日本における漁師
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/09 11:24 UTC 版)
漁業法上の定義 漁師という言葉は標準的な日本語であり、漁師自身も「漁師」という言葉を使うが、漁業法制上では「漁師」や「漁夫」という語は見られない。 漁業法では、「漁業者または漁業従事者たる個人」のことを漁民と定義している(14条11項)。この漁業者、漁業従事者について、同法は、「漁業を営む者」を「漁業者」と定義し、「漁業者のために水産動植物の採捕または養殖に従事する者」を「漁業従事者」と定義している(2条2項)。この定義にしたがえば、漁業者は漁業の経営者であり、漁業従事者は漁業者に雇用されている者を指すことになる。 沿岸漁業などでよくみられる家族規模でおこなう漁業では、家長以外の者は漁業従事者に類される。また、沖合漁業や遠洋漁業で顕著であるように、大型船舶を所有する水産会社に雇用されて出漁し、その会社から給与を得ている者もまた、漁業従事者である。 仕事内容 定置網漁では夜のうちから出港し、網の設置や引き揚げ、魚の選別、網の修理、漁船の清掃などを行う。 まき網漁は数隻のチーム編成で行うのが一般的で、魚群を探す「探索船」、魚群を集めるために光を灯す「灯船」、魚を獲る「網船」、魚を運ぶ「運搬船」のいずれかに乗り込むことになる。夕方から出港し、夜間に1時間半程度の漁獲作業を複数回繰り返す。 カツオ一本釣り漁は沖合漁業と遠洋漁業の場合があり、沖合であれば数日間、遠洋であれば1~2ヶ月に及び漁を続ける。 現状と課題 水産庁ホームページによると、日本国内の漁業就業者数は、1953年(昭和28年)の約80万人を頂点に減少傾向が続き、2017年(平成29年)には15.3万人にまで落ち込んでいる。また、漁業従事者の高齢化も進んでおり、就業者全体の約3分の1が65歳以上である一方、25歳未満の若年就業者は全体の3%程度にとどまっている。 平均漁撈所得は1994年(平成6年)を境に減少に転じ、2014年(平成26年)では199万円となっている。これは、収入があまり伸びない一方で、油費などの支出が増加傾向にあることによる。こうした低所得を補うために、農業や民宿、食堂などを兼業している例も多い。 漁業が生業である以上、漁師もまたそれなりの経済的合理性と、従事者各人およびその被扶養者が生活を続けてゆける程度以上の利潤を長期的視点においてもたらすことは要請される。また、比較的大きな利潤を得られた一部の漁師の事例に惹かれて漁業を選択する者もいる。だが、陸上における生産生業とは異なり、漁業の場合、次のような諸点が経営リスクを高めている。 まず第1に、漁師は、豊漁・不漁による収益の不確実性にさらされている。移動性の高い魚類を漁撈対象とする場合や、回遊魚などを追いかける季節的漁業の場合に特にそのような不確実性は高いが、比較的経営が安定する養殖業の場合も、魚病の発生や、それを予防するための薬の投入によるリスク、漁場汚染の可能性などを考慮する必要がある。 第2に、漁船などの固定資産の投資比率が高いことが、漁師の漁業経営を圧迫する。経営規模の小さい沿岸漁業でよく使用されている5トン前後の高速小型イカ釣り漁船の場合、漁撈効率を高めるために集魚灯、超音響測深器、高性能魚群探知機、自動操縦装置などのハイテク漁業機器を装備すると、一隻3500から4000万円はかかる。そしてその償却に10年もかけられないため、高額のローンの返済に追われることになるという。 第3に、漁業資源そのものの枯渇化があげられる。漁船の動力化や大型化、合成繊維網の開発など、漁業の近代化は漁獲量・漁撈効率をいちじるしく向上させたが、その一方で、自然の再生産を上回るほどの乱獲が危惧されるようになって久しい。そうした傾向は、近年の日本以外の諸国における魚食ブームによって、さらに強められるのではと懸念されている。
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