スケルツォ第2番
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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ヘラー:スケルツォ 第2番 | Deuxième Scherzo Op.24 | 出版年: 1844年 初版出版地/出版社: Cranz |
マルモンテル:スケルツォ 第2番 | 2e scherzo Op.123 | 出版年: 1876 年 初版出版地/出版社: Escudier |
バラキレフ:スケルツォ 第2番 変ロ短調 | Scherzo No.2 b moll | 作曲年: 1900年 出版年: 1900年 |
シューマン, クララ:スケルツォ 第2番 ハ短調 | Scherzo Nr.2 Op.14 | 作曲年: 1845年 出版年: 1845年 初版出版地/出版社: Breitkopf & Härtel |
ショパン:スケルツォ第2番 変ロ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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ショパン:スケルツォ第2番 変ロ短調 | Scherzo b-Moll Op.31 CT198 | 作曲年: 1834?-37年 出版年: 1837年 初版出版地/出版社: Wessel, Schlesinger 献呈先: la Comtesse Adèle de Fürstenstein |
作品解説
ショパンがピアノ曲に用いたスタイルを観察する方法は幾通りもあるが、抒情的なものと物語的なもの、という分類がひとつ可能だろう。前者の代表は《ノクターン》、《マズルカ》であり、後者の典型が《バラード》と《スケルツォ》である。
抒情的な構成において各フレーズや音型は羅列的で、その連結がきわめて緩やかであるのに対し、物語的な構成では、1曲の中にいわば起承転結を感じることができる。なぜ明確なドラマ性が生じるかといえば、まず、和声の進行が明解で、とりわけドミナント-トニック(転から結へ進む部分)の定型がよく守られるからである。また、各動機は変奏や転回、反復、拡張などの手法を用いて発展することもあり、ヴィーン古典派のソナタのような労作はなされなくとも、複数の主題が複雑に組み合わされて曲が作られている。
つまり、《バラード》、《スケルツォ》、《舟歌》、《ボレロ》など物語的構成を持つ作品では、ダイナミックでドラマティックな、始まりから終わりへ必然をもって突き進むような音楽的時間が生み出されるのであり、こうした要素が鑑賞上のポイントとなっている。(蛇足ながら、抒情的な作品では、わずかずつ変容しながらも留まり続け、戻りも進みもそれほど明確でない、いわば音楽的空間の中に、鑑賞者の耳を遊ばせることになる。)
さて、では、各4曲が残されている《バラード》および《スケルツォ》の違いはどこにあるのか。
これらがジャンルとしてショパンの創作の中で隣接していることは、音楽を見れば何より明らかである。しかも、両ジャンルを形式から明確に区別することはほとんどできないように思われる。ひとつには、これがショパンに固有のジャンルであるからで、それぞれが由来すると思われるジャンルの伝統を調べても、両者を結びつけるものは出てこない。しかし、音楽の外形からは区別できなくとも、それぞれの音楽内容、いわば物語の内容はやや異なっている。
《スケルツォ》はイタリア語で「冗談」を意味し、従来は簡明な形式で明るく軽く小規模な曲を指した。ベートーヴェンがメヌエットに代えてソナタの第3楽章に取り入れた時も、やはり極めて急速でユーモアに富んだ性格が与えられた。ショパンの《スケルツォ》は、一見するとこうした伝統にまったく反し、暗く深刻なうえに大規模である。だが、《バラード》と比べてみると、《スケルツォ》がいかにユーモアを内包しているかがよく判る。4つの《スケルツォ》にはいずれも、きわめて急速でレッジェーロな動機がひとつならず登場し、随所で「合いの手」を入れている。また、各部で激烈なまでの音量のコントラストが指定されている。
こうした手法が《バラード》にはほとんどない。各動機、各音は前後のしがらみに囚われており、逸脱を許されない。沈鬱な主題が次々と現われ、それらは鬱積して怒濤をなし、ついには破滅的な終末を迎える。《スケルツォ》が軽妙な音型や滑稽なまでのコントラストでこの種のストレスを解消するのとは、対照的である。
なお、《バラード》4曲はすべて複合2拍子、《スケルツォ》は3拍子で書かれており、これが唯一の外形的な特徴といえなくもない。が、《スケルツォ》は全篇を通じてほとんどが2小節で1楽句を作るため、やはり2拍子の強烈な推進力を内包している。
《スケルツォ》はA-B-Aの形式をとる。これはハイドンやベートーヴェンが用いたメヌエット楽章の代替としてのスケルツォを踏襲している。しかし、A部分には2つの対照的な主題が現わること、A部分の後半は前半部分のほぼ完全な反復となっていることから、ソナタ形式を志向することが見て取れる。さらに、ストレッタを含む華々しいコーダが曲の規模をさらに増し、格調を高めている。
このようにみると、ショパンの《スケルツォ》は、ベートーヴェンが完成させたピアノ・ソナタの第3楽章の格式を継ぎ、これを敷衍したものと考えることもできる。一方、自身の《ピアノ・ソナタ》第2番および第3番においてはヴィーン古典派の伝統から一歩を踏み出し、スケルツォを第2楽章に置いた。特に第2番Op.35では、複数主題を持つ規模の大きなスケルツォが用いられている。ショパンはおそらく、キャラクターピースとして《スケルツォ》を書き、そのように命名したのではない。むしろ、彼自身のソナタへの布石だったのである。
第2番は、ショパンが真摯な、あるいは深刻な作品に好んで用いた変ロ短調で開始するが、常に一抹の明るさを保っている。コーダでは、平行調の変ニ長調に転じ、そのまま華やかに終止する。
この曲が明るさを失わないのは、冒頭のユニゾンによる三連音符、第2主題直前の半音階をまじえたスケール、第2主題結尾の走句、中間部では「最大限に繊細に delicatissimo」の指示のある右手の分散和音など、ふんだんに細かな装飾的動機が挿入されるからである。しかしこれらは、単なる技巧誇示の手段に使い捨てられることはなく、精巧な動機労作のパーツとして機能する。すなわち、あらゆる動機や音型が他の部分の主題と何らかの関連をもっている。そのため、800小節に迫る長大な楽曲でも散漫にならないのである。
しかし、両端部分で第1・第2主題が完全に反復されるにも拘わらず聴く者を決して飽きさせないのは、その旋律の比類ない美しさに負うところが大きいのも、また確かである。このいささか執拗な反復は、天才的メロディーメーカーとしてのショパンの自負と自信の表れであろう。
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