EMC対策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/12 01:02 UTC 版)
機能接地 機能接地は、EMC対策では最も基本である。電磁エネルギーは、負荷線路から飛び出したエネルギーであるが、電界や磁界として回路や線路、あるいは寄生容量に留まる性質がある。その残留電荷を大地へ逃がす接地が機能接地であり、機器の性能や機能を維持する為に必須のものである。尚、フレームやシャーシなどの導電性構造部が十分に大きく残留電荷を気中へ自然放電できれば、接地ではなく機能ボンディングしてもよい。プリント基板やケーブル、装置の構成部品を機能接地(ボンディング)するのは、孤立導体を作らない為である。孤立導体が時間をかけて多くの電荷を持つと、絶縁を破壊して静電気放電することがある。 中性線接地の維持 単相機器では、行き線路である活線Lと戻り線路である中性線N(ニュートラル)は大きさが同じで逆向きの電流が流れる。スイッチング電源、トライアック制御など非線形負荷では高調波が発生し、その無効なエネルギーの一部はEMIとして放出され、残りは中性線を介して大地へ戻る。電源スイッチやスイッチング素子で中性線を開閉すると高調波エネルギーが重畳した線路をスイッチングすることになる為、放出するEMIは大きくなる。非線形制御される負荷では特に、中性線の接地状態を維持する必要がある(IEC、JISなどの技術基準では接地側である中性線のみの断路やスイッチングは基本的に許可していない)。 電子基板の設計 回路の外周はベタGNDで囲うとシールド効果を得ることができるが、わずかな違いでアンテナとしてEMIを放出する側になることもあり、設計技術が求められる。その他、素子のレイアウトを含め適正化によりEMC特性は大きく改善できる。 静電シールド内蔵フォトカプラ トライアックなどパワー半導体の前段で使用されるフォトカプラは発光側と受光側が絶縁されているがゆえに寄生容量があり、誤動作することが知られている。スナバ回路を使用して改善させることが一般的だが、静電シールド内蔵のフォトカプラはよりノイズに強いとされている。 スナバ回路 スナバ回路はコイルやコンデンサにより電荷が残留する回路をスイッチングする際に、発生するスパイク電圧dV/dtを抵抗により熱として消費させる保護回路で、機械的スイッチや電子的スイッチで使用される。 PFC回路 PFC回路は力率改善回路であるが、平滑コンデンサを使用する電源回路で発生する高調波を抑制できる。 ツイストペア ツイストペアケーブルはLANケーブルの信号線などに見られる平行した2線にひねりを加えて、電界と磁界が外部と結合しにくい、また発生したノイズが打ち消される電磁結合が強い線路である。4線で電磁結合するカッド線en:Star quad cableもある。ツイストペアはPWMなどでノイズが大量に重畳している電力・動力線でも有効である。 シールド線 シールド線は上記の信号線の外側に電磁シールドを施したものであり、一端を機能接地する必要がある(非接地では孤立導体となり帯電してしまう)。シャーシが十分に大きければ接地ではなく、シャーシにボンディングしても有効。 ファラデーケージ 静電シールドなど、複数の呼び方があるが、線路ではなく、部品や基板、機器を電磁遮蔽し、機能接地するもの。金属シャーシや筐体が実際に機能接地されているものはファラデーケージとして機能している。 CRフィルター LとNの間に配置し、Lで発生した高い周波数のノイズをNへコンデンサでバイパスさせ、抵抗でそのエネルギーを熱に変えて消費させる。 フェライトコア 線路外へ飛び出した高い周波数のノイズのエネルギーを熱に変えて消費させる。フェライトコアはチョークコイルでも使用される。 Yコンデンサ LとNの両方へコンデンサを配置し、大地へそのエネルギーを逃がす。デスクトップパソコン電源のYキャパシターの出力が筐体にボンディングされているものがある。その為、筐体を接地しないとYコンデンサーにより2つに分圧された対地電圧50Vが筐体に発生するケースがある。エネルギーが小さいので危険はないが、接地することにより電荷を大地に効率よく逃がすことができ動作が安定する。 差動・バランス線路 信号の線路は供給線路と戻り線路がある。通常戻り線路はシグナルGNDへ接続される。シグナルGNDがゼロ電位であれば、信号線路はノイズの影響を受けにくい。但し実際には電圧が存在する場合があり、信号のS/N比が悪くなる。戻り線路に供給線路と逆位相(位相差180°)の信号を使用すると、有効なシグナルGNDがなくとも、発生するノイズがキャンセルされ、信号のS/N比は良好な状態を維持できる。日本や米国で採用されている単相3線式の200V(米国は240V)は差動・バランス線路の一種であり、単相200V機器を接続した際、線路にノイズが発生しても逆位相の為キャンセルすることができる。 バリスタ XコンデンサやYコンデンサのように使用する。ESDなど瞬間的でより大きなノイズに対応できるとされている。 ラインフィルター EMIフィルターとも呼ばれる。複数のEMC対策部品を組み合わせた製品であるが、LとNの極性を合わせ、機能接地が確実でないと、本来の性能は発揮できない。 EMC対策部品メーカとしてはTDKや村田製作所が代表的である。EMCを取り扱う技術書としては、科学情報出版が発行する日本国内唯一の月刊誌である月刊EMCや、EMC専門ポータルサイトCENDなどが代表的である。
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