ヒトラーとの応酬
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「オットー・シュトラッサー」の記事における「ヒトラーとの応酬」の解説
会話は大戦の話から始まる。オットーはルーデンドルフに『マックス・ヨーゼフ勲章』叙勲該当者に申告された当時のいきさつを話すが、自分が伍長勤務に過ぎないことに劣等感をもったのか、ヒトラーはこの時口を挟まず、自分が喋る出番の機会を伺いながら敵意を含んだ沈黙を守る。やがて話題は党の話に移った。そこでオットーがヒトラーにナチの綱領を尋ねると、ヒトラーは ヒトラー 「綱領、綱領ね。綱領なんか重要じゃない。重要なのは権力だけですよ。」 と、オットーに対する今までうっ積していた気持ちを一挙に吐き出すかのように木で鼻をくくったような返事をした。すかさずオットーが オットー「しかし、権力は綱領を実行する前提に過ぎないじゃありませんか」 と反論すると、大学を出ていない僻みも手伝っていたのか、ヒトラーは殆ど絶叫せんばかりに大学生のオットーに対して ヒトラー「それはインテリの見解というものだ!」 と吐き捨てるように言い、 ヒトラー「あなたはカップ暴動の折に赤軍の側に立って闘ったのか?あなたのような忠誠心をもった退役将校がどうしてまた3月のカップ暴動の折に赤の指導者であり得たのか、理解に苦しむ。」 と絡みはじめる。むっときたオットーは、 オットー「あなた方は国民社会主義者を名乗っているではないか。それならどうしてあなた方は反動の暴動に味方することができるのか?紛れもなく私はミュンヘンではナショナリストとして赤の独裁と戦う為に進軍したのと全く同様に、ベルリンではソーシャリストとして反動的独裁と戦ったのだ。 私の『赤軍』は、国の合法的な政府を支持して行動したまでだ。彼らは反乱者ではなくて愛国者だ。大戦中カップは、ティルピッツ、プロイセンの反動分子、ユンカー、重工業、ティッセンやクルップと親密だった。カップ暴動はクーデターの試み以外のなにものでもなかった。」 と応酬し、ルーデンドルフが2人をとりなすように「カップ暴動は無意味であった。」と重々しくのたまうと、ヒトラーは「はっ!閣下!」と言ってすぐにおとなしくなり、カップ問題はけりとなった。 次いで、 ヒトラー「私が望んでいるのは、国民を復讐の思想にまで焚き付けることだ。ただ国民とその全体の狂信だけが次の戦争で我々に勝利をもたらすことができるのです。」 というヒトラーの発言にショックを受けたオットーはたまりかねて、 オットー「復讐の問題も、戦争の問題もない。我々の社会主義がナショナルでなければならないのは、ドイツに新しい秩序を確立する為であって、新しい征服の政策を始める為ではない。この合成語(ナショナルソーシャリズム)において強調されなければならないのは、ソーシャリズムの方である。ヒトラーさん、あなた方はあなた方の運動をナショナルソーシャリストとして一つの言葉で呼んでいるではないか。ドイツ語の文法が我々に教えるところによれば、この種の合成語においては、始めの方の部分は肝心な後の方を修飾する為に用いられているのです。」 と、色々な合成名詞をあげて反論し、最後にとどめをさすかのように意地悪く付け加えた。 オットー「しかし、あなたのバルト出身の助言者であるローゼンベルクさんは、おそらくドイツ語はご存知ないでしょうからこのニュアンスはお分かりにならんでしょうな。」 自分の外国生まれのことまであてこすられたと勘ぐったのか、真っ赤になって興奮したヒトラーはげんこつでテーブルをどやしつけながら、 ヒトラー「そんな屁理屈はもうたくさんだ!」 と怒鳴ったが、ばつが悪くなったのか、失われた自制心を取り戻そうとするかのように、半ば冗談めかしにグレゴールの方を振り向いて ヒトラー「私はここにおられるあなたの利発的な弟さんと決して馬が合わないんじゃないかという気がしますよ」 と、おどけてみせた。後年の経過からみて、このヒトラーの予感は見事に的中することになる。 次に、旗色の悪くなったヒトラーは話題をそらしてお得意のユダヤ人問題に向けようとする。 ヒトラー「そのような観念を弄ぶのは全く徒労です。私が話そうとしているのは現実であり、現実とはユダヤ人のことです。かつてのマルクスのようなユダヤ人共産主義者や、今日のラーテナウのようなユダヤ人資本家を御覧なさい。諸悪の根源は、世界を汚しているユダヤ人です。ユダヤ人は社民系の新聞を牛耳っています。説得では達成出来ないものを彼らは暴力で達成しようとしているのです。」 オットーは再び反論する。 オットー「ヒトラーさん、あなたはユダヤ人をご存知ない。言わせて頂きますがね、あなたは彼らを過大評価なさってらっしゃる。御存知のように、ユダヤ人はとりわけ適応性があります。彼らは存在している可能性を色々利用はしますが、創造するものは何もありません。彼らはソーシャリズムを利用し、資本主義を利用し、あなた方が彼らに機会を与えればナショナルソーシャリズムだって利用するでしょう。マルクスが発明したものは何もありません。社会主義はいつも三つの側面を持ってきました。マルクスがその経済面を研究したのはドイツ人であるエンゲルスが協力したからであり、そのナショナルで宗教的な意味合いを研究したのはイタリア人マッツィーニ、そのニヒリスティックな面を発展させたのはロシア人のバクーニンで、そこからボルシェヴィズムが生まれたのです。ですから、社会主義が全くユダヤ人に由来するものでなかったことは御納得いただけるでしょう。」 ソーシャリズムがユダヤ人起源のものでないことには、ルーデンドルフも同意を示した。 こうして、2人のやりとりも終りに近づき、ヒトラーは故意に親しみを示そうとするかのようにオットーの肩に手をやって、 ヒトラー「何はともあれ、私はフランスのお恵みでドイツの大臣になるくらいなら、共産主義者の絞首台で首を絞められる方がましですな。」 と、捨て台詞を残してルーデンドルフと共にグレゴールの家を立ち去った。その後、兄弟はヒトラーの印象について話し合う。オットーの意見は、 オットー「ヒトラーについては、俺の見るところ将軍に対して余りにも卑屈で、議論の点でも論敵を孤立させるやり方の点でもゆとりが無さ過ぎるな。彼には政治的確信が全くなく、彼が持っているのは拡声器の雄弁だね。」 であった。グレゴールの意見は少しくちがっていた グレゴール「おそらく、彼の伍長勤務の袖章がかれの身体に食い込んでいるのだろう。でも、彼には何かがあるよ。彼には抵抗しにくい魔術性がある。我々が彼を利用してお前の思想を表現し、ルーデンドルフのエネルギッシュと俺自身の組織力を利用してこれを実践できたら、とても素晴らしいことができるぞ!」 ヒトラーに対する否定的印象と彼を御し得るとみた甘い見解はこれと共に兄弟はやがて全く別個の運命を歩むことになったのである。
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