文化ウイルス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/15 06:19 UTC 版)
文化ウイルスには、テレビCMやテレビ番組、ジャーナリズム、政府、宗教、迷信などが含まれる。こういった文化ウイルスは、進化の力により自然発生したものである。ウイルスの進化は、ウイルス同士による心の争奪戦によって決められていく。より多い人々の心に複製を作れたウイルスが生き残り、それができないウイルスは消えていく。つまり文化要素は全て、それ自身を永久に存続させる方向へと進化するのである。 ウイルスは、私たちの注意を強く引くものほど生き残りやすい。注意を引くものは、私たちに強い感情を引き起こすものである。例えば、危険、食べ物、生殖等に関するミームは、私たちに強い感情を引き起こす。あるいは、私たちの「何かに属したい」という衝動や権力への追従といった衝動などを利用すれば、人の強い感情を引き起こして注意を引くことができ、進化の上で有利である。 以下に文化ウイルスの例をあげる。 テレビCM テレビCMは競争によって、自然に進化してきた。その過程でCMは、製品の利点を論理的に解説するよりも、音楽や映像などを用いて感覚に訴えるものに進化していった。例えば、トロイの木馬のやり方で、音楽を楽しんでもらいながらミームを心に送り込むのである。 そして製品といい気分の関連づけミームを視聴者の心に作る。つまりテレビCMは、人々が製品を見た時によい気分になるように、心をプログラムするのである。 成功するテレビCMは、人々に強い感情を引き起こすものである。例えば、性的な刺激を使う。また、笑えるCMでいい気分にさせたり、「同類の人」ミームで視聴者に一体感を持たせたり、その製品がずっと昔から作られているという伝統ミームを用いたりする。 テレビCMが人々の生活に悪影響を与えるとしても、CM制作者が陰謀を持っているとは限らない。人間の意図がなくとも、ミーム進化によって文化は悪化しうるからである。 テレビ番組 テレビ番組も、視聴者に性的な刺激を与えたり、美味しそうな食べ物を映したり、権力者を映したり、世の中の危機や危険なものを映すように進化していっている。性、食べ物、権威、危機、危険といった本能に訴えかけるミームは、たとえ現実離れした内容であったとしても、私たちの注意を強く引くことができるからである。 テレビ番組に下品な内容が増えるのは、下品な内容は自己複製に優れているからである。 このようなマインド・ウイルスの進化が私たち人類にとってプラスになるとはかぎらず、有害になる場合もある。つまり、マインド・ウイルスは私たち人間にとって良いことか悪いことかという事とは関係なく進化していくのである。 ジャーナリズム ジャーナリズムは、マインド・ウイルスの温床で、大量の情報が毎日コピーされている。 ニュースメディアはビジネスとしてやっていける必要がある。したがって新聞の記事になるものは、新聞が売れる記事でなくてはならず、テレビニュースで報道されるものは、人々がチャンネルを合わせるものでなくてはならない。 新聞やテレビニュースは中立であることが求められているが、何をニュースとして選ぶかを決めるところで、既に偏りが生じている。なぜなら、例えば新聞は、もし「今日も特に変わったことはありませんでした」といったことを伝えていたら売れなくなってしまう。「今日も特に変わったことはありませんでした」というミームは、面白くないからである。 ニュースメディアが人々の注意を引きつけるもう一つの方法は、「私達の日常では普通でないこと」を報道することである。例えば私達の日常が平和な世界であったとしても、ニュースはたえず世の中の「危険」な部分を映す。私達の脳は、「危険」な事柄に強い感情を引き起こされ、注意を払う傾向がある。そうした脳の傾向により、ニュースメディアは恐ろしいニュースを報道するように進化するのである。 陰謀論 いわゆる陰謀論という文化ウイルスは、ある集団が陰謀を企んでいるのではないかという人々の想像によって生まれる。例えば、ジョン・F・ケネディの暗殺についてである。様々な陰謀論が生まれるのは、人間は意味のないことでも意味づけをして、無意味な問題を解決しようとする傾向があるからである。 ミームがある集団に広まるとき、その集団に陰謀があるように見えることがある。例えばテレビCMが視聴者を上手く騙すようなものが増えていったとして、CM制作会社や業界に陰謀があるのだろうか。そうかもしれないが、それが意図的に生まれたものではなく、単にCMを作る人たちの間でミームが進化した結果だとも考えられる。 一方、企業や政治家による本当の陰謀もあるが、陰謀に関わっている人間が、悪いことをしている自覚があるとは限らない。そうした行動をとるようなミームにプログラムされているため、自分たちを客観的に見ることが難しいのである。この例には、ウォーターゲート事件が当てはまる。 政府 政府は文化ウイルスである。権力は人々を命令に従わせるが、マインド・ウイルスは命令に従う仕組みを利用して感染していく。したがって、権力に従い命令を受け入れる人が集まるところでは、マインド・ウイルスがたくさんの人々へ感染することになる。 権力というのは、自分を存続させる方向へ進化する。なぜならどんな議員も、政治に影響を及ぼすには選挙で勝つことが必要であり、そのために議員は国にとって何が最善かというのではなく、自分が選挙で支持が得られるミームを選択するからである。もしそうしなければ、選挙に負けてしまう。そして議員に選挙資金を出してくれる団体のミームは、そうでない団体のミームよりも議員に選ばれやすい。こうした進化により官民癒着が生まれる。 ブラックマーケット 政府が何らかの売買を禁止すると、その物を違法に取り引きする市場、ブラックマーケットという文化ウイルスが生まれる温床ができる。例えばアメリカ合衆国における禁酒法のもとで密売されていた密造酒である。政府がある物の規制を厳しくするほど、ブラックマーケットにおける密売の価格が上がる。 ペット ペットは文化ウイルスである。ペットには侵入・複製・拡散と、マインド・ウイルスに必要な条件がそろっている。まず、ペットは可愛らしさで心に侵入する。そしてペットの遺伝情報は、血統が人間の手によって守られるので正確に複製される。そして社会に広まっていく。 人の脳は「子供を守りたい」という感情を持つ傾向があるが、ペットは、あたかもペットが自分の子供であるかのような感情を人に引き起こす。そしてペットという文化ウイルスが人に発する指令は、ペットの世話をすることである。 ペットはより可愛らしく、人に愛されるように進化してきた。人に可愛がってもらえなければ、ペットとして生きていけない。こうして、可愛い動物だけがペットとして選択されていく。 ただしマインド・ウイルスが全て有害だということではないので、ペットに対してミーム学が否定的であるという訳ではない。 キャラクター 日本社会で言う「ゆるキャラ」「アイコン」「アニメ」などのキャラクターをアメリカ社会ではミームと呼ぶ。
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