サイバー犯罪条約 (2024年)
(新サイバー犯罪条約 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/05 22:05 UTC 版)
国連サイバー犯罪条約(ハノイ条約)(こくれんサイバーはんざいじょうやく、United Nations Convention against Cybercrime。通称、新サイバー犯罪条約)は、2024年12月の国連総会で採択された、国際的なサイバー犯罪に対策することを掲げて発案された条約[1]。ロシアが主導しており、表現の自由への制限や強権国家による市民への監視に利用されるのではないかと懸念されている[2][3][4]。
歴史
元々、サイバー犯罪を取り締まる条約として2001年に採択されたサイバー犯罪条約が存在しているが、この条約について、ロシアは西側諸国による不完全な条約であり、新たな条約の策定が必要であると主張していた[2]。この主張に基づき、2021年5月26日に、2023年までに新サイバー犯罪条約の草案を取りまとめる決議案が国連総会で採択され[5]、2022年にウィーンで交渉が始まった[2][6]。当初の決議案はロシアと赤道ギニアが共同提出していた[5]。
ロシアやグローバルサウスは条約を通じてインターネット上の活動に広範な制限を課すことに積極的であり、サイバー犯罪の被害が拡大している多くの途上国に技術協力するとして賛同を求める一方、欧米諸国は表現の自由への制限を危惧して慎重な姿勢を示し、交渉は難航していた[4]。
2024年8月8日に交渉が終わり、同年12月に採択された[3]。8月8日の採決の直前には、ロシアやベネズエラなどの同調を背景にイランが人権保護規定などの7条項を削除する提案をしたが、否決された[7]。2025年10月25日にベトナムのハノイで署名され、その後各国が国内手続として批准して締約国となっていき、40ヶ国目の締約国が生じてから90日後に発効する予定となっている[8]。
内容
締約国に、不正アクセスなどのサイバー犯罪を取り締まる国内法を整備することを要請している。また、発展途上国への技術支援についても定めている[1]。
第14条
児童性的虐待について規定された本条約の第14条は、架空の人物やフィクションについても対象が及び、日本の漫画・アニメ・ゲームの表現規制に繋がる恐れがあるとされている。日本の参議院議員の山田太郎は批准にあたり、これを実在する人物の描写に限定する旨を定めた「留保規定」と呼ばれる第14条3項を活用することを求めている[3]。なお第14条3項は、草案確定の直前である2024年8月に、イランとコンゴ民主共和国が削除を求めて動議を起こし、賛成51対反対94、棄権10で否決された。賛成国と反対国、棄権国は次の通りである[9]。
賛成
反対
棄権
反応
草案に先立ち、多数のテクノロジー企業を代表するサイバーセキュリティ・テック・アコードは、国連に対し、異議と勧告をまとめた書簡を提出し、その後、12の人権団体と共に公開書簡を発表し、「最終草案に盛り込まれた深刻かつ広範な懸念に対処するための大幅な変更がない限り、この条約を採択または批准しないよう各国政府に強く求める」と訴えた[10][11][12]。
ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの条約について、人権の保護が不十分であり、世界中のジャーナリストへの弾圧の手段となるとして各国に署名・批准しないように求めた[2]。
電子フロンティア財団は、この条約の第24条が監視権限の濫用に繋がる恐れがあるとして問題視している[13]。
デジタル権利団体アクセス・ナウは、この条約は「人権について口先だけで言っているが、実際の効果は欠如している」と述べた。また、「権威主義体制を勢いづかせており、国内外におけるデジタル弾圧を表面上の正当性で正当化している」と指摘した[14]。
参考文献
- ^ a b “サイバー犯罪取り締まり強化へ 国連初の条約採択、協力促進”. 時事通信社 (2024年8月9日). 2025年6月27日閲覧。
- ^ a b c d “国連総会で「サイバー犯罪条約」採択へ…ロシアが主導、政府監視に懸念”. 読売新聞 (2024年8月10日). 2025年6月27日閲覧。
- ^ a b c “そもそも「表現の自由」って何なのか?マンガやアニメにとんでもない規制をかけようとする新サイバー犯罪条約・14条とは?”. ダイヤモンド社 (2025年6月5日). 2025年6月27日閲覧。
- ^ a b “国境越えたサイバー犯罪取り締まる 新国際条約草案 国連で合意”. 日本放送協会 (2024年8月9日). 2025年6月27日閲覧。
- ^ a b “対サイバー犯罪で国際条約制定へ、国連総会で決議 言論封殺の懸念も”. フランス通信社 (2021年5月27日). 2025年6月28日閲覧。
- ^ “赤松健氏「派閥にも入らず、支持母体も持たない。献金も受けない。そこまでしなければ“表現の自由”は守れない」…規制には“エビデンスが必要”と持論も”. ABEMA (2022年8月18日). 2025年6月27日閲覧。
- ^ “サイバー犯罪捜査へ国際協力 国連総会特別委が条約草案を採択、西側「主導権取り戻した」”. 産経新聞 (2024年8月9日). 2025年6月28日閲覧。
- ^ “UN Cybercrime Convention - Article 65: Entry into force”. United Nations. 2025年6月30日閲覧。
- ^ (英語) (pdf) A/78/986 - General Assembly. the United Nations. (2024). pp. 6-7 2025年7月4日閲覧。.
- ^ Ravaioli, Edoardo (2024年7月29日). “Tech Accord urges changes in flawed final draft of UN Cybercrime Convention, to safeguard security, tech workers, and uphold data and human rights” (英語). Cybersecurity Tech Accord. 2025年5月25日閲覧。
- ^ “Open Letter from Civil Society and Industry Stakeholders on the Final Draft of the Convention on Cybercrime”. Cyber Tech Accord (2024年8月8日). 2025年6月29日閲覧。
- ^ “UN committee approves first cybercrime treaty despite opposition” (英語). euronews (2024年8月9日). 2024年8月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年6月29日閲覧。
- ^ “国連「サイバー犯罪条約」に猛反発の声、「監視権限の乱用を許す」”. フォーブス (2024年6月19日). 2025年6月27日閲覧。
- ^ Zaghdoudi, Aymen (2024年11月27日). “Lessons from the Arab region for UN cybercrime convention” (英語). Access Now. 2025年5月25日閲覧。
関連項目
外部リンク
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