予想インフレ率と実質金利
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 23:21 UTC 版)
「量的金融緩和政策」の記事における「予想インフレ率と実質金利」の解説
「デフレーション#インフレ期待」および「デフレーション#金融政策」も参照 金融機関が、日本銀行に預け入れる無利子の預金のことを預金準備または準備といい、法律で自金融機関の預金の一定比率以上を預け入れることが定められており、この比率を超える超過準備のことをブタ積みという。 池尾和人は「全体のおカネをさらに増やすと、動くおカネが増えると量的緩和論者は主張している。だが、私は死蔵されるおカネがさらに増えるだけである。量的緩和政策では、おカネは日銀の準備預金として貯まっていく。準備預金の保有者は民間金融機関だから、彼らが引き出さなければ、市中に出回って動くおカネにならない。では、準備預金を10兆円から30兆円に増やしたら、民間金融機関が引き出す意欲が増すのか。やはり違い、貸し出し需要が増えなければ、民間金融機関は引き出さない」と指摘している。 「量的緩和を行っても日銀の準備預金が増えるだけで、おカネは市中には回らず消費も設備投資も増えない」という反論(ブタ積み論)について岩田規久男は「デフレ脱却のためには貨幣は増えなくてよい。景気回復が始まった2002年以降も貸し出しは2005年まで減っていたが、当時は企業はカネ余りの状態だったからである。しかし、企業の設備投資は増加していった。自己資金で設備投資をファイナンスした。今(2011年)も企業は貯蓄超過なので、貸し出しルートは問題ではない。予想インフレ率が上がると、死蔵されている貨幣の流通速度 が上がるからである。そうなると、いずれ貸し出しも増える。重要なのはインフレになるという期待であり、人々の期待に働きかけることである」と指摘している。岩田は「金融政策で予想に働きかけることを不安視する声もあるが、金融政策は基本的に予想に働きかけるものであり、予想を否定する金融政策はありえない」と指摘している。 池尾和人は「日銀の準備預金の残高を増やすとインフレ期待が高まるといった主張は正しくない。短期金利がゼロの状態では貨幣数量説は成り立たない」と指摘している。 岩田規久男は「金融を緩和しているどうかは、名目金利ではなく、予想実質金利で判断されるべきである」と指摘している。 ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンは「金融緩和によって名目金利が一定に抑えられていると、期待インフレ率が上がり実質金利は下がる」と指摘している。 「量的緩和が予想インフレ率に波及する経路がない」との反論がある。岩田規久男は「予想実質金利の低下が国債・株式・外国為替といった資産市場の市場価格の変化を引き起こす。こうした資産価格の変化が消費や実物資産投資、すなわち設備投資と住宅投資および輸出などの総需要を増やし、その総需要の増加が生産と雇用の増加をもたらすといった実体経済の変化を引き起こすまでには時間がかかる」と指摘している。 高橋洋一は「量的緩和を行えば予想インフレ率が高くなる。日本では半年程度のラグがあって、予想インフレ率は高くなった。日本だけでなく各国に実例があり、各国ともに中央銀行のバランスシートの拡大に応じて、予想インフレ率が高くなっている。そうなると、名目金利が一定に維持されていると、実質金利が低下する。名目金利はゼロ以下に下げられないが、実質金利はマイナスにもできる」「アメリカ・イギリスでは、量的緩和により実際に予想インフレ率は高まり、タイムラグを経て実際のインフレ率も上がってる」「量的緩和してから、予想インフレ率が上がり出すのは半年くらいずれるときが多い。さらに、実質金利が下がっても、すぐに設備投資は増えないこともある。貸し出しが増え出すのは、さらに遅れる」と指摘している。 予想実質金利 = 名目金利 - 予想インフレ率 高橋洋一は「実質金利の下落こそが、決定的にその後の経済動向に対して重要なのである」と指摘している。岩田は「お金を借りるほど実質的にマイナス金利が付くので、借りたお金で消費・投資をしたほうが得ということになる」と指摘している。 「インフレ期待が生じた場合、名目金利が上昇する(フィッシャー効果)」という批判がある。 フィッシャー効果についてベン・バーナンキは「長期的には成立しても、経済が不均衡の状態では当てはまらない。実際に中央銀行が金融緩和によってインフレ政策を行っても、物価水準は緩慢にしか変化せず、名目金利も緩慢にしか修正されない。そのため実質金利の低下は短期的に成立し、実体経済を浮揚させる効果を持つ」と指摘している。 高橋洋一は「フィッシャー方程式『名目金利=実質金利+予想インフレ率』において、予想インフレ率の上昇分だけ名目金利が上昇するためには完全雇用でなければならず、デフレ状況では直ちにフィッシャー効果は起こらない。現金需要が旺盛な状態であれば、インフレ期待が生じても一部の資金が債券購入にまわり、債券価格の下支えになって金利はなかなか上昇しない。これは、景気回復期と後退期でフィッシャー効果が非対称になるという実証研究から裏付けられている。1930年代大恐慌において、アメリカや日本の歴史事実を見ても、名目金利の上昇は見られなかった」と指摘している。また高橋は「デフレから脱却するために一時的に実質金利がマイナスとなるが、長期的にマイナスのままとはならない」と指摘している。
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