プロドラッグ
英語:prodrug
それ自体は薬理活性を全くあるいはほとんど持たないが、体内で代謝されることにより活性化し、薬効を発揮する薬剤。
プロドラッグが投与されると、体内で加水分解や酵素による変換などを経て別の物質に変化し、その物質が薬理活性を示す。従来薬理作用を持つといわれていた物質が、のちの研究でプロドラッグであることが判明した例もある。
創薬においては、薬剤のプロドラッグ化は重要な手法の一つである。例えば、プロドラッグ化により経口投与が可能になったり、苦味が軽減されたり、水溶性が増大したりした例がある。また、「ロキソニン」などの商品名で市販されているロキソプロフェンは、プロドラッグ化により胃や腸への負担が少なくなっている。
プロドラッグ化は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の構築においても重要な手法の一つである。例えば、薬剤にキャリアーとなる高分子を付加し、標的に到達した時点でキャリアーが外れて活性化するという仕組みが採られることがある(受動的標的指向型DDS)。抗体や糖鎖の修飾により、薬剤に標的認識機能が付与される例もある(能動的標的指向型DDS)。
プロドラッグ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/06 08:06 UTC 版)
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プロドラッグ(英: Prodrug)とは、投与されると生体による代謝作用を受けて活性代謝物へと変化し、薬効を示す医薬品である[1]。
目的
- 作用の持続化
- 脂溶性増大
- 副作用・毒性の軽減
- 安定化
- 味・においの改善
- 経口投与におけるバイオアベイラビリティ(特に消化管からの吸収し易さ)の改善
1、2、4、6は、吸収、分布、代謝、排泄に関する物性、いわゆるADMEの最適化により達成されることが多い。3.の例は、多くのがんに対する化学療法薬において見られ、プロドラッグ戦略により意図した標的への薬物の選択性を向上させる(ターゲティング)。
低酸素状態のがん細胞を標的にする医薬品は、還元活性化を行う。すなわち、低酸素状態の細胞内に存在する多量の還元酵素を利用し、プロドラッグを細胞毒性型へと変換する。活性化前の形態がより低い細胞毒性を示すならば、健康な正常細胞を傷つける可能性を著しく軽減させ、結果として副作用を軽くすることができる。
医薬品設計における位置づけ
合理的医薬品設計においては、新規化学物質の構造を操作しながらバイオアベイラビリティを改善してゆくが、そのためには、体内での主な代謝経路や、吸収改善ための化学的特性を知ることが重要である。しかし、意図せずプロドラッグが用いられることもある。特に偶然の発見により開発された医薬品の場合は、当初活性を示すと思われていた化合物が、詳細な代謝研究の後にプロドラッグであったと判明することがある。
化学構造の変換
薬物のプロドラッグへの変換には様々な置換基による化学修飾が成されるが、カルボキシ基やヒドロキシ基を持つ化合物をエステル化し、脂溶性を高めて吸収性を改善するなどの例が最も多い。エステル結合は肝臓などに存在するエステラーゼの作用によって容易に切断され、活性本体となる。
モルヒネの2つのヒドロキシ基をアセチル化し、大脳への移行性を高めたヘロインが、典型例として挙げられる。
プロドラッグ化は、あくまで薬物の化学構造の変換によるものであって、投与方法の変更(たとえば、錠剤から注射剤へ)は含まれない。
分類
プロドラッグは、どこで最終的な活性な薬物形態に変換されるかに基づいて、2つのタイプに分類できる。タイプ1は細胞内で変換が行われるもの(例:抗菌性ヌクレオシド類、高コレステロール血症剤のスタチン類、化学療法に用いる抗体依存型/遺伝子依存型酵素プロドラッグ[ADEP/GDEP])、タイプ2は細胞外、特に消化物中、もしくは体循環中に変換されるもの(例:エトポシド、バルガンシクロビル、ホスアンプレナビル)である。それぞれのタイプは更にサブタイプA、Bに分けられる。タイプ1Aと1Bは、活性形態への変換が行われる場所が薬物の作用の場所であるかどうかにより決められる。タイプ2Aと2Bは変換の場が、消化物中か体循環中かにより分類される [2]。
タイプ | 変換の場 | サブタイプ | 変換が行われる組織 | 例 |
---|---|---|---|---|
タイプ1 | 細胞内 | タイプ1A | 治療目的の組織/細胞 | ジドブジン、 フルオロウラシル |
タイプ1 | 細胞内 | タイプ1B | 代謝組織(肝臓/肺など) | カプトプリル、 シクロフォスファミド |
タイプ2 | 細胞外 | タイプ2A | 消化物 | スルファサラジン(サラゾスルガピリジン)、酸化ロペラミド |
タイプ2 | 細胞外 | タイプ2B | 体循環 | フォスフェニトイン、 バンブテロール |
治療標的と変換の場が同じ場合(例:HMG-CoA還元酵素阻害剤)、1つのプロドラッグがタイプ1Aとタイプ1Bの両方に属することもありうる。
プロドラッグの例
プロドラッグ → 活性代謝物の順で記述。
- 加水分解されるもの
- オセルタミビル(タミフル) → オセルタミビルカルボキシレート(エチルエステルの加水分解と脱リン酸)
- エナラプリル → エナラプリラート(エステル加水分解酵素)
- バラシクロビル → アシクロビル(エステル加水分解酵素)
- ホスアンプレナビル → アンプレナビル
- シロシビン → シロシン
- ヘロイン → モルヒネ(エステル加水分解酵素)
- クロラムフェニコールコハク酸エステル → クロラムフェニコール(純粋なクロラムフェニコールが水に溶解しないため、静脈内プロドラッグとして用いられる。)
- ジピベフリン → アドレナリン(緑内障薬として局所投与)
- リスデキサンフェタミン → デキストロアンフェタミン(アンフェタミンのD型異性体)(ペプチド結合加水分解)
- DOPA脱炭酸酵素による変換
- P450による代謝
- 日本で未承認のもの
出典
- プロドラッグ 日本薬学会
- 今井輝子、プロドラッグとアンテドラッグ/ソフトドラッグの加水分解に関与するエステラーゼ Drug Delivery System., Vol.30 (2015) No.5 プロドラッグ・アンテドラッグによるDDS創薬 p.422-432, doi:10.2745/dds.30.422
脚注
- ^ 金子久美子、水島裕、「プロドラッグ」 炎症 1981年 1巻 2号 p.316, doi:10.2492/jsir1981.1.2_316
- ^ Kuei-Meng Wu; James G. Farrelly. “Regulatory perspectives of Type II prodrug development and time-dependent toxicity management: Nonclinical Pharm/Tox analysis and the role of comparative toxicology”. Toxicology 236 (1-2): 1-6. doi:10.1016/j.tox.2007.04.005.
外部リンク
- 池田敏彦、[OPINION]プロドラッグ今昔 Drug Delivery System., Vol.30 (2015) No.5 プロドラッグ・アンテドラッグによるDDS創薬 p.420, doi:10.2745/dds.30.420
- 水間俊、腸管における代謝 日本薬理学雑誌 Vol.134 (2009) No.3 P.142-14, doi:10.1254/fpj.134.142
プロドラッグ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/06 08:21 UTC 版)
5-FUを親化合物として、作用の持続性向上や腫瘍組織へのターゲティング(選択的移行性向上)を目的としていくつものプロドラッグが開発されている。いずれも最終的に5-FUとなり薬効を示すため、併用禁忌である。 作用持続化を目的としたもの:テガフール、UFT(テガフール+ウラシル)、S-1(テガフール+ギメラシル+オテラシルカリウム)、カルモフール ターゲテングを目的としたもの:ドキシフルリジン、カペシタビン 抗真菌薬として、真菌細胞内で代謝され効果を発揮するフルシトシン(5-FC、5-フルオロシトシン)がある。これはシトシンの誘導体であり、ヒトの体内では5-FUになることはない。
※この「プロドラッグ」の解説は、「フルオロウラシル」の解説の一部です。
「プロドラッグ」を含む「フルオロウラシル」の記事については、「フルオロウラシル」の概要を参照ください。
プロドラッグと同じ種類の言葉
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