他の療法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 04:19 UTC 版)
低体温療法 体温を32-34度に下げ、脳を保護する療法。有効性の検討は十分にされていない(推奨グレードC1)。解熱薬を用いる平熱療法も、同様である。 高圧酸素療法 高気圧の環境で高濃度の酸素を吸入させ、梗塞により血流が途絶えた脳細胞に、少しでも酸素を補給させる療法。RCTによる有効性の検討が少なく、十分な科学的根拠はない(推奨グレードC1)。 開頭減圧術 70歳以下の患者で、進行性意識障害でCT上脳幹圧迫所見のある中大脳動脈灌流域を含む一側大脳半球梗塞の場合、薬剤による脳圧制御は困難で、開頭による外減圧術の必要がある。広範な脳梗塞の場合は著明な脳浮腫、第4脳室閉塞による水頭症などで脳ヘルニア、呼吸中枢の圧迫などが起こりうるので減圧が必要という考え方である。脳卒中治療ガイドライン2009では18歳から60歳までの症例で中大大脳動脈領域の50%以上の梗塞で、症状出現後48時間以内でNIHSS15点以上ならば硬膜形成を伴う外減圧で1年後の生存率とmRSの改善が示されている。適応病型への推奨グレードA。小脳梗塞で水頭症を伴うときは脳室ドレナージを、小脳梗塞で脳幹圧迫がありこれにより昏睡を示す場合は減圧開頭術も考慮される。いずれも推奨グレードC1。 血管治療(血管拡張術) 21世紀になってから、血管内治療の進歩によりバルーンつきのマイクロカテーテルで血管を拡張する血管拡張術やステントを留置するステント留置術(推奨グレードC1)、詰まった場所までカテーテルを進め血管を拡張させる薬を注入する血管拡張術やその部位の血栓を溶かす薬を注入する血栓溶解療法などの脳血管内治療が行われている。 血管・脳神経再生 日本では臨床治験段階であり、保険適用ではない。 従来、成人後の脳細胞は増殖せず、一度死滅した脳細胞は二度と再生できないとされていた。これはサンティアゴ・ラモン・イ・カハールが主張し、長く定説となっていた。しかし、サルなど他の動物の脳細胞に再生能力があることが分かり、1998年に人間の脳細胞にも再生能力があることが判明した。しかし再生能力は限定的であった。これは、患部周辺では神経幹細胞に栄養・酸素が行き渡らず、ほとんど死んでしまうためである。そこで、患者の骨髄にある造血幹細胞を培養し、点滴で体に戻すことで、まず患部周辺の血管再生を促す。そして血管より栄養や酸素を行き渡らせることで、神経幹細胞の再生を促すための研究が始まった。自分の細胞であるため、副作用は少ないとされる。 2009年より臨床試験が始まり、先端医療センター病院や札幌医科大学附属病院が治験を進めている。先端医療センター病院の第1期治験では、心原性脳梗塞患者12人に対して実施し、9人が歩行機能を回復したという。先端医療センター病院では発症後10日以内、札幌医科大学附属病院では発症後20日以内のアテローム血栓性脳梗塞患者を治験対象にしている。また、自由診療医で実施を始めているところがある。ニプロは札幌医科大の取得した特許を元に、2018年をめどに医薬品として実用化を目指している。 また、自家培養ではなく、健常者の造血幹細胞を遺伝子組み換えで培養し、脳内注射する治療法もサンバイオなどによって治験が行われている。サンバイオが発売予定の「SB623」は、日本国内の販売権は帝人が、アメリカ合衆国・カナダの販売権は大日本住友製薬が、それぞれ取得している。アメリカでは2020年の販売を目指していた。しかし、2019年1月29日、アメリカで行われていたフェーズ 2b(後期第II相)臨床試験で、慢性期脳梗塞については主要評価項目を達成できなかったと発表した。 同様に、JCRファーマは健常者の歯髄由来幹細胞(DPC)を培養し、静脈注射する治療法を開発している。2017年7月18日、帝人との共同開発および日本国内の販売権の契約を結んだ。他の幹細胞を用いた治療は、慢性期を対象にしているが、JCRファーマが開発中の「JTR-161」は急性期に適応があるという。 海外では中絶胎児の神経幹細胞を利用した医薬品開発も行われているが、日本では治験・実用含めて行われていない。 頸動脈病変 詳細は「頸動脈狭窄症」を参照 頸部内頚動脈狭窄症では薬物治療(抗血小板薬)との比較試験で手術の方が症候性、無症候性どちらであっても有意に次に起こる発作の予防効果があるとされている。症候性の場合はNASCET、ECSTというスタディが、無症候性の場合はACAS、ACSTというスタディが有名である。70%以上の狭窄や高度の潰瘍病変を有する患者で、全身麻酔に耐え、5年以上の生存が見込める患者では手術を考慮するべきである。高齢者(75歳以上)や手術のリスクが高い人、冠動脈疾患を合併する人ではケースバイケースとなる。また、内頚動脈閉塞症で血行動態によるTIAや脳梗塞を起こす患者の場合はバイパス手術が行われる場合もあるが、頸動脈病変で最もよくやられる手術は頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy,CEA)である。CEAが難しい症例は頸動脈ステント留置術(CAS)が行われる。具体的には高齢者(75歳以上)、心肺疾患、CEA後狭窄、高位病変、対側閉塞、放射線照射後などが良い適応である。2008年4月より保険適応となる。 中大脳動脈病変 浅側頭動脈‐中大脳動脈吻合術(STA-MCA)というバイパス術が知られている。
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