ギムリー空軍基地への着陸
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 00:21 UTC 版)
「ギムリー・グライダー」の記事における「ギムリー空軍基地への着陸」の解説
パイロットは緊急マニュアルを開き、両エンジン停止状態で飛行させる項目を探したが、そのような項目は存在しないことを知りえただけであった。ピアソン機長は最良の効率が得られる時速 407キロメートル(220ノット)で機体を滑空させた。副機長のモーリス・クィンタルは本機がウィニペグまで到達できるかどうか機械式の予備高度計の高度を元に試算を行ったが、19キロメートル(10海里)進む間に1,500メートル(5,000 フィート)の割合で降下しており、降下率は約 12 : 1 だった。また、空港のレーダー画面に映るエコーを元にウィニペグの管制官が算出した値も同様であり、これは143便がウィニペグにたどり着ける可能性はないことを示していた。 こうした経緯より、クィンタルは以前に勤務していたカナダ空軍のギムリー基地を着陸地点にしようと考えた。 なお当時のクィンタルは知らなかったのだが、彼の除隊後にギムリー基地は民間空港(Gimli Industrial Park Airport)になっており、閉鎖された平行滑走路の1本は時折開催される自動車競走に使用されていた。ちょうど事故当日にも、この地区の自動車やキャンパー達が「家族の日」のために集まり、レースが行われていた。 パイロットはギムリー空軍基地に接近する間に降着装置のロックを解除し、降着装置が自重で落下することによる展開を試みた。前述のように当機は必要最低限の動力がかろうじて供給されている状態であり、降着装置を展開させるための油圧装置を充分に作動させる事ができなかったためである。ロック解除の結果、重量のある主降着装置は自重で展開されたものの、前部降着装置は降下によって発生する空気抵抗に押し戻される形となり、充分に展開されなかった。ボーイング767型機の前脚は後方に向かって振り出す形となっており、問題が発生した場合でも風圧により後方に押されて自動的に展開する設計であったが、本機は想定外の角度で降下していたために通常とは異なる方向、速度で空気抵抗が掛かり、前部降着装置が設計時の想定通りには展開しなかった。また、降着装置の展開による速度低下はラムエア・タービンの発電効率を悪化させ、姿勢制御はさらに困難になった。 機体がギムリー空軍基地へ接近するに従い、明らかに高度が高いことが判明した。ピアソン機長は空気抵抗を増し、高度を下げるためにフォワードスリップ機動をした。フォワードスリップは一種の蛇行飛行で、グライダーや軽飛行機が同じ状況に陥ったときによく使われる操縦方法であるが、実はピアソンはグライダーでの滑空を趣味としており、その経験がうまく活かされた。スリップによって、乗客は横向きに地面へ向かって落下するような感覚にとらわれた。143便はゴルフコースの上を通り越したが、ある乗客は「ゴルファーがどのクラブを使っているか見えるくらいだった」と興奮した様子で取材に答えている。 ギムリー空軍基地の滑走路に車輪が着くと同時に全重量を乗せてブレーキがかけられた。フルブレーキの影響から、降着装置のいくつかのタイヤが破裂した。前述のように143便は前部降着装置が固定されていなかったので機首を接地する格好となったが、胴体着陸となったことやドラッグレースのために滑走路中央部に設置されていたガードレールを巻き込んだことで抵抗が増したことも幸いし、滑走路端で行われていた「家族の日」の会場から数百フィートの位置で停止した。 61人の乗客は着陸の際に負傷することはなかった。しかし、このとき小規模の火災が機体前部で発生し、およそ2か月前に発生した797便火災事故の恐怖から、乗客は脱出の際パニック状態に陥った。加えて前傾姿勢で胴体着陸したため尾部が高くなっており、通常より急角度で展開した後部扉の脱出用シュートでの脱出の際に軽い怪我を負った乗客がおり、10人のけが人が出た。パイロットも脱出時のチェックリストを完了させた後に143便を降り、機体前部の火災の消火活動を開始。消火器を携えて駆けつけたレーサーとコースマーシャルらも合流しすぐに消し止められた。脱出の際に負傷した乗客はスカイダイバーの飛行クラブとして使用されていたギムリー空軍基地からちょうど離陸するところだった医師によって適切に診察された。 興味深い後日譚として、着陸後、エアカナダの整備士が修理キットを積載したバンに乗り、ウィニペグから修理に向かったが、彼らもまた途中で燃料切れを起こし、マニトバ州の奥地で足止めされた。
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