フィッシャー方程式とは? わかりやすく解説

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フィッシャー方程式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/12 05:33 UTC 版)

フィッシャー方程式(フィッシャーほうていしき、: Fisher equation)とは、アメリカ合衆国の経済学者アーヴィング・フィッシャーが提唱した、名目金利実質金利インフレ率(物価上昇率)の間の関係式で、名目金利 = 実質金利 + インフレ率 と表される。金利とインフレ率の期間は合わせる必要があるため、これからの契約に対してはインフレ率が確定していないので未来の分の期待インフレ率となり、名目金利 = 実質金利 + 期待インフレ率 となる。[1][2][3]

より形式的な表記では、iを名目金利、rを実質金利、πをインフレ率とし、(1 + i) = (1 + r) (1 + π) 。ただし、r×π が十分0に近ければ i = r + π または r = i - π として問題がない。[1][2]

概要

まず、過去~現在(ex-ante, 事前)に起きた現象は以下の関係性が成立する。

事前的実質金利 = 事前的名目金利 ー 事前的インフレ率

例えば、1年前に、自分が100万円の商品を購入する際の代金は銀行から名目金利5%で借り、その後1年間の物価の変動(インフレ率)が4%だったとする。借金を現在返済すると105万円を支払う必要があるが、100万円だった商品の価値は物価の変動に伴い104万円となっているため、実質的には差し引き1万円つまり1%の支払いですむ。上記の式で言えば 1% = 5% - 4% となる[4]

そして、この関係性を現在~未来(ex-post, 事後)に置き換えると以下の式になる[5][4][6][7]。この学問分野に大きく貢献したのは、アメリカの経済学者であるアーヴィング・フィッシャーであり、この方程式はフィッシャー方程式と呼ばれる[4][8]期待インフレ率: expected inflation rate)は予想インフレ率とも和訳される。金利とは未来に支払う利子に対してつくものなので、同じようにインフレ率も未来のインフレ率を使用する必要があり、そのため過去のインフレ率では無く、期待インフレ率を使用する。

実質金利 = 名目金利 ー 期待インフレ率

フィッシャー方程式の厳密解

金利差を取るのは近似であり、厳密には、倍率 = 1 + 変化率 とした時に、以下の関係性が成立している。

実質金利の倍率 = 名目金利の倍率 ÷ 期待インフレ率の倍率

冒頭の例も、105万円の返済は、1年前の価値に直すには 1.04 で割り、105万円 ÷ 1.04 = 100.96万円であり、つまり、本当の実質金利は0.96%である。

上記の式は、倍率 = 1 + 変化率 より、以下のように変形できる。

1 + 名目金利 = (1 + 実質金利) × (1 + 期待インフレ率)

そして、実質金利も期待インフレ率も 0 に近ければ、実質金利 × 期待インフレ率が 0 と近似できることより、式を展開して、実質金利 = 名目金利 ー 期待インフレ率 と近似できる。金利の引き算にした方が扱いやすいので、この近似が使われている。厳密解のまま引き算にしたい場合は、両辺の対数を取り、倍率の対数で扱えば割り算を引き算に変換できる。これらの導出方法の詳細は en:Fisher equation を参照。

債券

債券において、借入額と返済額は通常インフレ調整前の名目の金額で示される。しかし、インフレ率が0%よりも大きい場合は、将来返済される金額は、今日借りられる金額よりも価値が低くなる。債券の真の経済性を計算するには、将来のインフレ率を考慮して名目金利を調整する必要がある[1]

インフレ連動債

フィッシャー方程式は、債券の分析に使用できる。債券の実質収益率は、名目金利から予想インフレ率を差し引いたものとほぼ同じである。しかし、実際のインフレが債券の存続期間中に予想インフレを超える場合、債券保有者の実質収益率は低下してしまう。このリスクは、米国財務省のインフレ保護証券などのインフレ連動債がインフレの不確実性を排除するために作成した理由の1つである。インフレ連動債の保有者は、債券の実際の金利(元本と利息)がインフレの影響を受けないことが保証されている [9]

費用便益分析

Steve Hanke (英語版) 、Philip Carver、およびPaul Bugg(1975)などが述べているように[10]、正確なフィッシャー方程式が適用されない場合、費用便益分析は大きく歪む可能性がある。価格と金利は両方とも、実質または名目で予測する必要がある。

金融政策

フィッシャー方程式は、「実質金利が金融政策の影響を受けず、したがって期待インフレ率の影響を受けない」と主張するフィッシャー仮説において重要な役割を果たす。実質金利が固定されている場合、予想インフレ率の特定のパーセント変化は、方程式によれば、必然的に同じ名目金利の等しいパーセント変化に対応する。[要出典]

出典

  1. ^ a b c Cooper, Russell and John, A. Andrew. Theory and Applications of Macroeconomics. Creative Commons. https://2012books.lardbucket.org/books/theory-and-applications-of-macroeconomics/s20-14-the-fisher-equation-nominal-an.html 2021年4月4日閲覧。 
  2. ^ a b Fisher, Irving (1907). The Rate of Interest. Mansfield Centre, CT: Martino Publishing (2009); MacMillan (1907). p. Cover. ISBN 9781578987450 
  3. ^ フィッシャー方程式(ふぃっしゃーほうていしき)- 野村證券”. 2022年4月12日閲覧。
  4. ^ a b c 野口旭『「経済のしくみ」がすんなりわかる講座』ナツメ社、2003年、144頁。
  5. ^ 中谷巌『痛快!経済学』集英社〈集英社文庫〉、2002年、100頁。
  6. ^ ようやく世界標準の政策を採った日本銀行 量的緩和は物価・景気にこうやって効く」ダイヤモンド・オンライン2010年11月11日
  7. ^ 高橋洋一「ニュースの深層」 純白の政策委員会が真っ黒に!? 黒田日銀の「オセロゲーム」に見る専門家とサラリーマンの違い」現代ビジネス2013年4月8日
  8. ^ フィッシャー方程式で算出された期待インフレ率が引き上げられた分だけ名目金利が上がることをフィッシャー効果と呼ぶ。
  9. ^ Neely. “The Name Is Bond—Indexed Bond”. Federal Reserve Bank of St. Louis. 2021年4月5日閲覧。
  10. ^ Hanke, Steve H. (1981). “Project evaluation during inflation, revisited: A solution to Turvey's relative price change problem”. Water Resources Research 17 (6): 1737–1738. Bibcode1981WRR....17.1737H. doi:10.1029/WR017i006p01737. 

参考文献

  • Barro, Robert J. (1997), Macroeconomics (5th ed.), Cambridge: The MIT Press, ISBN 0-262-02436-5 .
  • Fisher, Irving (1977) [1930]. The Theory of interest. Philadelphia: Porcupine Press. ISBN 0-87991-864-0 

関連項目


フィッシャー方程式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/12 02:07 UTC 版)

実質金利」の記事における「フィッシャー方程式」の解説

まず、過去~現在(ex-ante, 事前)に起きた現象は以下の関係性成立する事前実質金利事前名目金利事前インフレ率 例えば、1年前に自分100万円の商品購入する際の代金銀行から名目金利5%で借りその後1年間物価の変動インフレ率)が4%だったとする借金を現在返済する105万円支払必要があるが、100万円だった商品価値物価の変動に伴い104万円となっているため、実質的に差し引き1万円つまり1%支払いですむ。上記の式で言えば 1% = 5% - 4% となる。 そして、この関係性を現在~未来(ex-post, 事後)に置き換えると以下の式になる。この学問分野大きく貢献したのは、アメリカの経済学者であるアーヴィング・フィッシャーであり、この方程式はフィッシャー方程式と呼ばれる期待インフレ率(英: expected inflation rate)は予想インフレ率とも和訳される。金利とは未来支払利子に対してつくものなので、同じようインフレ率未来インフレ率使用する必要があり、そのため過去インフレ率では無く期待インフレ率使用する実質金利名目金利期待インフレ率 期待インフレ率プラスであれば実質金利名目金利より低くなる逆にデフレ期待が高まる(物価下落する予想される=期待インフレ率がマイナスとなる)と、実質金利高くなるデフレにおいては通常中央銀行による金融緩和が行われて、政策金利引き下げられるが、もし名目金利を0%以下に下げることが出来ないならば(マイナス金利不可能であるならば)、実質金利は高い状態にあるため、借金ができず消費投資停滞してしまう現象見られるいわゆる流動性の罠)。 実質金利下げるには、下記2つ片方もしくは両方を行う必要がある名目金利下げ期待インフレ率上げる もし名目金利が現在0%にあり、名目金利を0%未満出来ないならば、実質金利下げるには上記の式に従うならばインフレ期待醸成し期待インフレ率上げ必要があるマネタリズムは、名目金利景気判断材料にするより、貨幣供給増加率安定的に保持し予想実質金利自動調整機能利用して景気安定化図った方が、結果的に景気変動をならすことができるとしている。通貨量を増やすことによりインフレ率高められるため、公開市場操作通じて資金供給オペレーション行いインフレ率コントロールしようとする。 名目金利を0%未満しにくいのは、紙幣硬貨名目金利が0%であり、それらが邪魔をするからである。しかし、現実には、日本含めいくつかの国で、名目金利を0%未満にするマイナス金利政策開始された。 人々利益費用名目的な貨幣の価値名目値ではなく貨幣でどれだけモノ買えるかという実質実質値)で考える。企業は、在庫投資設備投資を行うかを決め場合名目金利ではなく実質金利参考にする経済学者飯田泰之は「企業個人も含む)は実質金利という言葉知らなくても、実質金利考慮して投資額を決定している」と指摘している。

※この「フィッシャー方程式」の解説は、「実質金利」の解説の一部です。
「フィッシャー方程式」を含む「実質金利」の記事については、「実質金利」の概要を参照ください。

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