を追い出される。実は、人との交わりを避けて念仏・観想に専心するため、ことさら破戒僧のごとくふるまったのだった。
『撰集抄』巻2-4 師大納言経信のもとを60歳ほどの僧が訪れて物を乞い、「女と関係して寺を追われた」と述べて去る。この僧は花林院の永玄僧正で、遁世の志深く、官主にされそうになったのを嫌い、寺を出て流浪していたのだった。
『発心集』巻1-11 老年の聖が40歳ほどの後家を妻に迎え、6年後に死ぬ。その間夫婦の交わりはなく、法門を談じ念仏を唱えて、臨終時には仏像の手に5色の糸をかけ、眠るごとき最期であった。
『発心集』巻1-12 美作守顕能のもとを僧が訪れ、愛人が懐妊して産み月にあたるので、と述べ食物を請う。深谷の庵に帰った僧は「仏のお助けで安居の間の食料を得た」と独り言して、夜もすがら『法華経』を読む〔*『古事談』巻3-104に同話〕。
『仮名手本忠臣蔵』9段目「山科閑居」 加古川本蔵は、塩冶判官が殿中で高師直を斬ろうとするところを、抱きとめた。そのことで塩冶の家来たちは本蔵を恨み、大星由良之助の息子・力弥と、本蔵の娘・小浪との婚約が破棄された。雪の日、本蔵は山科の由良之助を訪れて、ことさらな悪口雑言を吐き、怒った力弥の槍にわざと刺される。本蔵は、「私が死ぬことで、これまでの恨みを捨て、娘・小浪を力弥の嫁として受け入れてほしい」と請う。
『源平布引滝』3段目「九郎助住家の場」 源氏の白旗を守る小万は、琵琶湖で、白旗を握る片腕を斬り落とされて死んだ(*→〔片腕〕2a)。引き上げられた小万の遺体を、平家方の瀬尾(せのお)十郎兼氏が足蹴にし、小万の子・7歳の太郎吉が怒って刀で瀬尾を刺すように仕向ける。実は、瀬尾は小万の父であり、彼は、孫にあたる太郎吉に初手柄を立てさせようとしたのであった。
『摂州合邦辻』「合邦内」 俊徳丸殺害の陰謀を知った継母玉手御前は、彼を救うために、偽りの恋をしかけ毒酒を飲ませて、癩病にさせる。玉手は父親の眼前で俊徳丸に迫り、父の刃にわざと刺される。寅の年・寅の月・寅の日・寅の刻に誕生した玉手の血を用いれば、俊徳丸の病気は本復するからである。
『南総里見八犬伝』第4輯巻之3第36回~巻之4第37回 指名手配中の犬塚信乃を、犬田小文吾がかくまう。小文吾の義弟にあたる山林房八が「役所へ訴え出る」と言い、小文吾に斬りかかる。しかし房八は、逆に小文吾に斬られて倒れる。それは房八が望んだことであり、彼は命を捨てて信乃を救うつもりだった。房八は小文吾に、「こうでもせねば、お前はおれを斬るまい。おれの顔は信乃に似ているから、おれの首を信乃だといつわって差し出せ」と言い残し、死ぬ。
★5.いつわりの恋。
『戯れに恋はすまじ』(ミュッセ) 男爵の1人息子ペルディカンは、従妹カミーユの気をひくために、カミーユの乳姉妹である村娘ロゼットに恋をしかける。ロゼットはペルディカンとの結婚を夢見るが、ペルディカンの求婚が一時的な気まぐれに過ぎなかったことを知って自殺する。
『藤十郎の恋』(菊池寛) 傾城買狂言の名手坂田藤十郎は新たな芸境を拓くべく、人妻と命がけの不義をする茂右衛門役に挑む。演技の工夫のつかめぬ藤十郎は、茶屋の一室で人妻お梶にいつわりの恋をしかける。しかし、お梶が覚悟を決めて行燈の灯を消すと、藤十郎は逃げ去る。興行が始まって藤十郎の芸は大評判をとり、お梶は縊死する。
品詞の分類
Weblioに収録されているすべての辞書から演技を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から演技を検索
- >> 「演技」を含む用語の索引
- 演技のページへのリンク