隠居から現在
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1998年5月25日、日芸時代からの盟友で『Jam』『HEAVEN』のブレーン役だった隅田川乱一(美沢真之助)が他界。この年、青林堂から分裂した青林工藝舎が新たに漫画雑誌『アックス』を創刊、同誌の手塚能理子編集長からの依頼で創刊号よりコラム「日常の神々」を連載し1999年末まで続く。この連載を最後に自販機本時代から数えて約20年間途切れ目なく続けてきた何らかの定期刊行雑誌への連載仕事がゼロとなる。 2000年、雑誌『創的戯言雑誌』のインタビューに応じ、1年の半分近くを海外で過ごす隠居生活を送っていることや、日本の友人とさえ音信不通の日々が続いていることを明かす。また高杉は同誌のインタビュー内で〈メディア〉について以下の持論を展開している。 さて、20年も前に『メディアになりたい』という本を出してしまっているぼくにとって、すでに〈メディア〉になどあまり興味がなく、ひたすら気になるのは〈メディアマン〉の消息だけです。ぼくは20年前からプロの編集者であったことなどなかったし、むしろ、編集者に変装した変質者でした。『Jam』も『HEAVEN』も、過去の自分が戯れに作っていた物で、変質者が一時的な退屈しのぎに好き勝手な紙の切り張りをしていた。要するに、ゴミをカットアップしたスクラップブックですね。それに程々のお金を払い、それなりに楽しんでくれた人たちがいた、というだけのことでしょう。 外から日本を見ると、日本という国は完全に気が狂っていて、もはやどこの国からも相手にされていない「終わってしまった国」のように感じます。世界が興味を持っているのは、日本ではなく日本円です。しかし世界は常に激動している。日本人の田舎臭いマインド・レベルは、もうどこの国に行っても通用しないでしょう。人間のクズと自覚しているぼくとしても、もう日本という国にはあまり興味が持てなくなっています。興味のあるメディアといえば、「人間の脳味噌またはマインド」としか答えようがありません。 そして、「媒体」などにかかわらず、人間は生きているだけで〈メディア〉です。アナログからデジタルに移行し、「発行」が「発信」に変わったからといって、それがいったい何だというのか。完全に文字化けした日本語を「世界に発信」して、いったい何の意味があるのか。 日本の雑誌界にニューウェイブはもう永遠にこないでしょうし、逆に、コンドームのように使い捨てられる雑誌ほど売れるでしょう。ぼくには、もうどうでもいいことです。ただ、日本の80年代でもっとも重要なのは、日本が企業社会主義国になった、ということだけでしょう。 ぼくはもう雑誌にもインターネットにも何の期待感も抱いていません。そんなものはもう古い。過剰に管理されるメディアなんて、もううんざりだ。数年前に「脳内リゾート開発」という概念を提供しましたが、できることならもっと多くの人々に、人間がもともと持っている優秀なアナログ機関である脳味噌の、未開の部分に注目していただきたい。気楽に、柔軟にね。 それから、〈メディアマン〉というのは特定の個人を指す名ではなく、「高杉弾という個人に内臓されるメディアとしての脳味噌」を経由して表現されるすべての事象に因んで公案された〈概念〉であると理解していただきたい。 — 高杉弾インタビュー「ぼくはプロの編集者であったことなどなかったし、むしろ編集者に変装した変質者でした」 2003年からコアマガジン社のマリファナ季刊情報誌『BURST HIGH』(当局より相当な圧力があり現在廃刊)にコラム「OUT OF HIGH TIMES」を連載する。これが高杉弾最後の雑誌連載となった(連載記事は高杉弾の公式サイトで無料公開されており誰でも閲覧可能となっている)。 2017年、雑誌『スペクテイター』が39号で「パンクマガジン『Jam』の神話」と題して約200頁にわたる『Jam』の特集を組む。高杉は同誌の赤田祐一によるインタビューで「『Jam』も『HEAVEN』も一冊も持ってないし、いらないものだよ。だけど真之助(隅田川乱一)の本と『臨済録』は大事なものだよね。ちゃんと持ってるから。仕事机のいつでも開ける場所に」と語る。また赤田によれば、現在の高杉弾は都心のマンションで引きこもり生活を送っており、病院、居酒屋、散歩以外は持病の糖尿病もあり殆ど外出せず、世間と交流を持たない半隠遁生活を送っているという。 現在は青林工藝舎の漫画雑誌『アックス』に不定期で寄稿する以外は、超逸脱的オンラインマガジン《JWEbB》のみで活動しており、くも膜下嚢胞、糖尿病、結核、手足の痺れ、関節炎、睡眠障害、勃起不全、難聴、認知障害、健忘症、心配性、失語症、貧乏症、便秘、痔、歯槽膿漏、ニコチン中毒、五十肩、老眼、ノイローゼ、対人恐怖症など多くの病を得て隠居療養中。
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