「吉田調書」〔朝日新聞の報道〕
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「福島第一原子力発電所事故」の記事における「「吉田調書」〔朝日新聞の報道〕」の解説
詳細は「吉田調書」を参照 事故当時の福島第一原子力発電所所長であった吉田昌郎が政府事故調査・検証委員会の調べに答えた「聴取結果書」に関して、2014年5月20日、『朝日新聞』が「吉田調書」と題して特集し、2011年3月15日朝、福島第一原子力発電所にいた所員の9割に当たる約650人が吉田の待機命令に違反し、福島第二原子力発電所へ撤退していたと報道した。特集記事の朝日新聞デジタル版本文では吉田昌郎の「本当は私、2F(福島第二原子力発電所)に行けとは言ってないんですよ。ここがまた伝言ゲームのあれのところで(中略)よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思ったわけです」との証言を掲載しつつ、命令違反であったと結論していた(紙面には掲載されなかった)。『産経新聞』が8月18日、「伝言ゲーム」による指示の混乱はあったが、吉田自身に命令違反としての認識はなかったと報じ、『読売新聞』が8月30日、吉田昌郎が「よく考えれば、(線量の低い)2Fに行った方がはるかに正しいと思ったわけです」と追認していたことを指摘するなど、他の新聞、雑誌から福島第二原子力発電所への退避が命令違反であったとする報道を否定、糾弾する記事が相次いだ。朝日新聞社広報部は読売新聞社の「退避をなぜ『命令違反』と報じたか」という質問に対し、「『吉田調書』をそのまま報じるのではなく公共性、公益性の高い部分について東京電力の内部資料や関係者への取材とつきあわせて報じています」などとしていたが、9月11日、朝日新聞は同報道を取り消した。同日、内閣官房は吉田昌郎の『聴取結果書』を公開した。 2014年9月11日、朝日新聞社は、2014年5月の特集記事「吉田調書」について「誤った部分があり、訂正する考えだ」とするコメントを11日夕方、発表。2014年9月11日夜、朝日新聞社の木村伊量社長らが記者会見を行い、「間違った記事だと判断した」と述べ、記事を取り消す考えを明らかにした上で、「経営トップとしての私の責任も逃れられない」として「抜本改革のおおよその道筋をつけたうえで、速やかに進退について決断したい」と述べた。朝日新聞社では、一連の経緯について検証を行う「信頼回復と再生のための委員会」(仮称)を設置する。また、同時に、取締役編集担当役員の解職と関係者の厳正な処罰を発表し、木村伊量社長自身については「社内改革に道筋をつけた上で辞任すること」を示唆した。 また、同日に、朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」は、朝日新聞社が2014年5月20日付の朝刊で「所長命令に違反 原発撤退」の見出しで報じた、いわゆる「吉田調書」をめぐる報道について、朝日新聞社側が「報道と人権委員会」の見解を求めた申し立てについて、審理の対象とすることを決めた。 2014年9月12日の『朝日新聞』朝刊で「『命令に違反 撤退』という記述と見出しは、多くの所員らが所長の命令を知りながら、第一原発から逃げ出したような印象を与える間違った表現のため記事を削除した」とした。 記事が掲載されるまでの経緯については「社内では『命令』や『違反』の表現が強すぎるのではないかとの指摘が出たものの、取材源を秘匿するため、少人数の記者での取材にこだわるあまり、十分な人数での裏付け取材をすることやその取材状況を確認する機能が働かなかった」としている。 また、吉田元所長の証言記録の内、「よく考えれば2Fに行ったほうがはるかに正しいと思った」と評価していた部分を欠落させたことについては、「吉田元所長があとから感想を述べたにすぎず、必ずしも必要なデータではないと考えていた。発言の評価を誤り、十分な検討を怠っていた」としている。 その上で、木村伊量社長が紙面で「誤った内容の報道となったことは痛恨の極みです。読者と東京電力福島第一原発で働いていた所員をはじめ、みなさまに深くおわびします」と謝罪。 朝日新聞社は2014年9月13日の朝刊で、この「吉田調書」報道の間違いを認めて記事を取り消したことを受け、「東京電力社員らの9割にあたる約650人が吉田昌郎所長の待機命令に違反し、福島第2原発に撤退した」との報道に対し「事実をねじ曲げた」と報じ、朝日新聞に抗議書を送っていたノンフィクション作家の門田隆将、『週刊ポスト』、写真週刊誌『FLASH』、それに産経新聞社に「おわびの意思を伝えた」とする記事を掲載した。 また、朝日新聞は、2014年9月13日の朝刊の社説や1面コラムで、それぞれ謝罪した上で、誤報によって「誤った印象が海外に広まったこと」について、木村伊量社長名のおわびを、英語版に加え韓国語、中国語にも翻訳し、外国語サイトにも掲載。 社説では、「吉田調書」に関する記事を過去の社説でも取り上げていたことを挙記した上で「社説を担う論説委員室として、読者や関係者の方々にかさねて深くおわびします」と謝罪した。 また、『朝日新聞』夕刊1面コラム「素粒子」(2014年5月20日)では、原発事故を巡る「吉田調書」に関して「『フクシマ50』の称賛の裏に勝手に撤退した650人。傾く船から逃げだすように」と記していたが、2014年9月13日の同コラムでは、改めてこの問題に触れた上で「小欄の過剰な表現を撤回しおわびします」とした。 さらに、朝日新聞社は「抗議は前提となる事実を欠くものであり、抗議したこと自体が誤っておりました」とした上で、抗議書を撤回した上で、8月19日付の朝刊「産経記事巡り本社が抗議書」の記事を取り消す措置を採った。 この、吉田調書をめぐっては、『産経新聞』が2014年8月18日付の朝刊で門田隆将の寄稿「朝日は事実曲げてまで日本人おとしめたいのか」(東京本社版)を掲載したが、朝日新聞は「名誉と信用を傷つけられた」として、2014年8月18日付で産経の小林毅東京編集局長と門田あてに抗議書を送付し、紙面で報告していた。朝日新聞は、産経新聞への抗議書の中で「納得のいく回答が得られるまで貴社の取材には応じられませんので、回答は保留させていただきます」としていたが、これを撤回した。 朝日新聞社は2014年9月17日の朝刊社会面にて、「東京電力と関係者の皆様に改めておわびします」との記事を掲載した。 記事では「朝日は東電に対し、東京電力事故の吉田昌郎元所長の調書に関する報道の間違いについて、直接訪問しておわびしたい」と伝えたが、東京電力広報部からは「紙面により十分ご説明いただいているものと思っておりますので、わざわざお越しいただくまでもございません」などと文書で回答があったと掲載されている。東京電力広報部は、『読売新聞』の取材に対して、「(2014年9月)12日に朝日新聞から電話で、来社しておわびしたいという申し出があった。回答は記事に記載された通りです」と話している。
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