インフレ‐きたい【インフレ期待】
インフレ期待
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/23 05:32 UTC 版)
「人工市場#合理的期待仮説」も参照 インフレ期待(inflation expectations)とは、人々の物価の先行きへの見込みを指し、人々の間に一様に物価が上がる(下がる)との見込みが広がると、それが人々の行動に反映され、経済活動にも影響すると考えられている。物価の安定を主な責務とする中央銀行にとっては、インフレ期待をコントロールすることが重要になってくるため、各国中央銀行は常にその動向を追っている。また、インフレ期待は、金融政策への信頼感にも影響されるため、中央銀行への信認の程度を反映するとも言われている。 経済学者のトーマス・サージェントによれば、政府の戦略・レジームに変更があれば民間経済主体は必ずそれに対応して、消費率・投資率・ポートフォリオなどを選択するための戦略・ルールを変更するとしている。例えば政策当局が将来的にインフレを許容する行動をとると予想されるか、或いはそれを許容しないと予想されるかで、消費・貯蓄・投資などに関する企業・家計の意思決定は、大きく異なってくる。 予想インフレ率の推計が政策レジームの変化(またはゲームのルールの変化)を検出するために重要な役割を果たす。 岩田規久男は「多くの人が抱くデフレ予想をインフレ予想に変えなければ、デフレ脱却はできない」「銀行貸し出しは増える必要はない。デフレ予想がインフレ予想に転換すれば企業がため込んだ内部留保を使って生産のための投資を始める」と指摘している。 経済学者の伊藤隆敏は「期待が変わらなければ賃金や物価の変化も期待できない。皆がデフレ予測を持っていれば賃金も下がるし、価格も下落する。デフレの自己実現的な期待が生じてしまう」と指摘している。 経済学者の根岸隆は「デフレ期待が強まれば投機的動機による貨幣の需要が増え、中央銀行がいくら貨幣供給量を増やしても金利が下がらず、いわゆる流動性の罠に陥る」と指摘している。 ポール・クルーグマンは「一定の条件が満たされればインフレが起こり、望ましい状況がもたらされる。その条件とは『国家の経済は将来的に落ち込まない』『中央銀行が実際に金融緩和を実現に移す』と人々が信じ、期待することである。将来インフレが到来すると確信すれば、手元の資産は目減りが予測されるのでおカネを使う理由が生まれる」と指摘している。 経済学者の岩井克人は「インフレ期待は、人々をマネー自体への投機から、アイデアに対する投機、モノに対する投資に向かわせる」と指摘している。 エコノミストの片岡剛士は「デフレが続くという予想(デフレ予想)が強固である限り、公共投資といった財政支出を行なったとしても、それが呼び水となって民間投資や民間消費が力強く増加することはない。こういった時には、単に量的緩和といった形でマネーを供給するのではなく、将来、デフレではなくインフレが生じていくのだという予想(インフレ予想)を形成させることが必要となる。このための手段として有効なのがインフレターゲット政策で、単なる量的緩和ではなく、インフレターゲットつきの量的緩和が必要となる」と指摘している。 田中秀臣、安達誠司は「デフレ脱却には、デフレ・ギャップの溝を埋めるよりもデフレ予想の転換が重要である」と指摘している。 一方期待インフレ政策に対しては反論も見られる。 「インフレターゲット#反論」も参照 ノーベル経済学賞を受賞している米国の経済学者ジョセフ・E・スティグリッツは「インフレ・ターゲットが政策手段になると主張する方も一部にいらっしゃいます。インフレ期待を形成させることができるかどうか。私は、インフレ期待を形成することは不可能であり、インフレにだけ焦点を当てるという政策はまちがっていると思います。」と述べている。「私の意見では、金融政策は全てのマクロ経済政策目的を達成するために行われるべきです。例えば、米国における政策目的は雇用・経済成長・物価安定です。」「金融政策の目標はマクロ経済の安定化であり、完全雇用を実現すべきです。これを実現する政策手段が適正な政策手段であります。」と述べ期待インフレを政策目標とすることを批判している。また「銀行のバランスシート上、マネーサプライと信用量が等しいという事実が、この分野における長年にわたる混乱の原因の一つです。回帰分析を行えば、この2つの数字は同じものになってしまうので、何が原動力になっているかを特定することは難しくなってしまいます。我々が主張している理論では、信用供給に焦点を当てた(政府紙幣発行のこと)訳です。例えばベースマネーが増加したとしても、信用供給に直接反映されない訳です。この点こそ日本が抱えている問題の1つなのかもしれません。通貨当局はベースマネーをコントロールしていますが、直接的には信用供給をコントロールしていません。最終的にはこの2つは同じかもしれませんが、何をコントロールしているかという点が重要だと思います。」と述べベースマネーと信用供給(こちらが直接に物価に影響する)を等しく見ることに対して問題を呈している。また「日本の場合のインフレターゲット論の問題点は、それが短期的に間違った変数に注目することであり、コミットメントが信用できるものだとすれば、金融当局は間違った戦略を長期に渡って推進することになる。金融政策は、今現在の実質金利よりも信用供給の拡大に注目したほうが正しく推測できる」と指摘している。。つまり金融政策による期待インフレではなく、信用供給に拠るインフレターゲットを主張している。
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