証券市場モデルとは? わかりやすく解説

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証券市場モデル

読み方しょうけんしじょうもでる
【英】:security market model

概要

金融資本市場取引されている個々証券価格資本市場どのようなメカニズムによって形成されるかを説明するモデルであり, 価格評価モデルとも呼ばれる. 最近の証券市場モデルでは市場均衡積極的に考慮したCAPM, APT, アロー・ドブローモデルなどが代表的であるが, 過去実現したデータに基づく時系列分析モデルも, 経済学者からの反発にもかかわらずコンピュータ発達とともに注目されている.

詳説

 金融資本市場では種々の証券取引されており, それらの価格需要と供給バランスした市場均衡状態で定まる. 人々証券将来生み出すであろう価値(所得)を期待してそれを保有する. 証券需要リスクを伴う将来所得対し, 供給将来所得交換現在の資金獲得するために発生する. このような証券需給基本的な性質考慮して, 個々証券価格資本市場どのようなメカニズム形成されるかを説明するモデル証券市場(または価格評価)モデルと呼ぶ. 伝統的に, 証券価格はそれを発行した企業将来価値現在価値割り引いた値として評価されてきたが, モダンポートフォリオ理論(modern portfolio theory)を背景として, 収益性(リターン)と危険性(リスク)の両面均衡概念積極的に取り入れた市場均衡モデル(market equilibrium model) が主流占めようになった. 証券均衡価格に関する静学理論はほぼ完成され, 証券収益率を唯1つ因子説明する資本資産評価モデル(CAPM)と, 複数マクロ経済指標などで記述する裁定価格理論(APT)が実証分析可能性含めて重視されている. 一方, アロードブローモデル(Arrow=Debreu model)は純粋理論としての価値が高い. 動学理論では異時点間CAPM(ICAPM), デリバティブ評価モデル, 利子率期間構造(term structure), 投機的価格形成(バブル)なども証券市場モデルと考えられる.

 静学モデルにおいては, 市場参加者利用可能情報構造目を向け, 価格資金配分シグナルとして機能する, すなわち, すべての情報証券価格瞬時反映する完全競争市場仮定し, 効率的市場(efficient market) と呼んでいる.

 ポートフォリオ理論によれば, 各投資家資産を各証券分散投資することにより, 最も好ましいポートフォリオ実現できた. 分散投資から生じ証券需要対応して, 市場は各証券価格決定する, すなわち, 一定量の各証券過不足なく市場参加者保有されるように均衡価格決定する考えられる. 市場均衡での各証券収益率は, 分散投資でもなお残るリスク消滅するリスクからなり, それぞれ, システマティックリスク, アンシステマティック・リスクと呼ぶ. システマティック・リスクは, 証券全体産み出す将来価値一定割合であるから, 証券iの収益率R_i\, , 市場全体収益率(市場ポートフォリオ収益率)をR_m\, とすると,


R_i=\alpha_i+\beta_i R_m + \epsilon_i\,


と表すことができ, この式を市場モデル(market model)と呼ぶ. ここで, \alpha_i\, \beta_i\, 証券i\, 固有の定数であり, とくに\beta_i\, 市場全体収益率変化対する各証券収益率変化率を示す指標, \epsilon_i\, R_m\, によって説明できない誤差を表す確率変数である. 最小2乗法係数\beta_i\, 推定すれば, \beta_i=\mbox{Cov}(R_i, R_m)/\mbox{Var}(R_m)\, であり, 上式の期待値考えることにより, CAPMとの関連性明白になる. 市場に無リスク収益率R_f\, 安全資産存在するとし, 投資家資産一定割合をこの安全資産に, 残り市場ポートフォリオ投資するとする. 安全資産の\betaは0, 市場ポートフォリオのそれは1であるから, このポートフォリオ\beta\, 両者への投資金額応じた加重平均となり, 資産全体\beta\, 市場ポートフォリオ資産全体の中で占め割合に等しい. 一方, このポートフォリオ期待収益率R_f\, R_m\, への投資比率加重平均であるから,


\mbox{E}(R_p)=(1-\beta_p)R_f +\beta_p \mbox{E}(R_m)\,


表せる. この式は個別証券i\, についても成立するから, 上式のp\, 代わりにi\, 記せば, 資本資産評価モデル(CAPM)が導出される.

 CAPMでは単一因子\beta\, 中心的な役割演じているが, 他の多くの共通因子(マクロ経済指標など)を導入し, 均衡状態においては裁定機会存在せず, 裁定機会のない状況では同じリスクをもつ証券収益率相等しくなければならないことを用いてCAPM拡張したモデル裁定価格理論がある. k\, 個の共通因子\lambda\, からなるモデル


\mbox{E}(R_i)=R_f+\lambda_1 b_{i1}+\lambda_2 b_{i2}+\cdots+\lambda_kb_{ik}\,


によって証券i\, 期待収益率記述する. 共通因子内生的には定まらず, 鉱工業生産指数, インフレ率などのマクロ経済指標と関係があると推測されている

 (経済の)状態なる概念明示的に導入するとともに, 証券最適化問題選択対象集合としてとらえ, 需要と供給の関係から証券価格定式化したアロードブローモデル(状態選好モデルとも呼ばれる)は最も理論的なモデルであり, その考え方沿ってモデル精緻化同値マルチンゲール測度(equivalent martingale measure)によるデリバティブ価格評価など明らかにされてきている. 状態を\omega \in \{1, 2, \ldots, Q\}\, 表し, 特定の状態\omega=q\, 実現すれば1の価値与え, 状態q\, 実現しなければ0になるような証券をアロードブロー証券(または, 純証券, 状態依存請求権)と呼ぶ.この証券q\, 価格p_q\, とし, N\, 種類の純証券市場取引されているとする. とくに, N=Q\, 場合, 各投資家が純証券のみで構成されるポートフォリオ所有するなら, そのポートフォリオ市場均衡価値求めることができる. また, 安全収益率R_f\, \textstyle R_f=1/(\sum_{q=1}^Q p_q)\, のように純証券複製でき, 各証券収益率も純証券ポートフォリオで完全に複製できることがこのモデルから導出される.

 一般に, すべてのポートフォリオを純証券ポートフォリオ複製できるとき, そのような証券から構成されているモデル完備市場(complete market)モデル呼ばれる. このとき, どのような証券市場新たに追加しても, それらは冗長になっており, 不確実性をもつモデル確実性下でのモデル同等になる. 完備性はさらに一般化し定義され, 種々のデリバティブ評価モデルヘッジ簡略化するのに役立つ. とくに, 裁定機会のない完備市場ではただ1つ同値マルチンゲール測度存在することが知られている.


参考文献

[1] K. Arrow and G. Debreu, "Existence of an Equilibrium for a Competitive Economy," Econometrica, 22 (1954), 265-290.

[2] D. Duffie, "Dynamic Asset Pricing Theory," Princeton University Press, 1996. 山崎昭, 桑名陽一, 大橋和彦, 本多俊毅 訳, 『資産価格理論』, 創文社, 1998.

[3] M. Harrison and D. Kreps, "Martingales and Stochastic Integrals in the Theory of Continuous Trading," it Stochastic Processes and Their Applications, 11 (1981), 215-260.

[4] J. E. Ingersoll, Jr., Theory of Financial Decision Making, Rowman & Littlefield, 1987.

[5] C. F. Huang and R. Litzenberger, Foundations for Financial Economics, North-Holland, 1988.

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