強化ベントの追設提案
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/30 07:31 UTC 版)
「福島第一原子力発電所」の記事における「強化ベントの追設提案」の解説
NRCの検討過程で問題となったのは同格納容器の容積の小ささで、全交流電源喪失事象が発生し、炉心の冷却設備が機能不全に陥った際、格納容器内に水蒸気が溜まり内圧が上昇、最悪の場合水蒸気爆発に至ることが懸念され、この対応策として強化ベントを施設することが考案された。検討作業結果は1989年1月に5項目の提案として纏められ、その中で「耐圧性を有するウェットウェルからのベント能力の確保」として明記された。その後、1989年7月5日にNRC決定がリリースされ、強化ベントについて次のように決定した。 *Mark-I型プラント所有者が自主的に耐圧強化ベントを設置する場合は、NRCスタッフはこれを承認する。耐圧強化ベントを自主的には設置しないプラントに対しては、プラント個別のパックフィット解析を行い、この結果、耐圧強化ベントのパックフィットが正当化された場合には、この装置の設置を要求する。 — 「Mark-I型格納容器問題について」『資源エネルギー庁』 このNRC決定に対して、当初東京電力は否定的で次のようなコメントを出した。 現時点で対策不要 東京電力の話今回の米国の動向については十分承知していた。日本の原子力発電所では事故発生防止を最優先に安全性が高められており、現実に炉心溶融など起こるとは考えられない。現時点では、そのような事故の影響を緩和する対策を講じる必要はないと考えている。 — 「原子炉沸騰水型に通気弁 米規制委員が決定 東電福島第一に影響」『福島民報』1989年7月7日朝刊7面 なお、『福島民友』も上記東京電力のコメントを報じたが、資源エネルギー庁から次のようなコメントを得ている。 米国の決定は、炉心溶融など、事故が発展して対応が不可能になるような事態を想定したものだが、一方で本来放射能を閉じ込めて外部に出さない格納容器の機能と矛盾する点もある。安全弁を設置した場合、格納容器の構造上に問題はないか、などの技術的な課題もあり、十分安全評価をした上で検討してみたい。(中略)通気弁の設置はもろ刃の剣。弁の誤動作によって事故が拡大してしまう可能性もあり、現在は炉心溶融のような過酷事故時に、格納容器の安全余裕がどれほど残っているかなど基礎的な勉強中の段階。 — 「沸騰水型に通気弁 米規制委決定 水蒸気事故を防止」『福島民友』1989年7月7日朝刊5面 なお、上記決定は仮に強化ベントを追設しないとした場合、他に有効な安全策を提示することを求めており、事実上強化ベント設置を義務付けるものであった。更に、米国でNRC決定が出された時点で西ドイツやスウェーデンでは強化ベントの設置を進めている段階にあった。『福島民友』は義務付けに対しては産業界から反発の声も出ると報じていた。一方、NRCによると「多くのMark-I型プラント所有者は耐圧強化ベントを設置する方向で考えている」状況であった。 NRCの決定を受け、日本側では資源エネルギー庁が1986年8月14日より「セイフティ21計画」を省議決定し、同計画の中でシビアアクシデント規制対応の体制を構築し、後のAM手順書に至る事故時の運転マニュアル整備に着手した(この当時欧米ではベント手順を含むマニュアルが整備されていることに対応したもの)。ここで、AMは2段階のフェーズに分けられ、強化ベントはシビアアクシデントに拡大してもその影響を緩和するフェーズIIに区分された。 なお、1990年1月に資源エネルギー庁は国内の代表的なBWR-4プラントとして本発電所を選定し、全交流電源喪失時の耐久能力要求時間、耐性時間を試算し資料として添付した。また確率論的安全評価 (PSA) も実施したが、当時の国内プラントの運転実績から炉心損傷確率そのものが一桁近く小さく、そのケースの1つであるベント操作に至る事故発生確率 が小さい値であったため炉心損傷確率の低減効果は小さいと評価された。このため結論として「(欧米と)同様の対策を直ちに反映させる必要性はないものと考えられる」とされた。 その後同庁はフェーズIのAMは整備したがフェーズIIについては強化ベントの有効性を確認したものの、設備対応が必要のことから導入を躊躇した。その後、1992年に「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネジメントについて」が原子力安全委員会にて決定された。一方、1999年までIAEAの事務次長を務めた原子力工学専門家ブルーノ・ペロードは、1992年に東京電力に対して、福島県に設置されているMark I型軽水炉の弱点である格納容器や建屋を強化し、水源を多重化し、水素爆発の防止装置をつけるように、などと提案したが、東京電力の返答は、GE社から対策の話が来ないので不要と考えているというものだった(下記のように限定的な対策は実施に移された)。 『読売新聞』はフィルター付きベントの設置を進めていたフランスと対比し「シビアアクシデント対策というと、『原発はそれほど危険』と反原発運動に利用されるとする政府の懸念がある」と匿名の日本国内研究者複数が指摘したとしているが、代表的な反原発運動家の高木仁三郎は『朝日新聞』に対し「対策の遅れは、積極的にやりたくないという業界の意向を反映したもの。(中略)こうした姿勢こそが問題」としている。また、反原発運動が当時の日本以上に盛んなドイツなどでフィルター付きベントが設備されたことについて「チェルノブイリ事故で盛り上がった反原発運動を鎮める狙いもあった」とむしろ原子力に対する疑いの目が安全強化を促した旨のコメントも報じられている。
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