非対称の対流セル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 08:25 UTC 版)
光球に加えてベテルギウスの大気にある、分子光球(MOLsphere)もしくは分子環境(Molecular environment)、気体外層(Gaseous envelope)、彩層、ダスト環境(Dust environment)、および一酸化炭素で構成される2つの外殻(「S1」と「S2」と呼ばれる)という6つの要素が存在していることが特定されている。これらの要素の一部は非対称であることが知られており、他の要素は互いに重なり合っている。 光球からベテルギウスの半径の約0.45倍(~2 - 3 au)離れたところには分子光球もしくは分子環境と呼ばれる分子層がある。調査によると、この層は水蒸気と一酸化炭素で構成されており、有効温度は約1,500 ± 500 Kとされている。水蒸気の存在は、1960年代に行われた2つのストラトスコープ計画によるスペクトル分析で初めて検出されていたが、数十年に渡って無視されていた。分子光球には、塵粒子の形成を説明できる分子である一酸化ケイ素(SiO)や酸化アルミニウム(Al2O3)も含まれている。 より温度が低い別の領域にある非対称の気体外層は、光球から数倍(~10 - 40 au)離れている。炭素に対して酸素、特に窒素が豊富に含まれている。これらの組成異常は、ベテルギウス内部からのCNOサイクルによって処理された物質による汚染が原因である可能性がある。 1998年に撮影された電波望遠鏡の画像で、ベテルギウスは非常に複雑な大気を有していることが確認された。表面温度は3,450 ± 850 Kで、表面の温度に近いが、同じ領域にある周囲のガスと比べると遥かに低温である。VLAの画像では、この低温のガスが外側に広がるにつれてさらに徐々に冷えることが示されている。この特性がベテルギウスの大気の中で最も豊富な構成要素であることが判明し、これは予想外なことではあったが、この研究を行った研究チームのリーダーであるJeremy Limは「これにより、赤色超巨星の大気に関する基本的な理解が変わるだろう」と説明している。また、「表面近くの高温に加熱されたガスにより恒星の大気が均一に膨張する代わりに、いくつかの巨大な対流セルが恒星の表面から大気中にガスを推進させているようだ」と述べている。このガスの成分として炭素と窒素を含む可能性があり、地球から見て恒星の南西方向に光球の半径の6倍以上に広がっている、2009年にKervellaらによって発見された明るいプルームが存在しているところと同じ領域にある。 ベテルギウスの彩層は、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されたFaint Object Camera(FOC)によって紫外線波長を用いて観測された。その画像からはまた、ベテルギウスを四等分したとき、南西側に明るい領域が存在することが明らかになった。1996年に測定された彩層の平均半径は光球の2.2倍(~10 au)で、温度は5,500 K未満とされた。しかし、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている高精度分光計STIS(宇宙望遠鏡撮像分光器)を用いて行われた2004年の観測では、ベテルギウスから少なくとも1秒角離れた領域でも暖かい彩層プラズマの存在が示された。 ベテルギウスまでの距離を642光年(197パーセク)と仮定すると、彩層の大きさは最大200 auになる。この観測により、温かい彩層プラズマが気体外層内の冷たいガスと周囲のダストシェル内のダストと空間的に重なり合っており、共存していることが決定的に示された。 ベテルギウスを取り巻くダスト(塵)から成るシェル(殻)構造は1977年に初めて存在が主張され、成熟した恒星の周りにあるダストのシェル構造はしばしば光球による寄与を超える大量の放射を放出することが指摘された。ヘテロダイン干渉計を使用したところ、星の半径の12倍(仮定した半径によっておよそ50 auから60 auまでとり得る)を超える領域、すなわち太陽系でいうエッジワース・カイパーベルトが存在する領域から、その過剰な放射の大部分を放出していると結論付けられた。しかしそれ以来、様々な波長で行われたダスト外層の研究では明らかに異なる結果がもたらされてきた。1990年代の研究では、ダストのシェル構造の内側半径は0.5 - 1.0秒、すなわち100 - 200 auであると測定された。これらの研究は、ベテルギウスを取り巻くダスト環境が静的ではないことを示している。1994年には、ベテルギウスは散発的に数十年に渡ってダストを生成し、その後不活性化したことが報告された。そして1997年には、1年間でのダストシェルの形態の著しい変化が注目され、シェルが光球のホットスポットによって強く影響を受けるベテルギウスの放射場によって非対称に照らされていることが示唆された。1984年に巨大な非対称ダストシェルがベテルギウスから1パーセク(3.26光年)離れた位置にあると報告されたが、最近の研究ではその存在を裏付けることはできなかった。しかし、同年に発表された別の論文では、ベテルギウスの片側方向へ約4光年離れた位置に3つのダストシェルが発見されたと述べられており、これはベテルギウスが移動すると外層がはがれていくことを示唆している。 一酸化炭素で構成されている2つの外殻の正確な大きさはわかっていないが、予備的な推定では片方はベテルギウスから1.5 - 4.0秒角まで、もう片方は7.0秒角まで伸びていると考えられている。ベテルギウスの半径に置き換えると、ベテルギウスに近い方の外殻は半径の50 - 150倍(~300 - 800 au)、遠い方は250倍(~1,400 au)となる。太陽系のヘリオポーズが太陽から約100 au離れていると推定されているため、遠い方の外殻は太陽圏の14倍先まで伸びていることになる。
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