単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス (たんじゅんへるぺすういるす)
単純ヘルペスウイルス [herpes simplex virus]
単純ヘルペスウイルス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/09 00:30 UTC 版)
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単純ヘルペスウイルス | |||||||||||||||
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![]() 透過型電子顕微鏡像
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分類 | |||||||||||||||
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種 | |||||||||||||||
単純ヘルペスウイルス(たんじゅんヘルペスウイルス、Herpes simplex virus)とはウイルスの一つ[1]。
種類

DNAウイルスのヘルペスウイルスの一種。 1型と2型とがある[1]。
- 単純ヘルペスウイルス1型(Herpes simplex virus type 1 (HSV-1)):学名:Human herpesvirus 1 (HHV-1)
- 単純ヘルペスウイルス2型(Herpes simplex virus type 2 (HSV-2)):学名:Human herpesvirus 2 (HHV-2)
150 kbpのゲノム全長を持ち、80種類以上の遺伝子をコードしている。宿主の細胞膜を自身のエンベロープとして保有し、その内側にテグメントタンパク質、さらに内側にカプシド、カプシド内にウイルスDNAが詰め込まれている。成熟粒子は100〜150 nm(1ナノメートル=1ミリメートルの100万分の1)の大きなウイルスである。
皮膚や粘膜を介してヒトに感染したウイルスは、エンベロープを宿主細胞膜と融合 (fusion) させることで細胞に侵入する。細胞内にはテグメント (tegument) およびヌクレオカプシド (nucleocapsid) が放出される。核内でウイルスタンパク質合成、DNA合成が進み子供ウイルスが作られ、最終的に細胞外へと脱出する。ここでまた隣の細胞に感染することもある。
ウイルスは神経にそって上行し、脊髄神経節や三叉神経節や仙髄神経節に潜伏感染する。
潜伏感染時にウイルスDNAやタンパク質は合成されず、LAT (latency associated transcript (en)) とよばれる転写産物だけが検出される。
臨床像
- HSV-1は主に口唇ヘルペスを生じ、ヘルペス口内炎、ヘルペス角膜炎、単純ヘルペス脳炎の原因となりうるとともに三叉神経節に潜伏感染する。
- HSV-2は主に性器ヘルペス、新生児ヘルペス、ヘルペス髄膜炎、ヘルペス脊髄炎の原因となりうるとともに仙髄の脊髄神経節に潜伏感染する。
- 一般的にHSV-1は性器ヘルペスを起こさないと思われているが、実際はHSV-2同様原因となりうる。性習慣の変遷とともに必ずしもHSV-1が口、HSV-2が性器といった完全な棲み分けは成り立たない。
- 初感染したHSVは局所にて病巣を生じたのち、または不顕性感染のまま上記の神経節に潜伏感染する。免疫低下時や免疫抑制剤などの投薬時に再活性化され局所に痛みを水疱、びらんなどの症状を伴って現れることがある。これらの水疱を採取してトリパンブルー溶液などで染色、顕微鏡下で観察するとballooning-cellと呼ばれる巨細胞をしばしば認める。
- 再発性が高く、同じ場所に病巣が再発することが多い。
- ヘルペス瘭疽(ひょうそ):手指などに単純疱疹が多発し、相当な痛みを伴う。看護師などの医療従事者、重傷のアトピー性皮膚炎の患者に起こることがある。
- ヘルペス後神経痛:ウイルスの頻繁な再発で、感染した部位を中心に広範囲な神経痛(痛み、痺れ、疼痛)が後遺症として残ることがある。
- HSV-1は、頭頸部や中枢神経系のほかにも、肺や肝臓で感染症を引き起こすことがある[2]。
疫学
単純ヘルペスはヘルペスウイルスによる感染症であり、一旦感染すると現代の医学では完全に根絶することができず、そのため一生涯、神経節に寄生し続け、体調の悪化や紫外線、寒冷刺激、ストレスなどによって体の免疫力が低下したとき、単純ヘルペスのウイルスが増殖。神経節から神経繊維をとおって同じ場所で発症し、不愉快な症状を起こすことになる。調査によると日本人では60歳を超えると80%以上、推定では800万人以上が陽性、つまり寄生感染している状態といわれている。
治療
- ヘルペスウイルスなので、アシクロビルが有効。神経節内の潜伏感染しているウイルスに対して、アシクロビルは無効である。アシクロビルは、ウイルスのDNA複製を特異的に阻害するため、感染細胞内増殖中のウイルスに対してのみ効く。よって、再発を繰り返す。
- 角膜への感染には、イドクスウリジン (IDU) を点眼する。
- アメリカ合衆国では、再発性ヘルペスウイルス感染者に対し、毎日アシクロビルやバラシクロビルを52週間(1年)ほど服用させることで、その後の再活性化を抑える治療(再発抑制療法)が認可されている。
- 日本でも、再発性ヘルペスウイルスに対し、毎日アシクロビルやバラシクロビルを1年ほど服用させることで、その後の再活性化を抑える治療が、2006年9月より認可されている。
- ヘルペスウイルスの頻繁な再発による後遺症として、残った神経痛を和らげるためには長期間の治療が必要となる。神経痛を和らげるための治療法については、各製薬会社や医療機関により、現在も研究開発が進められている。世界では2002年に、アメリカ合衆国でイギリス系製薬会社による女性対象に、単純ヘルペスワクチン候補薬の治験が実施される。現在も米国および英国で、単純ヘルペスワクチンおよび局所感染予防薬や完治薬の研究開発中である。日本での研究では、東京大学や大阪大学で単純ヘルペス感染の仕組みが解明され、完治に向けた新しい治療法や感染予防法の開発に活かされている。最近の研究成果により、東京大学で薬剤ML-7により、単純ヘルペス感染予防の動物実験に成功している。
出典
- ^ a b 川口寧「単純ヘルペスウイルス(HSV)」『ウイルス』第60巻第2号、2010年、187-196頁、doi:10.2222/jsv.60.187。
- ^ O'Connor MB and Phelan MJ. Rheumatol Int. 2011 Jan 18. [Epub ahead of print]
関連項目
単純ヘルペスウイルス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/18 02:58 UTC 版)
「腫瘍溶解性ウイルス」の記事における「単純ヘルペスウイルス」の解説
詳細は「腫瘍溶解性ヘルペスウイルス(英語版)」を参照 単純ヘルペスウイルス(HSV)は研究が進んでおり遺伝子加工が容易でヒト正常細胞には比較的無害(稀に単純疱疹を生じる)で危険性が低く癌細胞選択的な攻撃特性を有する最初のウイルスであると思われた。1型単純ヘルペスウイルス(HSV-1)の変異体1716はICP34.5遺伝子を欠き、分化し細胞分裂しなくなった細胞内では自己複製できないが、癌細胞に感染して効果的に細胞融解をもたらすもので、癌のウイルス療法に適したものであった。in vivo で癌細胞株を広範囲に検討した結果、HSV1716(英語版)ウイルスが腫瘍を縮小(英語版)させ、生存期間を延長することが明らかとなった。 1996年、欧州でHSV1716を用いた治験が初めて実施承認された。1997年から2003年まで、毒性や副作用に関する情報が乏しいまま、HSV1716株は膠芽腫(悪性度の高い脳腫瘍)患者の腫瘍内部に注入され、患者の一部は長期生存した。 その他にHSV1716の安全性を検討する臨床試験が悪性黒色腫ならびに頭頸部扁平上皮癌を対象に実施された。HSV1716の外殻を改変したウイルス株がいくつかの癌の治療に応用され、様々な遺伝子を癌細胞に導入できる様になってから、遺伝子に化学療法剤を結合して無害なプロドラッグとして細胞内に侵入させてから内部で切り離して毒性を発現させたり、放射性ヨウ素でタグ付けされた蛋白質を細胞内に濃縮させ、その放射線で癌細胞を破壊するといった手法が開発された。 他のHSV系の腫瘍溶解性ウイルスも開発が進み、臨床試験が実施されるようになった。最も注目すべきものは進行悪性黒色腫に対する極めて重要な第III相臨床試験を終了させたOncoVex GM-CSF(英語版)であろう。この試験の主要評価項目は生存期間の延長であり、2013年3月に世界で初めて[要出典]ウイルス療法剤として統計学的に高度な有意差を以って示された。アメリカ食品医薬品局(FDA)は 2015年10月27日、皮膚およびリンパ節のメラノーマ病変の治療に対し、初めての腫瘍溶解性ウイルス製剤talimogene laherparepvec(略称:T-VEC、商品名IMLYGIC)を承認した。
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