カプトプリルとは? わかりやすく解説

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カプトプリル

分子式C9H15NO3S
その他の名称カプトプリル、CaptoprilSQ 14,225、1-[(S)-3-Mercapto-2-methylpropionyl]-L-proline、カポテン、Capoten、SQ-14225、(2S)-1-[(2S)-3-Mercapto-2-methylpropionyl]-2-pyrrolidinecarboxylic acid、(2S)-1-[(S)-3-Mercapto-2-methylpropanoyl]-2-pyrrolidinecarboxylic acid(-)-カプトプリル、SA-333、(-)-Captopril、カプトリル、アセプレス、Acepress、テンソベン、コルテンソベン、ロプリル、ロピリン、アセプリル、Lopril、Tensoben、Lopirin、Aceprilil、Cortensoben、S,S-カプトプリル、S,S-Captopril、N-[(S)-3-Mercapto-2-methylpropionyl]-L-proline、N-[(2S)-2-Methyl-3-mercaptopropionyl]-L-proline、L-カプトプリル、Captoril、アポプリール、Apopril、オンフルール、Onfrule、カトナプロン、Katonaplon、カトプロン、Ktplon、カプシール、Kapuseal、カプトルナ、Captoruna、カプトーワ、Captowa、カポテック、Capotec、コバプリル、Kobapril、ダウプリル、Dowpril、ブレアリン、Brealin、カプトリル-R、Captoril-R、L-Captopril
体系名:1-[(2S)-3-メルカプト-2-メチルプロピオニル]-L-プロリン、(2S)-1-[(S)-3-メルカプト-2-メチルプロパノイル]-2-ピロリジンカルボン酸、(2S)-1-[(2S)-3-メルカプト-2-メチルプロピオニル]-2-ピロリジンカルボン酸、1-[(S)-3-メルカプト-2-メチルプロピオニル]-L-プロリン、N-[(S)-3-メルカプト-2-メチルプロピオニル]-L-プロリン、N-[(2S)-2-メチル-3-メルカプトプロピオニル]-L-プロリン


カプトプリル

【仮名】かぷとぷりる
原文captopril

高血圧治療用いられる薬物で、がんに対す放射線療法による副作用の予防でも研究中である。ace阻害薬という種類薬物である。

カプトプリル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/21 07:48 UTC 版)

カプトプリル
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 Capoten
Drugs.com monograph
MedlinePlus a682823
胎児危険度分類
  • AU: D
  • US: D
法的規制
薬物動態データ
生物学的利用能 70–75%
代謝 Hepatic
半減期 1.9 hours
排泄 Renal
データベースID
CAS番号
62571-86-2 
ATCコード C09AA01 (WHO)
PubChem CID: 44093
IUPHAR/BPS英語版 5158
DrugBank DB01197 
ChemSpider 40130 
UNII 9G64RSX1XD 
KEGG D00251  
ChEBI CHEBI:3380 
ChEMBL CHEMBL1560 
PDB ligand ID X8Z (PDBe, RCSB PDB)
化学的データ
化学式
C9H15NO3S
分子量 217.29 g/mol
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カプトプリル(Captopril)とはアンジオテンシン変換酵素阻害薬の一つである。アンジオテンシン変換酵素(ACE)を抑制することにより血圧を低下させる[1]。さらにアルドステロン分泌の抑制による利尿作用を有する。高血圧鬱血性心不全の治療に使用される。カプトプリルは初のACE阻害薬であり、新規作用機序ならびに新規開発手法の2つの意味で革新的と云われる[2]副作用として肺のブラジキニン増加による空咳が生じる。商品名カプトリル経口投与薬で、1日3回服用の錠剤と1日2回服用のカプセル剤がある。

構造としては(S )-プロリンL-プロリン)のN 置換体である。

ショウジョウバエのACE-カプトプリル複合体[3]

効能・効果

錠剤・細粒[4]
本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、悪性高血圧
カプセル剤[5]
本態性高血圧症、腎性高血圧症

カプトプリルの作用は主に血管拡張作用と腎保護作用に基づく。心筋梗塞後の心不全治療や糖尿病性腎症の治療にも用いられる。

加えて、一部の患者に対しては気分安定(上昇)薬として作用する。動物実験でカプトプリルの抗うつ作用があると見られ、臨床研究が1回実施されたが有効性を示す事はできなかった。抗うつ効果を評価する正規の臨床試験は実施されていない[6]

肺癌に対する縮小効果が研究された事がある[7]

禁忌

下記の患者には禁忌とされている[4][5]

  • 製剤成分に対し過敏症の既往歴のある患者
  • 血管浮腫の既往歴のある患者
  • デキストラン硫酸固定化セルロース、トリプトファン固定化ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートを用いた吸着器によるアフェレーシスを施行中の患者
  • アクリロニトリルメタリルスルホン酸ナトリウム膜(AN69)を用いた血液透析施行中の患者
  • 妊婦または妊娠している可能性のある婦人
  • アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者(ただし、他の降圧治療を行ってもなお、血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)

副作用

添付文書で重大な副作用とされているものは、アナフィラキシー血管浮腫、汎血球減少、無顆粒球症急性腎不全、ネフローゼ症候群、高カリウム血症天疱瘡様症状、皮膚粘膜眼症候群、剥脱性皮膚炎、狭心症心筋梗塞鬱血性心不全、心停止、錯乱、膵炎である[4][5](全て頻度不明)。

そのほか、血中ブラジキニン増加、蛋白尿味覚異常催奇形性起立性低血圧白血球減少が発生する[8]。起立性低血圧がカプトプリルに特有な即効性短時間性の効果による他は、一般にACE阻害薬に共通すると考えられている副作用である。

咳嗽はACE阻害薬共通の副作用として知られている。カプトプリルの咳嗽の発生率は1989年9月の再審査結果公表時点では0.1%未満とされていたが[4]、クラスエフェクトとして認識された後の1994年3月では1.64%とされている[5]。高カリウム血症は、特に他薬(カリウム保持性利尿薬など)を併用していて血中カリウムが上昇しやすい状態である場合に多い。

その他0.1%に発生する副作用として、BUN上昇、血清クレアチニン上昇、発疹、 瘙痒 そうよう、食欲不振、嘔気・嘔吐、下痢、AST(GOT)上昇、ALT(GPT)上昇が知られている[4][5]

過量投与

カプトプリルや他のACE阻害薬の過量投与ナロキソンで治療できる[9][10][11]

薬物動態

多くのACE阻害薬とは異なり、カプトプリルはプロドラッグではない。プロドラッグでないACE阻害薬は他にリシノプリルのみである[12]。服用されたカプトプリルの約7割が体内に吸収される。胃内に食物があると生物学的利用能は低下する。血中半減期は錠剤で0.43時間[4]〜0.62時間[5]、カプセル剤で2.13時間[5]である。一部は未変化で、一部は代謝された後に、尿中に排泄される[13]。排泄量は、服用後24時間で全体の約23(その半分は未変化体)である。代謝は主にグルタチオン抱合であり、尿中に優勢な代謝物は抱合体の分解物であるカプトプリル-システインジスルフィドである[14]:21[15]:22

開発の経緯

カプトプリルは1975年に発見された。リガンドを念頭に置いて実施された薬物開発の最初の成功例である。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系は20世紀中盤から活発に研究されており、降圧薬の良いターゲットであることが示されていた。最初に目標とされた分子はレニンアンジオテンシン変換酵素(ACE)であった。最初の突破口は1967年に見出された。アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換が体循環中ではなく肺循環中で発見された[16][17][18]。それとは対照的に、ブラジキニンが肺循環を通過している間に活性消失する事も発見された。このアンジオテンシンの変換とブラジキニンの不活化は、同一の酵素で触媒されていると考えられた。

1970年、ブラジキニン作用増強因子(BPF)[19]が、肺循環中でのアンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を妨げることが発見された。BPFは、毒蛇(Bothrops jararaca )の毒液ペプチドであり、後にアンジオテンシン変換酵素の“collected-product inhibitor[訳語疑問点]”であることが発見された。

カプトプリルはこのペプチドを基に定量的構造活性相関の手法で探求され、遂にペプチド末端のメルカプト基が高いACE阻害活性を有することが発見された[20]

カプトプリルの承認申請は米国では1981年4月に許可された。日本では1977年に開発が始まり、1982年10月に錠剤と細粒が承認された[14]:1。徐放カプセル剤は1988年9月に承認された[15]:1

カプトプリルの開発は、最初に蛇毒を矢毒に用いていたブラジルの先住民族に何の利益ももたらさなかったので、「バイオパイラシー」(生物資源の盗賊行為英語版)だと非難する声が上がっている[21]

カプトプリル後の開発

カプトプリルの欠点

カプトプリルの副作用は他のACE阻害薬と大きく変わらず、主な副作用は咳嗽である[22]。しかし、カプトプリルではそれ以外にもチオール基に基づく発疹や味覚異常(金属味や味覚消失)も発生する[23]

カプトプリルは薬物動態的にも勝れているとは言えず、血中半減期が短いために1日2回〜3回の服用が必要で、患者の服薬コンプライアンスを低下させている。

後続のACE阻害薬

上記の副作用や薬物動態上の欠点を解消するため、エナラプリルやその後のACE阻害薬が開発された。発疹や味覚異常を引き起こすと思われていたスルフヒドリル基を取り除く事が薬剤設計の条件の一つとされた[24]生物学的利用能を向上させるために、多くの場合プロドラッグ化された。後続の全てのACE阻害薬は血中半減期が長いので1日1回〜2回投与であり、服薬コンプライアンスの改善に寄与していると思われる。

出典

  1. ^ 伊藤勝昭他 (2004). 新獣医薬理学 第二版. 近代出版. ISBN 4874021018 
  2. ^ “Chronicals of drug discovery, vol. 2.”. Journal of Pharmaceutical Sciences 74 (9). (1985-07). doi:10.1002/jps.2600740942. 
  3. ^ Akif, M.; Georgiadis, D.; Mahajan, A.; Dive, V.; Sturrock, E. D.; Isaac, R. E.; Acharya, K. R. (2010). “High-Resolution Crystal Structures of Drosophila melanogaster Angiotensin-Converting Enzyme in Complex with Novel Inhibitors and Antihypertensive Drugs”. Journal of Molecular Biology 400 (3): 502–517. doi:10.1016/j.jmb.2010.05.024. PMID 20488190. 
  4. ^ a b c d e f カプトリル錠12.5mg/カプトリル錠25mg/カプトリル細粒5% 添付文書” (2014年6月). 2016年5月7日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g カプトリル-Rカプセル18.75mg 添付文書” (2014年6月). 2016年5月7日閲覧。
  6. ^ Novel Pharmacological Approaches to the Treatment of Depression
  7. ^ Attoub S; Gaben AM; Al-Salam S et al. (September 2008). “Captopril as a potential inhibitor of lung tumor growth and metastasis”. Ann. N. Y. Acad. Sci. 1138: 65–72. doi:10.1196/annals.1414.011. PMID 18837885. http://www3.interscience.wiley.com/resolve/openurl?genre=article&sid=nlm:pubmed&issn=0077-8923&date=2008&volume=1138&spage=65. 
  8. ^ Captopril (ACE inhibitor): side effects”. lifehugger (07-09-2008). 2009年5月2日閲覧。
  9. ^ Goldfrank's toxicologic emergencies, Lewis R. Goldfrank,Neal Flomenbaum, page 953.
  10. ^ Meyler's Side Effects of Analgesics and Anti-inflammatory Drugs, Jeffrey K. Aronson, page 120.
  11. ^ Ajayi, A A (1985). “Effect of naloxone on the actions of captopril”. Clin Pharmacol Ther 38 (5): 560–565. 
  12. ^ Brown, NJ; Vaughan, DE (1998). “Angiotensin-converting enzyme inhibitors”. Circulation 97 (14): 1411–20. doi:10.1161/01.cir.97.14.1411. PMID 9577953. https://circ.ahajournals.org/content/97/14/1411.full. 
  13. ^ Duchin, KL; McKinstry, DN; Cohen, AI; Migdalof, BH (1988). “Pharmacokinetics of captopril in healthy subjects and in patients with cardiovascular diseases”. Clinical pharmacokinetics 14 (4): 241–59. doi:10.2165/00003088-198814040-00002. PMID 3292102. 
  14. ^ a b カプトリル錠12.5mg/カプトリル錠25mg/カプトリル細粒5% インタビューフォーム” (PDF) (2015年3月). 2016年5月7日閲覧。
  15. ^ a b カプトリル-Rカプセル18.75mg インタビューフォーム” (PDF) (2015年3月). 2016年5月7日閲覧。
  16. ^ Ng KKF and Vane JR: Conversion of angiotensin I to angiotensin II. Nature 1967, 216, 762-766.
  17. ^ Ng KKF and Vane JR: Fate of angiotensin I in the circulation. Nature, 1968, 218, 144-150.
  18. ^ Ng KKF and Vane JR: Some properties of angiotensin converting enzyme in the lung in vivo. Nature, 1970, 225, 1142-1144.
  19. ^ Smith CG, Vane JR (May 2003). “The discovery of captopril”. FASEB J. 17 (8): 788–9. doi:10.1096/fj.03-0093life. PMID 12724335. http://www.fasebj.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=12724335. 
  20. ^ Patlak M (March 2004). “From viper's venom to drug design: treating hypertension”. FASEB J. 18 (3): 421. doi:10.1096/fj.03-1398bkt. PMID 15003987. 
  21. ^ Ellsworth B., Brazil to step up crackdown on "biopiracy" in 2011, Ruters, Dec. 22, 2010
  22. ^ Rossi S, editor. Australian Medicines Handbook英語版 2006. Adelaide: Australian Medicines Handbook; 2006.
  23. ^ Atkinson, AB; Robertson, JI (1979). “Captopril in the treatment of clinical hypertension and cardiac failure”. Lancet 2 (8147): 836–9. doi:10.1016/S0140-6736(79)92186-X. PMID 90928. 
  24. ^ Patchett, AA; Harris, E; Tristram, EW; Wyvratt, MJ; Wu, MT; Taub, D; Peterson, ER; Ikeler, TJ et al. (1980). “A new class of angiotensin-converting enzyme inhibitors”. Nature 288 (5788): 280–3. doi:10.1038/288280a0. PMID 6253826. 

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