「私兵」・「私設軍」・「軍閥」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/30 17:28 UTC 版)
「民兵」の記事における「「私兵」・「私設軍」・「軍閥」」の解説
「私兵」、「軍閥」、および「暴力的な非国家主体」も参照 私兵とは、国家ではなく、ある限られた人物や団体が「私的」に作り上げた兵士をいう。広義では、目的も「私的」か否かは問わないが、狭義では、目的も「私的」である場合を指す。この、「私兵」と解釈されるべき民兵は世界的に数多く存在している。代表的な例としては、以下が挙げられる。なお、ここでは便宜上、独立主張のある地域などにおけるものは含まない。 狭義イエメンの武装部族 コロンビアの麻薬カルテル/マフィア/やくざ/暴力団など各種の組織犯罪 広義レバノンのヒズボラをはじめとする各宗派政治組織 アフガニスタンのムジャーヒディーン諸派 第一次世界大戦前後のドイツやオーストリアにおける武装政治団体 - スパルタクス団、フライコールなど なお、かつての日本の戦国大名や僧兵や神人、幕末の草莽隊や諸隊も、定義だけに照らせば私兵・軍閥と言えるが、通常これらを私兵と呼ぶことはまれである。対置されるべき正規軍、近代国民国家がまだ存在していなかったからである。 一部の国では、法律などによってその身分が制定されている場合もあるが、そのほとんどは政治団体・宗教団体や土地の有力者などによって脱法・非合法的に所有されている。規模・組織に関しては様々で、資産家や政治家といった富裕層の保有するボディーガード程度のものから、単なる私兵集団の域を超えて国家や国際社会にまで影響力を持つ集団まで様々である。一般的には小銃、拳銃といった小火器の装備がほとんどであるが、内戦状態の国では戦車・ロケット弾といった重装備を持つ例もある。 私兵が成立する要因としては、以下のものが挙げられる。 武器・重火器の所有を禁止・制限する法律が存在しない。あるいは、存在していても十全に機能していない。 政府・国軍の力が弱く、中央集権化がうまく行われていない。 国家とは別の、歴史的(近代以前から続く旧・王族や豪族)・宗教的・土着的(血族・氏族集団)な権力が、国内の全体もしくは一部に存在しており、その権力が時として国家をも上回る。 (特に新興の多民族(多宗派)のモザイク国家、旧植民地諸国において)同じ国民であるという意識(広義のナショナリズム)が存在していない。 政治闘争の激しい国において、国家が行えない非合法活動を代行させる。 かつて植民地だった地域では、植民地時代以前から、宗派や血縁、地縁で結ばれた中小グループが数多く存在していた。これらは常に武装しており、政策などが中央政府と食い違ったり、外国勢力が侵攻してきた場合には、対抗して闘争を繰り広げた。ときには、集団内において抗争を繰り広げることもあった。こうした集団は、これらの地域が独立して以後も一定の影響力を持ち続け、強権的な政府に対しても、警察権の行使などにおいて一定の妥協を求めた。こうした集団は現在でも数多く存在し、パキスタンではトライバルエリアなど事実上の自治区を築くに至っている。また、レバノンの各宗派政党、イエメンの武装部族も、こうした前近代的な権力を背景にした集団といえる。 中南米諸国では、古くから資産家や大地主が私兵を設ける事が多く(メキシコなど)、これら小規模な私兵をベースに、コロンビアなどでは冷戦期に政府や軍の肝煎りで民兵組織が結成される事もあった。後者は、ある意味「民兵」と訳されるべきmilitiaではあるが、後述の理由から政府や軍はあくまでも無関係を装っていた。こうした民兵組織は、国内で跋扈する左翼ゲリラとの対峙に主眼がおかれていた。しかし、それ以上に重要だった事は、国軍や警察が行えない非合法活動を行うことであった。このため、民兵組織のメンバー(幹部)には元軍人や情報機関関係者が就いている事も多い。これらの民兵は、左翼ゲリラに対する掃討も行ったが、左翼にシンパシーを持つといわれる貧民や知識人に対しても、拉致・拷問・処刑を繰り返した。特に、ストリートチルドレンの殺害は「街の清掃」などとも言われ、左翼ゲリラ同様に麻薬取引にも関わっている事もあって、国際的な人権問題に発展する事がしばしばあった。 この他にも、近隣の敵対的な国家が私兵を育成する例もある。レバノンでは、イスラエルがパレスチナ解放機構などに対抗させるためにキリスト教系の南レバノン軍(South Lebanon Army)を支援し、ヒズボラもイランやシリアから武器や資金などの支援を受けている。また、ミャンマー(ビルマ)では同国北部に拠点を置いて抵抗を続けたビルマ共産党を中華人民共和国が長年支援してきており、同党が内紛から瓦解した後に出現したいくつかの民兵組織にも支援を続けていると見られる。
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