魚類のビブリオ病菌 [Vibrio anguillarum]
症状は過急性の場合には、はっきりした病変がみられず死亡するが、急性ないし亜急性の場合は眼球、鰭(ひれ)、肛門、体表、内臓そのほかの組織に強い出血や壊死(えし)がおこり、慢性になると体表に潰瘍ができて敗血症で死亡する。しかし、アユでは潰瘍ができるのはまれで、体表にV字状または斑点状に出血するのが特徴である。
現在、欧米でビブリオ病に対する注射ワクチンが市販されている。治療にはフラン剤、サルファ剤、抗生物質などが有効であるが、約25年前から薬剤耐性菌の増加が問題になっている。
ビブリオ病菌は水中に常在している細菌であるが、養殖環境の変化や過密な飼育で傷ついたり、不健康になった魚に感染して発病させるので、多くの場合は条件性病原菌であるが、アユでは偏性病原菌と考えられている。この細菌は通性嫌気性、グラム陰性のコンマ状(0.5×1-2μm)で、1本の鞭毛で活発に運動し、25℃、pH8付近、塩分約1%で最もよく発育する。血清学的にはO抗原によって、大きくJ-O-1型(淡水型)、J-O-2型(中間型)、J-O-3型(海水型)の3型に分けられている。ただし、欧米ではA型からF型までの6種に分けられている。また、この細菌はタンパク質を分解し、哺乳類や魚類の赤血球を強く溶解(溶血)する。したがって、タンパク質分解酵素、腸管毒素、溶血毒素などが病原性に関係すると考えられている。また、この細菌が産生するアングイバクチンとよばれるシデロフォア(鉄イオンと反応する物質)も知られている。
なお、この細菌の学名をリボゾームRNAの塩基組成の違いから、リストネラ・アンギュララ(Listonella anguillara)と提案された(1985年)が、現在のところ正式には承認されていない。また、病魚からビブリオ属の他種の病原菌も分離されている。その中にはヒトの細菌性食中毒をおこす腸炎ビブリオ(V.parahaemolyticus)とコレラ菌に似た非O1コレラ菌(V.cholerae Non-O1)があるが、現在、前者は魚類の病原菌とみなされていない。一方、海産魚のビブリオ病菌(V.alginolyticus,V.carchariae,V.damsela,V.ichthyoenteri,V.ordalii,V.salmonicida,V.splendidus,V.trachuri)や日和見感染菌でもあるウナギのビブリオ病菌(V.vulnificus)など多種類の細菌が知られている。なお、ヨーロッパ・ウナギのビブリオ病菌はビブリオ・アンギュリシダ(V.anguillicida)とされたが、他菌種との違いは明らかではない。
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