事業用列車とは? わかりやすく解説

特殊列車

(事業用列車 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/10 10:26 UTC 版)

特殊列車(とくしゅれっしゃ)とは、通常の旅客貨物の輸送とは異なる、特殊な使命を持った列車である。その多くは臨時列車であるが、排雪列車の一部などはあらかじめダイヤに組み込まれているものもある。目的に応じて専用の事業用車を使用して運転されることも多い。

特殊列車の種類

お召列車

天皇皇后皇太后が使うために特別に運行される列車。

団体列車

団体専用車両 として製造された(20000系「楽」および15200系(新あおぞらII)

特定集団(団体)が旅行する際に、一般客の乗る普通の旅客列車と別に設定されて貸しきる列車。

試運転列車

線路設備の維持管理のために試運転扱いで検測走行をするE926形新幹線電車

試運転列車(しうんてんれっしゃ)とは、その名のとおり、車両試運転のために運転される列車である。

主として以下のような目的で運転される。

  • 新製車の性能試験
  • 工場検査出場に伴う検査完了の確認
  • 試作車両や新形車両の試験走行や新形装置の試験
  • 乗務員訓練(回送列車扱いとする場合もある)
  • 線路の検測
    線路維持管理のために、軌道架線信号などの設備を走行しながら検測する列車である。観測・測定用の各種機器を備えた検測車が使用される。
    新線開業の際などに、軌道上に列車が通行することができるだけの空間があるかどうかを測定するため運転される、建築限界測定車を使用した列車もこの一種である。かつての建築限界測定車は障害物の有無を確認するために金属の棒が枝のように放射状に広がっており、その状態が花魁が髪にを挿した姿に類似することから、通称「おいらん」とも呼ばれた。
  • その他(適切な分類が存在せず、便宜上試運転扱いとなるもの)

回送列車

回送列車は厳密には特殊列車ではないが、非営業列車の一種である関係上、特殊列車と位置付けられる場合もあるため、便宜上記載する。

排雪列車

宗谷本線で排雪列車の運用に就くDE15形ディーゼル機関車

排雪列車(はいせつれっしゃ)とは、線路積雪したときに除雪のために運転される列車である。蒸気機関車全盛時代は貨車の一種である雪かき車を機関車の前に連結して運転された。また、後述のロータリー車による除雪の際は雪壁を崩しながら投雪する車両がなく、機関車-マックレー車-ロータリー車-機関車という編成を組んだ列車で除雪作業が行われ、この編成は通称キマロキ編成と呼ばれた。ディーゼル機関車の発展に伴い、ラッセルヘッドロータリーヘッドを備えた機関車が登場し、21世紀初頭の現在ではこれらが主力となっている。

通常はラッセル車を用いて運転されるが、大量の積雪があってラッセル車では対応できない場合や、ラッセル車による除雪を繰り返して雪の壁ができてしまった場合には、ロータリー車の出番となる。ロータリー車による排雪列車を特殊排雪列車(略して特雪-トクユキ)と呼ぶ。

一方、除雪作業には保線機械の一種である排雪モーターカーが使用されることもあるが、車籍を持たないため列車として運転することはできず、線路閉鎖の措置を取る必要がある。反面、閉鎖された線路内を自由に動けるため、ダイヤにとらわれず積雪状況に応じた除雪作業が可能である。なお、北海道旅客鉄道(JR北海道)には、排雪モーターカーにATSなどの保安装置を取り付けて機関車としたDBR600形が在籍していた。同車は車籍を有するため、線路閉鎖することなく列車として運転されていた。

救援列車

救援列車の一例。故障した213系と救援した119系が連結されているのが判る。

救援列車(きゅうえんれっしゃ)とは、事故の際の救援および復旧作業のために運転される列車である。救援用の資材を積載した救援車が使用される。また、車両故障などのために自走できなくなった列車を牽引するために機関車が単独で現場に向かう場合や、取り残された乗客を輸送するために代わりの車両を送り込む場合も救援列車として扱われる。

工事列車

工事列車(こうじれっしゃ)とは、線路の工事のために運転される列車である。営業運転ではない事業用の列車であり、以前は定期列車に位置づけられるものもあったが、近年は臨時列車として運行されるため、略して工臨(こうりん)とも呼ばれる。通常は、線路の保守を担当する事業者(JRであれば各旅客鉄道会社)が運行するものを指し、工事現場までレールや資材を運搬する列車や、バラストを散布するための列車などがある[注釈 1]

工事用資材輸送の列車と言ってもその解釈は広く、直接工事現場へ輸送するものではないバラスト輸送や、工事列車用貨車を検査のために回送する列車も工事列車として取り扱われることがある。橋梁の架け替えのためのクレーン車(鉄道では操重車と呼ぶ)を現場まで牽引する列車などもその一種である。

東海旅客鉄道(JR東海)では機関車や貨車の老朽化に伴い、新型レール輸送気動車キヤ97系が導入された。この車両は、JR貨物の名古屋港駅に隣接する名古屋資材倉庫でレールを積載し、日本貨物鉄道(JR貨物)名古屋港線をDE10に牽引されて名古屋まで走行した後、以降自社線内は自力で各地へレールを輸送する。

配給列車

EF64牽引の配給列車
(2020年9月17日 宮原駅 - 大宮駅)間
EF81牽引の配給列車
(2020年9月23日 宮原駅
配給列車用に製造されたクモル145形電車

配給列車(はいきゅうれっしゃ)とは、鉄道会社内の社用品を運搬するための列車を指す。基本的に列車番号の頭に「配」の文字が付く。営業は行わないので事業用列車に分類される。社用品の解釈は広く、小さいものでは乗車券類や文書類から、大きいものでは電車や機関車など車両そのものの場合もある。車両は主に保安装置等の都合で自走できない場合に行われ、改造時の入出場や転属などがあるほか、総合車両製作所新津事業所からのJR東日本向け新製車も配給輸送が行われる。

最も一般的であったのは自社工場から車両基地へ部品などを運ぶ列車で、その車両は配給車と呼ばれた。21世紀初頭の現在、それらはトラック輸送や営業列車への積込輸送に移行され、本来の運用の場はない。

社用品が対象であり、また社内での運行が原則であるため、自社向け車両でも受け渡し前であったり、他社線を経由するような場合は一般的にJR貨物に委託される[注釈 2]。この場合は同社により甲種鉄道車両輸送と呼ばれる貨物列車の一種として運行される。なお甲種輸送列車の場合は、団体臨時列車にも見られるような、頭に「甲」と付く輸送番号が与えられるが、列車番号は通常の臨時貨物列車と同様のものが与えられる。

配給列車の特殊な例では、小田急電鉄4000形電車がJR東日本大宮総合車両センターで改造を行うため、松戸車両センターから電気機関車牽引による配給列車扱いの形で回送された例がある[1] [2] [3] [4][5] [6]

また、JR貨物では配給列車と称した貨車の試運転列車が存在する。これは、交番検査明けの貨車などが連結され、基本的に貨物駅と貨物駅の間を1往復する。首都圏ではJR貨物川崎車両所神奈川臨海鉄道塩浜派出委託)で交番検査が実施された貨車の試運転列車として東京貨物ターミナル駅熊谷貨物ターミナル駅東海道貨物支線 - 南武支線 - 武蔵野線 - 高崎線経由で往復運転する配8795列車と配8794列車などがそれにあたる。

脚注

注釈

  1. ^ JR貨物が運行するレール輸送用の貨物列車は、レールを生産した製鉄所が、納入先となる鉄道事業者へレールを納品するためにJR貨物の営業列車を利用しているものであり、工臨ではない。
  2. ^ 2008年3月急行銀河」号廃止の際、下り最終列車を牽引したEF65 1114号機と上り最終列車の客車を返却するため、翌日来阪したEF65 1118号機が牽引して所属先の田端区へ戻っている。被牽引の1114号機は無動力で、列車番号は西日本、東海、東日本の3社を通じて「配9102」という配給列車としての扱いであった。これは急行「銀河」号が国鉄時代から運行され、分割民営化後も3社による共同運行であったことから、それに関連する機関車の無動力回送はやはり社用品輸送として取り扱われたと考えることに不合理はない。

出典

関連項目

参考文献

  • 久保田博『鉄道用語事典』グランプリ出版、1996年、220頁。

事業用列車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/26 03:45 UTC 版)

列車」の記事における「事業用列車」の解説

詳細は「特殊列車」を参照 事業用列車は、鉄道事業のために用いられる営業列車ではない列車である。一般旅客貨物輸送する列車使命異な列車として、特殊列車とも呼ぶ。 工事列車 鉄道工事用材料を運搬する列車で、軌条砂利などを運び停車場以外の場所でも積み下ろしする。 試運転列車 新製車両修理完了した車両試験確認や、線路橋梁などの状態確認といった目的運転される列車回送列車 車両車両基地から発駅まで送り込んだり、貨物降ろした貨車送り返したり(返空)する目的運転される列車回送列車特殊列車分類ではなく旅客列車貨物列車分類とする考え方もある。機関車客車貨車連結せずに単独で走ることを特に単行機関車列車略して単機という。 排雪列車 線路除雪をするために運転される列車雪かき車用いて積雪排除しながら運転する。近く適当な雪捨て場がない場合に、貨車積み込んで河川など適当な雪捨て場まで運ぶために運転する雪捨列車もある。ラッセル車用い排雪列車列車ダイヤ組み込まれ冬期間は定期的に運転される例が多くロータリー車用い排雪列車は特殊排雪列車などと呼ばれ必要に応じて臨時設定されることが多い。モーターカー用いた排雪行われるが、正式に車両ではなく機械としての扱いである。 救援列車 事故故障発生した際に、現場復旧のため資材要員送り込んだり、車両収容したりする目的運転される列車である。その性格上、列車としての要件例外認められており、駅間での後退認められたり、信号条件かかわらず1閉塞区間複数列車進入認められたりする。 配給列車 鉄道事業者内部で必要とされる物品部内各所配給するために運転される列車である。 お召し列車 お召し列車ロイヤルトレイン宮廷列車)といった貴賓乗せる列車特殊列車として扱われることがある日本場合は、天皇・皇后乗る列車お召し列車皇太子乗る列車御乗用列車呼ばれる。またお召し列車安全のために、その直前先行して走らせる列車指導列車通称露払い列車と呼ぶ。 スイス・レーティッシュ鉄道ロータリー雪かき車

※この「事業用列車」の解説は、「列車」の解説の一部です。
「事業用列車」を含む「列車」の記事については、「列車」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「事業用列車」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「事業用列車」の関連用語

事業用列車のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



事業用列車のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの特殊列車 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの列車 (改訂履歴)、仙石線 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS