19インチシステム規格の適用とメトリックシステムの開発
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「19インチラック」の記事における「19インチシステム規格の適用とメトリックシステムの開発」の解説
1970年代および80年代を通じて、19インチシステム(DIN 41494シリーズあるいはIEC 297シリーズ)は主として欧州で、通信機器・交換機の機構として採用される。一方で、1982年に発表されたVMEbusの仕様では、そのコンピュータモジュールとシステムの機構に、DIN 41612コネクタとともに19インチサブラック/プラグインユニットの構造を採用した。VMEbusは32ビットのマイクロプロセッサを利用するオープンアーキテクチャーの標準コンピュータバスの仕様として、米国において産業用あるいは軍事用のコンピュータとして大きな注目を集め、マーケットにおける普及とともに、IEEEでIEEE 1014-1987 - IEEE Standard for A Versatile Backplane Bus: VMEbusとして規格化される。そこで用いられている19インチシステムもより実用的な構造規格として、IEEE 1101:1987 (Mechanical Core Specifications For Microcomputers, Standard For Describes the basic dimensions of a range of modular subracks conforming to IEC 297-3-1984, for mounting in equipment according to IEC 297-1-1986)が発行された。 19インチシステムにおけるサブラックとプラグインユニットは、19インチラックの規格からスタートし、プリント基板の相互接続の技術的課題を、既存の寸法系の中で解決しようとしたものである。プリント基板をプラグインユニットとしてモジュール化し、堅牢な構造のサブラックに収納する。収納されたモジュールはサブラックに固定されたバックプレーンによって相互接続される。その接続用に信頼性の確立したコネクタを採用する。すなわち19インチシステムの機構とDIN41612コネクタの組み合わせである。この構造は通信機器、電子計測、VMEbusなどの産業用コンピュータなど、様々な分野で採用されることになる。19インチラックはこうした電子機器システムの一番外側のハウジングとして利用された。 1980年代の後半になるとDIN・IEC・ETSIで新たな電子機器用の機構の開発と標準化の検討がはじまる。プリント基板の高密度実装、コネクタの多極化、電子機器の動作周波数の高速化、これらに付随するEMC対策、放熱対策の要求が顕在化したからである。プリント基板上の電子部品はデュアルインラインICの0.1インチピッチから、SMD/SMTの採用によるメトリックの実装グリッドに移行し、コネクタもDIN 41612コネクタ(0.1インチピッチ/96ピン)から2.5ミリメートルあるいは2ミリメートルのピッチでより多極化・高性能化したメトリック寸法のコネクタが開発されつつあった。さらに、19インチシステムではインチ系の寸法が基準となるためCAD/CAEの利用に馴染みにくいとして、電子機器用の機構の寸法体系をメートル系で統一するための基本寸法規格 (Generic Standard)、IEC 917 (Modular order for the development of mechanical structures for electronic equipment practices)が1988年に発行され、これに基づく実用規格としてメトリックシステムの開発がDIN・IEC・IEEEでスタートした。 メトリックシステムでは19インチシステムと同様に四つのレベルの階層を持つ。DINでは90年代初頭にコネクタは2.5ミリメートル (mm)ピッチのメトリックコネクタ (DIN 41642)の採用を前提にDIN 43356シリーズを完成していたが、IEEEでVMEbusの次世代を担う標準バスとしてFuturebus+ (IEEE 869)の開発が進んでおり、そこでは2ミリメートルピッチのコネクタの採用が決まったことから、IECとIEEEは並行してメトリックシステムの開発を進め、IEC 60917シリーズおよびIEEE 1301シリーズが90年代初頭に完成した。これを受けて19インチラックの寸法規格であったANSI/EIA RS310-Cは、IEEE1301シリーズと連携してメトリックキャビネット・ラックの寸法を導入したANSI/EIA-310-D 1992 に改定された。 メトリックシステムの特徴は次のようにまとめることができる。 電子機器用の機構の寸法体系をメートル系で統一した。その基本モジュール寸法は25ミリメートルで、ラックやキャビネットが設置される室内空間においてもこのモジュール寸法が敷衍される。一方では最小のモジュール寸法は0.5ミリメートルである。 プリント基板の高密度実装にともなうコネクタの多極化に対応して、プラグインユニットは挿抜機能持つハンドルが採用される。 プラグインユニットとバックプレーンの相互接続におけるコネクタの多極化、挿抜ハンドルの採用によるサブラックの剛性の向上が図られた。 電子機器の動作周波数の高速化によるRFI対策のため、サブラックにおける電磁シールド機能の追加が行われた。 プリント基板・プラグインユニットにおける熱の放散を考慮したサブラックの構造が採用された。 メトリックシステムは高度化する電子機器の要求に対応する機構が国際規格として標準化されたため、産業用コンピュータや通信機器の分野で、19インチシステムに取って代わると予想された。しかし、一連の規格開発の終了と前後して起きた東西冷戦構造の解消とともに、米海軍でのFuturebus+の採用プロジェクトが中止となり、米国におけるFuturebus+とメトリックシステムに対する期待が急速に低下し、その結果VMEbusの後継システムとしての開発プロジェクトが途絶えた。一方、ヨーロッパでは、メトリックシステムは通信機器用のETSIキャビネット/ラックとして採用が定着した。 90年代の中ごろ以降は、VMEbusの高性能化が図られる一方で、PCIバスなどのWindows PCのI/Oインターフェイスを産業用コンピュータバスに利用する動きが出てきた。その中で19インチシステムを採用したCompactPCIの仕様が1996年に開発されている。ここにおいて19インチサブラックはメトリックのそれと同じような2ミリメートルピッチ多極コネクタ採用し、それに対応するプラグインユニット用の挿抜式のハンドル、サブラックにおける電磁シールド機能の追加などが開発され、規格化がIEEEとIECで行われた。その結果、メトリックシステムの採用は大きく後退して今日に至っている。 19インチシステムは現在もなお、産業用コンピュータの主要な機構として、VMEbusやCompactPCIとともに採用されている。また、1990年の後半以降、インターネットの爆発的な普及で、ルーターやスイッチ、サーバがIT機器として新たなマーケットを形成したが、 これらの機器の大半は19インチラックへの搭載を前提としており、19インチシャシーの外形寸法を採用している。ここにISPやVoIPの電話網を構築するテレコムキャリアにおいて、19インチラックは広く採用されることになった。さらに2010年以降、IP網とクラウドコンピューティングの普及によってデータセンタの建設が急増すると、ここにおいても19インチラックの需要は拡大している。
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