2001年から2010年頃
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「空気系」の記事における「2001年から2010年頃」の解説
芳文社の4コマ漫画雑誌『まんがタイム』の姉妹誌として、オタク系の男性読者が好む女性キャラクターを4コマ漫画に取り入れた「萌え4コマ漫画」を専門に扱う『まんがタイムきらら』が2002年に創刊、その後の10年間で同種の作品形態は人気を拡大し、漫画市場における1つのジャンルとして定着していった。そして後年、それら萌え4コマ漫画のアニメ化が空気系ブームの流れへと繋がってゆく。 2003年から連載の始まった谷川流のライトノベルシリーズ『涼宮ハルヒシリーズ』はセカイ系の作品例として挙げられることが多いが、評論家の宇野常寛は空気系としての性質も合わせ持った作風と評価し、2006年に『涼宮ハルヒの憂鬱』として京都アニメーションによってアニメ化された際には空気系のテイストが強調されたと述べている。その後、京都アニメーションは『らき☆すた』『けいおん!』といった空気系作品のアニメ化を積極的に行った。 ゼロ年代後半は、空気系が一種のブームとなった。2007年より蒼樹うめ原作『ひだまりスケッチ』のテレビアニメ放送が開始され、テレビシリーズ4期、特別編2作品にわたる人気作となった。初期のテレビシリーズでは、パースを潰した平面的デザインの背景画など、シャフト制作作品で新房昭之監督が従来から多用している映像的特徴が顕著だったが、これについて新房は、本作の作風に関しては映像の独自性よりも4コマ漫画のテイストをアニメ表現として試行錯誤した結果であると述べている。 同年、美水かがみ原作の『らき☆すた』が京都アニメーションによりテレビアニメ化。黒瀬陽平は同作について、セカイ系の流行が過ぎ去って「物語の語りにくさ」が指摘される中で、物語を持たない作品の二次創作が行われ、魅力的なキャラクターの人気によって支持を得たと述べている。『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』の制作に関わった山本寛は2009年時の発言で、(『らき☆すた』のような)ネタ消費型アニメはその場しのぎのものと考えていて、今後は「物語の復権」の方法を模索する方向を目指したいと述べた。この作品のヒットをきっかけに、空気系の作風はライトノベルの分野に伝播し、作品舞台を学校の生徒会室の内部のみにほぼ限定した葵せきなの『生徒会の一存』といった作品が登場した。 2009年には、空気系の代表的作品のひとつであるかきふらい原作の『けいおん!』がアニメ化、深夜帯の放送ながらシリーズ最高視聴率4.5%を記録し、関連商品を含む市場規模が150億円に達する大ヒット作品となった。本作が初監督作品となる山田尚子をはじめ、シリーズ構成の吉田玲子、キャラクターデザインの堀口悠紀子など中心スタッフを女性で固め、過度なセックスアピールを排したことで、性別や世代を問わず幅広い視聴層の支持を獲得した。アニメ評論家の小黒祐一郎は、ネガティブなドラマの排除と高度なリアリティ表現を両立している点が同作の特徴であり、劇中のキャラクター描写を通じて高校生の放課後を追体験するような視聴感覚が作品の魅力であると評した。ドラマチックなカタルシスなどを前提としたドラマツルギーを廃し、青春ものとしてごく普通のありふれた高校生活の描写に主眼を置いた作風に対して、シリーズ開始当初は「ドラマがない」とする批評も多かった。アニメ評論家の氷川竜介は、同作がヒットした理由として、コンフリクトの不在、男性キャラクターの排除が徹底的であった点を挙げた。他方、TBSのプロデューサーとして『けいおん!』シリーズなどのアニメ作品を手がける中山佳久は、同作が現実同様の学校生活の営みを描いた成長譚であると述べ、物語の希薄さを指摘する批評に対して「作品を短絡的に見ているだけなのではないか」と反論している。黒瀬陽平はこの作品を空気系の到達点であると評したが、広瀬は同作を空気系の先入観によってカテゴリ化することに否定的な見解を示した。漫画評論家の藤本由香里は、広瀬の主張を受け、同作の緻密な演出や描写の密度はゆるい日常系アニメのステレオタイプとは一線を画していると述べた。朝日新聞記者の小原篤は、男性登場人物の少ない本作が性別を問わず人気を得た理由として、類型化されたアニメ的な美少女キャラクターとは異なる女性からみた女の子のかわいらしさが描写されていることに加え、男女それぞれの立場で恋愛の煩わしさを敬遠する社会の風潮が背景にあると指摘している。
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