ロモグラフィー 芸術運動

ロモグラフィー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/15 01:02 UTC 版)

ロモグラフィーとは、トイ・カメラ [注 1]を用いて得られた写真、若しくはトイ・カメラを用いて得られた写真体験を共有しようとする芸術運動、若しくはその運動体であるロモグラフィック・ソサエティ・インターナショナル(SPI)、若しくはトイ・カメラを販売するSPIの事業会社のことである。

ロモグラフィック運動

1991年、ウィーン大学の学生であるヴォルフガング・シュトランツィンガー、マティアス・フィーグル、クリストフ・ホーフィンガーの三人は、プラハで露天商からソビエト連邦時代に作られた全自動カメラLOMO LC-Aを10SURで購入した[1][2]。LOMO LC-Aで撮影して得た写真の、極端に鮮やかな色彩と、不安定な画質を、前衛的だと感じた三人は、その素晴らしさを多くの人と共有すべく、写真展の開催を企画した[2]。この目論見は成功し、多くの共感を呼び起こした[2]。写真が実用性から解放された時、その芸術性がクローズアップされ、思いも寄らない驚きや新鮮な写真体験が生まれることがある[3]。このような状況下では、写真は単なる記録や文書化の手段ではなく、予測不可能性や意外性を含んだ芸術作品として認識される[3]。LOMO LC-Aを独自に入手する人々も現れ、やがて同じ写真体験を求める者たちが三人の元に集まってくるようになった。LOMO LC-Aで得た写真はロモグラフィー(: Lomographie)、愛好家はロモグラファー(: Lomographen)と呼ばれ、その写真体験と新たな表現方法を共有する芸術運動が広がっていった[3]

ロモグラフィー10ゴールデンルール

ロモグラフィー10ゴールデンルールは、ロモグラフィー運動の核心を簡潔に表現している[4]。これらのルールは1992年にウィーンの地元紙で初めて公表され、後に若干の改訂が加えられた[5][6]

  1. どこにでもカメラを持って行こう
    Take your camera everywhere you go
  2. 昼夜を問わずいつでも撮ろう
    Use it any time – day and night
  3. ロモグラフィーを生活の一部にしよう
    Lomography is not an interference in your life, but part of it
  4. 腰の位置から撮ってみよう
    Try the shot from the hip
  5. 被写体と近しくなろう
    Approach the objects of your Lomographic desire as close as possible
  6. 考えないで
    Don’t think (William Firebrace)
  7. 素早く
    Be fast
  8. 何を撮るか考えないようにしよう
    You don’t have to know beforehand what you captured on film.
  9. 撮れた写真を楽しもう
    Afterwards either
  10. 常識に囚われないようにしよう
    Don’t worry about any rules

ロモグラフィック・ソサエティ・インターナショナル

1992年に、ロモグラフィー運動の運動体としてロモグラフィック・ソサエティ・インターナショナル(LSI)が組織された[注 2][7]。LSIの主な目的は、ロモグラファー同士の交流やコミュニティの拡大を図ることだった[8]。彼らは写真展などの催事を主催し、LC-Aに限らず同様のカメラを東欧諸国から集めて頒布した[8][9]。また、作品の共有にはワールド・ワイド・ウェブを活用し、FlickrInstagramに先駆けて写真共有システムLomoHomeを構築した[4]

事業会社

LOMOからLC-Aの独占販売権を獲得するため、1995年に事業会社Lomographische GmbH[注 3]を設立した[11]。頒布方法も、LSIの頃は専ら催事会場での即売やワールド・ワイド・ウェブを通じたものがだったが、特約店を置くようになり、遂には2001年にウィーンに実店舗(ロモグラフィー・ギャラリーストア)を開設した[8]

ロモグラフィー・ギャラリーストア

2007年に上海で国外初のロモグラフィー・ギャラリーストアが開店し、2012年までにはウイーンも含め36店舗に拡大した[12]。しかし、その後は店舗数が減少し、現在は東京のみが残っている[9][13][14]

ロモグラフィー・ギャラリーストア・トーキョー

2008年7月に南青山四丁目に開店し、2010年12月に神宮前六丁目に移転した[15]。その後、2013年5月にロモグラフィープラスと名を変え外神田六丁目に移転し、2023年3月には現在地の神田小川町三丁目に移転した[16][17]。2000年に設立した日本法人の株式会社ロモジャパンが運営する[18]

製品開発

事業会社は、ロモグラファーの活動を支援するために、カメラ、フィルム、およびその他の関連用品の開発に力を入れている[19]。時にはクラウド・ファンディングも利用し、LC-Aの復刻や多重露光が可能なインスタント・カメラ110フィルムの再生産などのプロジェクトを実現した[20][21]

関連項目

  • LOMO LC-A - 運動の起点となったカメラ。
  • Lomo LC-A+ - LOMO LC-AをLSIの事業会社が復刻したカメラ。
  • Diana+ - LSIの事業会社が復刻したカメラ。
  • LOMO - 運動の起点となったカメラLC-Aを開発したソビエト連邦の国営企業。

外部リンク

  • ウィキメディア・コモンズには、ロモグラフィーに関するカテゴリがあります。
  • Lomography 日本”. Lomographische GmbH (2024年). 2024年4月13日閲覧。

脚註

註釈

  1. ^ トイ・カメラとは、安価なフィルム・スチル・カメラを指す。
  2. ^ 実は、ウィーンの公民館を借りるには個人ではなく団体である必要があったため、一先ずロモグラフィック・ソサエティ・インターナショナルの名を用いたのが起こりである[2]
  3. ^ 2000年8月から2021年6月の間はLomographische AGだった[10]

出典

  1. ^ Konrad Lischka (2009年8月9日). “25 Jahre LC-A” (ドイツ語). DER SPIEGEL. DER SPIEGEL GmbH & Co. KG. 2024年4月5日閲覧。
  2. ^ a b c d D’Arcy Doran (2012年7月25日). “An old-fashioned start-up” (英語). Financial Times. The Financial Times Ltd.. 2024年4月5日閲覧。
  3. ^ a b c 私のいる場所-新進作家展vol.4 ゼロ年代の写真論”. 東京都写真美術館. 公益財団法人東京都歴史文化財団 (2006年). 2024年4月5日閲覧。
  4. ^ a b seta (2019年3月28日). “モットーは「考えるな、とにかく撮れ!」 世界中で愛されるロモグラフィーの魅力”. hintos(ヒントス). 株式会社クレディセゾン. 2019年4月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年4月14日閲覧。
  5. ^ It's so easy...10 golden rules of lomography” (英語). About. Lomographic Society International. 1999年10月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年4月14日閲覧。
  6. ^ The 10 Golden Rules” (英語). Lomography. Lomographische GmbH. 2024年4月14日閲覧。
  7. ^ 走入LOMOGRAPHY|專訪創辦人MATTHIAS FIEGL及SALLY BIBAWY” (中国語). MiLK MAGAZINE (2023年8月8日). 2023年10月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年4月14日閲覧。
  8. ^ a b c Suzanne Ebeid (2002年8月2日). “A guide to Lomography” (英語). ePHOTOzine. Magezine Publishing Limited. 2024年4月14日閲覧。
  9. ^ a b John Paul Titlow (2015年11月8日). “How An Analog Photo Company Can Thrive In An Instagram Age” (英語). Fast Company. Mansueto Ventures LLC. 2024年4月13日閲覧。
  10. ^ Lomographische GmbH, Wien, Österreich” (ドイツ語). North Data Smarte Recherche. 2024年4月12日閲覧。
  11. ^ „Wir sind Langstreckenläufer“” (ドイツ語). 30 Jahre Hypo Tirol Bank. Hypo Tirol Bank AG (2022年8月1日). 2024年4月14日閲覧。
  12. ^ Stephen Dowling (2019年2月17日). “LOMOgraphy to close Paris store” (英語). Kosmo Foto. 2024年4月11日閲覧。
  13. ^ 【Gallery Store】結業感謝祭 - 連續三周、人氣產品低至 50% off !” (中国語). Lomography (2017年12月5日). 2024年4月11日閲覧。
  14. ^ 直営店の4月の営業スケジュールとプレオープン終了のお知らせ”. Lomography (2024年4月1日). 2024年4月11日閲覧。
  15. ^ 折本幸治 (2010年12月20日). “ロモグラフィー日本旗艦店が渋谷に移転オープン”. デジカメ Watch. 株式会社インプレス. 2024年4月11日閲覧。
  16. ^ 笠井里香 (2013年5月31日). “好みのフィルムカメラに出会えるかも? 「ロモグラフィー」の新空間、秋葉原にオープン!”. 女子カメ Watch. 株式会社インプレス. 2024年4月11日閲覧。
  17. ^ 宮本義朗 (2023年2月16日). “神保町のロモグラフィー直営店「Lomography+」がプレオープン…カメラやフィルムが当たる企画も”. デジカメ Watch. 株式会社インプレス. 2024年4月11日閲覧。
  18. ^ 篠原知存 (2017年10月30日). “フィルム、インスタントカメラじわじわ人気 二者活用の魅力 デジタル+アナログ、多彩な写真表現”. 産経ニュース. 株式会社産経デジタル. 2024年4月11日閲覧。
  19. ^ Alina Liu (2024年3月11日). “Lomography: 10 Golden Rules and 5 Best Lomo Cameras” (英語). Kate. 2024年4月13日閲覧。
  20. ^ Adam Blenford (2007年9月22日). “Lomos: New take on an old classic” (英語). BBC NEWS. British Broadcasting Corporation. 2024年4月14日閲覧。
  21. ^ Created — Lomography” (英語). Kickstarter. Kickstarter, PBC (2024年). 2024年4月14日閲覧。



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