嵯峨野觀光線とは? わかりやすく解説

嵯峨野観光鉄道嵯峨野観光線

(嵯峨野觀光線 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/19 04:47 UTC 版)

嵯峨野観光線
保津峡渓谷を走行する
嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車
基本情報
日本
所在地 京都府京都市右京区亀岡市[1][2]
起点 トロッコ嵯峨駅[3]
終点 トロッコ亀岡駅[3]
駅数 4駅[4]
開業 1991年平成3年)4月27日[4]
所有者 西日本旅客鉄道第一種鉄道事業者[5]
運営者 嵯峨野観光鉄道第二種鉄道事業者[5]
使用車両 嵯峨野観光鉄道#車両を参照
路線諸元
営業キロ 7.3 km[3]
軌間 1,067 mm[3]
線路数 単線[3]
電化方式 非電化[3]
閉塞方式 スタフ閉塞式[6]
保安装置 ATS[7]
最高速度 35 km/h (22 mph)[8]
テンプレートを表示
停車場・施設・接続路線
山陰本線嵯峨野線
京福嵐山本線
嵐電嵯峨駅
嵯峨嵐山駅
0.0 トロッコ嵯峨駅
嵐山駅
嵯峨野観光線
山陰本線
1.0 トロッコ嵐山駅
保津川
保津川橋梁 84m
3.4 トロッコ保津峡駅
保津峡駅
7.3 トロッコ亀岡駅
馬堀駅
山陰本線嵯峨野線

嵯峨野観光線(さがのかんこうせん)は、京都府京都市右京区トロッコ嵯峨駅[1]から京都府亀岡市トロッコ亀岡駅[2]までを結ぶ嵯峨野観光鉄道鉄道路線である[3]。日本初の観光鉄道である[9]

本項において、「新線」は現在の嵯峨野線、「旧線」は当線を指す。共用区間など特に区別の必要がない場合は単に「山陰本線」と表記する。

概要

1989年平成元年)3月に電化準備及び複線化のため新線に切り替えられて廃止された西日本旅客鉄道(JR西日本)山陰本線嵯峨駅 - 馬堀駅間の旧線を、1991年(平成3年)4月に観光専用の鉄道として再生した路線である[10]

開業前、年間輸送人員は22万人程度と予想されていたが、沿線が観光資源に恵まれていたことに加え、営業努力も実り、初年度は69万人を輸送[10]、その後も好調に推移し、2013年(平成25年)以降は年間輸送人員が100万人を超える人気路線となっている[11]。しかし、2020年令和2年)以降の新型コロナウイルス感染症流行の影響により約7割強を占めていたインバウンドの需要が消失、結果、2020年度(令和2年度)の輸送人員はピークの約36 %の46万人まで減少、同年度以降営業利益は赤字になっている。このため、2022年(令和4年)4月1日に収支改善の目的で開業以来消費税率変更以外で初めての運賃値上げを行なった[12]

路線データ

歴史

開業に至る経緯

1989年(平成元年)3月にJR西日本山陰本線嵯峨駅 - 馬堀駅間が電化準備及び複線化のため新線に切り替えられ、1899年明治32年)開業の旧線は廃線となった[10]。一方、JR西日本社内には経営基盤確立を目的とした線区別経営改善推進チームが1987年昭和62年)11月に設立されており、山陰本線については旧線を活用した活性化が検討されていた[14]。旧線は車窓景観が良かったことから、京都の新しい観光資源として復活の要望が京都府を中心に強く[11]、JR西日本社内で検討の結果、事業化に取り組むことが決定、1989年(平成元年)11月にJR西日本社内に嵯峨野線プロジェクトチームが発足し、運転再開に向けた準備が始まった[14]。運営母体となる嵯峨野観光鉄道がJR西日本の100 %子会社として[5]1990年(平成2年)11月に設立され[4]、同月末に鉄道事業免許が交付されている[6]。開業日が翌1991年(平成3年)4月に設定されたが、廃止以来使用されていなかった線路を短期間で整備するため、社員全員でレール枕木の交換、草刈りなどの作業が行われた[11]

年表

路線概況

路線はトロッコ嵯峨駅を起点とし、山陰本線を約900 m走行したのち、小倉山トンネル手前で新線と分岐、トンネルに一部かかる形で設けられたトロッコ嵐山駅から旧線に入る[14][26]。トロッコ嵯峨駅 - トロッコ嵐山駅間はトロッコ嵯峨駅のプラットホーム部を除きトロッコ嵯峨駅発、トロッコ亀岡駅発とも山陰本線の下り線を走行する[10][27]ため、後者では新線の上り列車と並走することがある。旧線は保津川に沿って進み、2箇所のトンネル、1箇所の鉄橋を超えたところにトロッコ保津峡駅がある[14]。途中の保津川橋梁までは保津川左岸、以降は終点まで保津川右岸を走行する[14]。トロッコ保津峡駅から大小6箇所のトンネルを超え、新線と合流する直前、馬堀駅から約500 mの地点が終点トロッコ亀岡駅である[14]。途中3箇所で新線の下を通過する[14]

全区間がJR西日本山陰本線に属し、JR西日本が第一種鉄道事業者として線路を所有、JR西日本の子会社である嵯峨野観光鉄道が第二種鉄道事業者として列車を運行している[5]

運行形態

トロッコ嵯峨駅 - トロッコ亀岡駅間の折り返し運転で、全て各駅停車である。トロッコ嵯峨駅 - トロッコ嵐山駅間は山陰本線の下り線を走行するため、開業から1994年(平成6年)までは一部列車はトロッコ嵐山駅 - トロッコ亀岡駅間の運転となっていた[10]休日・行楽期除く水曜日と冬期は運休する[28]

全列車「嵯峨野号」の列車愛称で運行される。ただしオープン車両「ザ・リッチ」の座席については「嵯峨野リッチ号」となる(「嵯峨野号」と同じ列車でありあくまで発券上の区分)。座席は全席指定席で、乗車1か月前よりWebサイトで予約を受け付けているほか、空席がある場合は当日券も発売される(指定席が完売している場合でも人数を限定して立席券を発売)[29]。かつてはJR西日本の京阪神の一部駅のみどりの窓口みどりの券売機プラスe5489でも発売されていたが、2024年1月いっぱいで終了した[30]

使用車両

JR西日本から譲受し、塗装などを変更したディーゼル機関車DE10形1104号機動力車とし、無蓋貨車トキ25000形を改造したSK100形客車5両を付随車および制御車として使用している[26][5]。両端駅に機関車を付け替える設備がないため、どちらの方向に運転される場合も機関車はトロッコ嵯峨寄りに連結される[31]

車両には平安ロマンをモチーフとした塗装を採用、平安の王朝色である緋色山吹色でまとめられ、客車の窓下にアールデコ風のの模様が入れられた[32]。また予備の動力車としてJR西日本所属のDE10形1156号機が同塗装にされている[33]

利用状況

トロッコ嵯峨駅 - トロッコ亀岡駅間7.3 km[注釈 2]の運行は1991年(平成3年)4月27日に再開され[3]、年間利用者数は22万人程度と見込まれたが、開業初年度の利用者は予想の3倍となる69万人超を記録した[11]1992年(平成4年)から社員の手で沿線になどが植樹されたほか、酒呑童子に扮した社員が乗り込むパフォーマンスの実施[10]2005年(平成17年)からは紅葉の季節の最終便ではライトアップなどの集客策が採られている[35][10]。2013年(平成25年)には年間乗客数が100万人を突破、 2010年代以降は日本国外からの団体客の利用も目立ち、ツアーに組み込まれることも増えている[11]。観光シーズンには当日券が午前中に完売するほどの人気路線[36]となり、2015年(平成27年)には年間123万人を輸送[注釈 3]、乗客の1/3を日本人以外が占めている[37]。2015年(平成27年)12月から、冬季は3号車、4号車の座席を一部撤去し、ダルマストーブを設置したストーブ列車として運行されている[21]

運賃

運賃は均一制で、開業時は大人600円、小人300円だった[38]が、2014年(平成26年)4月以降は大人620円、小人310円[39]2019年(令和元年)10月以降は大人630円、小人320円となっている[40]2022年(令和4年)4月以降は大人880円、小人440円となる[41]

乗車券の購入は、嵯峨野観光鉄道の窓口発売に限り、現金のほかICOCAKitacaSuicaPASMOTOICAmanacaSUGOCAnimocaはやかけんが利用できる。

駅一覧

  • 全列車普通列車(全駅に停車)
  • 全線単線(列車交換不可)
  • 全駅京都府内に所在
駅名 駅間
営業キロ
営業キロ 接続路線・備考 所在地
トロッコ嵯峨駅 - 0.0 西日本旅客鉄道 山陰本線嵯峨野線)…嵯峨嵐山駅 (JR-E08)[1]
京福電気鉄道 嵐山本線嵐電嵯峨駅 (A12)[1]
京都市 右京区
トロッコ嵐山駅 1.0 1.0  
トロッコ保津峡駅 2.4 3.4 西日本旅客鉄道: 山陰本線(嵯峨野線)…保津峡駅 (JR-E09)[42] 西京区
トロッコ亀岡駅 3.9 7.3 西日本旅客鉄道: 山陰本線(嵯峨野線)…馬堀駅 (JR-E10)[2] 亀岡市
  • トロッコ保津峡駅は無人駅、その他の3駅は有人駅である。

脚注

注釈

  1. ^ 当初は5月6日までであった列車運休期間が6月12日まで延長された。
  2. ^ 旧線時代の嵯峨駅 – 馬堀駅間の営業キロは9.4 kmであり、7.3 kmは新線経由の営業キロにあわせて設定されたものである[34]
  3. ^ 1列車の定員304人、1日8往復、年間300日運行、うち150日で臨時列車1往復が追加された場合の年間輸送力は150万人なので、乗車率は約80 %となる。

出典

  1. ^ a b c d 『トロッコ嵯峨駅』
  2. ^ a b c 『トロッコ亀岡』
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 『新車年鑑1992年版』p156
  4. ^ a b c d 『会社案内』
  5. ^ a b c d e f 『ローカル私鉄車輌20年』p72
  6. ^ a b c d e 『鉄道ピクトリアル』通巻544号p.69
  7. ^ a b 『よくあるご質問』
  8. ^ a b 寺田裕一『改訂新版 データブック日本の私鉄』 - ネコ・パブリッシング
  9. ^ 『知られざる鉄道』p12
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 『歴史で巡る鉄道全路線 公営鉄道・私鉄04』p17
  11. ^ a b c d e 『外国人観光客の〝ドル箱〟ツアーになった京都・トロッコ列車 USJから流入…2年連続100万人突破の秘訣』
  12. ^ 『鉄道事業の旅客運賃上限変更認可申請について』
  13. ^ 『アクセス』
  14. ^ a b c d e f g h 『鉄道ピクトリアル』通巻544号p.68
  15. ^ “嵯峨野観光鉄道のトロッコ亀岡駅 ログハウス風駅舎が完成”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 1. (1992年4月28日) 
  16. ^ 『「嵯峨野トロッコ列車」運転再開のお知らせについて』
  17. ^ 「嵯峨野トロッコ列車 年間ご利用者数100万人達成日 記念セレモニー」の開催について”. JR西日本 (2014年3月19日). 2021年10月14日閲覧。
  18. ^ 【鉄道ファン必見】外国人観光客の〝ドル箱〟ツアーになった京都・トロッコ列車 USJから流入…2年連続100万人突破の秘訣」『産経ニュース』産経新聞社、2015年1月13日。2021年10月14日閲覧。
  19. ^ 『トロッコ保津峡駅が再開 台風禍で損壊のつり橋復旧』
  20. ^ 『京の“底冷え”対策完了 京都・嵯峨野トロッコ列車に「だるまストーブ」あすから運行』
  21. ^ a b 『嵯峨野トロッコ ストーブ列車2015』
  22. ^ 土木遺産(関西エリア)嵯峨野観光鉄道の構造物群”. heritage.jsce-kansai.net. 2022年6月9日閲覧。
  23. ^ 土木学会 令和元年度選奨土木遺産 嵯峨野観光鉄道の構造物群”. www.jsce.or.jp. 2022年6月9日閲覧。
  24. ^ 嵯峨野トロッコ列車、2カ月ぶりに再開」『朝日新聞(京都版)』朝日新聞社、2020年6月14日。2021年10月14日閲覧。
  25. ^ コロナで苦境のトロッコ列車が見出した希望とは 「今は第二の草創期」 ~レールをたどって 嵯峨野トロッコ30年(下)~」『京都新聞』京都新聞社、2021年4月29日。2021年10月14日閲覧。
  26. ^ a b 『歴史で巡る鉄道全路線 公営鉄道・私鉄04』p16
  27. ^ 『知られざる鉄道』p13
  28. ^ 『運行スケジュール』
  29. ^ 『乗車券について』
  30. ^ 嵯峨野トロッコ列車乗車券のネット予約が便利になります 嵯峨野観光鉄道 2024年1月24日
  31. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻544号p.70
  32. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻544号p.80
  33. ^ 『歴史で巡る鉄道全路線 公営鉄道・私鉄04』p32
  34. ^ 『新車年鑑1992年版』p101
  35. ^ 『2017年 秋 紅葉ライトアップと臨時列車運転』
  36. ^ 『京滋乗り物図鑑 嵯峨野トロッコ列車』
  37. ^ 『嵯峨野観光鉄道物語』
  38. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻544号p.69
  39. ^ 平成26年4月1日(火)からの消費税率引き上げに伴う旅客運賃の認可および改定について” (PDF). 嵯峨野観光鉄道 (2014年3月10日). 2015年9月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年4月7日閲覧。
  40. ^ 消費税率引き上げに伴う運賃改定のお知らせ” (PDF). 嵯峨野観光鉄道 (2019年9月9日). 2019年11月4日閲覧。
  41. ^ 鉄道事業の旅客運賃上限変更の認可について” (PDF). 嵯峨野観光鉄道 (2022年3月10日). 2022年3月10日閲覧。
  42. ^ 『トロッコ嵯峨駅』

参考文献

書籍

  • けいてつ協會『知られざる鉄道』JTB、1997年。ISBN 4-533-02660-5 
  • 寺田裕一『ローカル私鉄車輌20年』JTBパブリッシング、2003年。ISBN 4-533-04512-X 
  • 『歴史で巡る鉄道全路線 公営鉄道・私鉄』通巻4号「京福電気鉄道・叡山電鉄・嵯峨野観光鉄道・京都市交通局」(2013年3月・朝日新聞出版)
    • 「嵯峨野観光鉄道」 pp. 16-17
    • 「嵯峨野観光鉄道 今を走る車両カタログ」 pp. 32

雑誌記事

  • 鉄道ピクトリアル』通巻544号(1991年6月・電気車研究会
    • 嵯峨野観光鉄道(株)運輸課長 杉野弘幸「嵯峨野観光鉄道の概要」 pp. 68-72
    • 「嵯峨野観光鉄道車両デザイン決定」 pp. 90
  • 『鉄道ピクトリアル』通巻582号「新車年鑑1992年版」(1992年5月・電気車研究会)
    • 藤井信夫、大幡哲海、岸上明彦「各社別車両情勢」 pp. 96-110
    • 鉄道ピクトリアル編集部「嵯峨野観光鉄道SK100・200形」 pp. 130
    • 「1991年度に開業した鉄道・軌道」 pp. 156

Web資料

外部リンク

座標: 北緯35度1分1.3秒 東経135度38分0秒 / 北緯35.017028度 東経135.63333度 / 35.017028; 135.63333


嵯峨野観光線

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 13:40 UTC 版)

保津峡」の記事における「嵯峨野観光線」の解説

保津峡保津川下り並んで有名なのが嵯峨野観光鉄道運行している嵯峨野観光線のトロッコ列車である。路線山陰本線嵯峨駅現在の嵯峨嵐山駅)・馬堀駅間の旧線利用していて、保津峡渓谷沿いを走っているため優れた景観楽しめる国鉄山陰本線輸送力改善一環として嵯峨駅馬堀駅間の保津川沿い屈曲部をトンネル直線状に短絡する線路付け替え工事着工しJR西日本発足後1989年平成元年3月5日開通させた。このため旧線廃線となって放置されていたが、保津峡優れた景観活用するためにJR西日本完全子会社の手により1991年平成3年)から観光専用鉄道として営業以来多く観光客集めている。旧保津峡駅トロッコ保津峡駅になっている。なお、山陰本線嵯峨野線という愛称命名されている。

※この「嵯峨野観光線」の解説は、「保津峡」の解説の一部です。
「嵯峨野観光線」を含む「保津峡」の記事については、「保津峡」の概要を参照ください。

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