モンド・ブーム
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90年代には悪趣味ブームと連なる形で、世界的なモンド・ブームが起きた。MONDOとはイタリア語で「世界」を表し、未開地域の奇妙で野蛮な風習を虚実ないまぜに記録したモンド映画『世界残酷物語』(1962年)のヒットにより世界中で定着した(原題の「MONDO CANE」は、イタリア語の定句で「ひどい世界」の意)。モンド映画とは世界中の奇習・奇祭などをテーマにした映画で、エログロ満載のショッキングな映像で観客の好奇心を惹きつけておきながら「狂っているのは文明人のほうだ」と、取ってつけたような文明批判や社会批判を盛り込んだ、社会派きどりのモキュメンタリー・猟奇趣味的なドキュメンタリーである。その後、MONDOという概念はアメリカで独自の発展を遂げ、単なる世界から「奇妙な世界」「覗き見る世界」「マヌケな世界」へと語義が変化し、奇妙な大衆文化を包括するサブカルチャーの総称、ないし世間的に無価値と思われている対象をポップな文脈で再評価するムーブメントとして扱われるようになった。 メディアマンの高杉弾はMONDOについて「アメリカのアングラでもサブカルでもない、政治性を持たないマヌケな文化」または「けっして新しくもカッコ良くもオシャレでもないけど、なんだか人間の普遍的なラリパッパ状態を表現する暗号的な感覚」と定義し「ポップでありながら繊細ではなく、間抜けでありながら冗談ではなく、人を馬鹿にしつつも自らがそれ以上の馬鹿となり、ときにはぜーんぜん面白くなかったりもしながら、しかし着実に生き延びていった」と評している。 世紀末のモンド・ブームは、モンド映画『モンド・ニューヨーク』(1988年)の公開をきっかけに始まり、通常のディスクガイドでは完全に無視されるような奇妙で特殊な音楽―モンド・ミュージック(以下、モンド音楽)のリバイバルで爆発的に広まった。代表的なモンド音楽として、アメリカのファミレス、モール、空港、ホテル、エレベーターで、1960年代〜70年代に流れていたラウンジ・ミュージック(以下、ラウンジ)がある。ラウンジはジャズ・エキゾチカ・エレクトロニカなどの多様なジャンルを巻き込んだ匿名性の高いムード音楽(イージーリスニング)の一種で、明確な輪郭を持った音楽ジャンルではなかったが、こうしたヒットチャートとは無縁の大衆音楽を「見方を変えて面白く享受する様式」そのものが「モンド音楽/ラウンジ」とみなされた。本国アメリカでは、西海岸の独立系サブカルチャー雑誌『RE/Search』の2号にわたる「インクレディブリー・ストレンジ・ミュージック(=信じられないほど奇妙な音楽)」特集の影響、および90年代半ばに若者の流行がグランジからラウンジへ移行したことにより、モンド・ブームは一気に過熱する。特にラウンジは、エキゾチカとモーグが二大巨頭とみなされた。1996年には、ビースティ・ボーイズが編集するアメリカのユース・カルチャー誌『グランドロイヤル・マガジン』3号でモーグ特集が組まれ、ブームは最高潮に達した。 1995年2月には、ラウンジのみならず、アポロ計画の頃に作られた宇宙ものやマイナーなCMソングなど、従来は軽視されてきたムード音楽に新たな解釈や面白さを与え、娯楽的かつ学術的に体系化した書籍『モンド・ミュージック』(リブロポート発行/Gazette4=小柳帝、鈴木惣一朗、小林深雪、茂木隆行の共著)が刊行されたことで、この用語は音楽業界にそれなりに定着した。また個性的すぎて日の目を見ずに埋もれていったディープな昭和歌謡を80年代から紹介している幻の名盤解放同盟がブームに与えた影響も大きい。迷盤・奇盤の数々を再録した、特殊音楽のコンピレーション・アルバム『幻の名盤解放歌集』(Pヴァイン)シリーズには5000枚以上を売った作品も存在し、廃盤レコードの編集盤としては「破格のヒット」とされる。90年代半ばには幻の名盤解放同盟の紹介で、韓国では下世話とみなされているポンチャックおよび李博士が日本に上陸し、一時的なブームを呼んだ。元ボアダムスの山本精一はモンド音楽について「一言で言ったら変態」「趣味のよい悪趣味」「あくまで無意識」「狙ってないことがポイント」「本人は自分がモンドだなんて決して思ってない」と定義している。 1995年には、メジャー週刊誌『SPA!』9月20日号で「【最低・最悪】モンド・カルチャーの正体」特集が組まれ、モンド・グッズが悪趣味な文脈で過去・現在を問わず横断的に紹介された。また、この頃からMONDOなアート、映画、漫画を紹介するガイドブックも多数刊行され、MONDOは20世紀サブカルを総括するキーワードとして欠かせない存在となった。この時期の代表的なMONDOガイド本としては次のようなものがある。 オカルト猟奇殺人からブラックメタル、モンドアート、SPKなどのノイズミュージックまで暗黒文化を解説した、メルツバウの秋田昌美著『スカム・カルチャー』(1994年/水声社) 国内外のモンド映画を体系化した、映画秘宝ムックシリーズ『悪趣味洋画劇場』『エド・ウッドとサイテー映画の世界』『悪趣味邦画劇場』(1994年〜1995年/洋泉社) モンド漫画のガイドブック『マンガ地獄変』(1996年〜1998年/水声社)および、宇田川岳夫編『マンガゾンビ』(1997年/太田出版) 宇田川岳夫著『フリンジ・カルチャー ―周辺的オタク文化の誕生と展開』(1998年/水声社) デヴィッド・ケレケス+デヴィッド・スレイター『キリング・フォー・カルチャー ―殺しの映像』(1998年/フィルムアート社)
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