運転再開への動き(2011-2012年)
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「東日本大震災による電力危機」の記事における「運転再開への動き(2011-2012年)」の解説
事実上の運転再開の権限を持っているのは都道府県知事になる為、地元の同意状況によっては運転再開は困難になる。実際、佐賀県玄海原子力発電所では2011年6月に住民向け説明番組でやらせが発覚し(九州電力やらせメール事件)、問題がこじれている。これらの事情により、電力不足の可能性が被災地域以外にも拡大し、余力があるのは原発依存度の低い中国電力、原発のない沖縄電力のみの状態になる可能性があるということが6月の段階で報道された。 原子力安全・保安院は原発事故後、電力各社に緊急安全対策を指示。海江田万里経済産業大臣は、2011年6月18日、各社の安全対策が適切に実施されているとして、原発のある自治体に出向いて説得し、再稼働させる意向を示した。ところが、この「安全宣言」は菅総理大臣の事前了解を経ずに出されたもので、菅総理は「再稼働にはストレステストが必要」と発言。7月11日、政府は以下の通り、欧州のストレステストを参考にした安全評価を行なった後に再稼働させると発表した。 稼働中の原発及び定期検査中の原発はいずれも、「現行法令」に基づき適法な運転および安全確認が行われている(福島第一原発事故後、原子力安全・保安院による緊急安全対策などの追加安全確認も行われている)。 (再)稼働のための安全性の確認については理解を示す声もあるが、「現行法令」や原子力・安全保安院の能力に疑問を呈する声も多く、国民や住民に「十分な理解が得られているとは言い難い状況にある」。 政府は今後、保安側の保安院だけではなく規制側の原子力安全委員会も評価に介入させた上で、EU基準のストレステストを参考にした以下の安全評価を実施する。定期検査終了後再稼働準備に入った原発に関して、「安全上重要な施設・機器等が設計上の想定を超える事象に対しどの程度の安全裕度を有するかの評価」を行う - 一次評価 運転中を含めた全ての原発に関して、「欧州諸国のストレステストの実施状況、福島原子力発電所事故調査・検証委員会の検討状況も踏まえ、総合的な安全評価」を行う - 二次評価 ストレステスト論議がなければ自治体の同意により夏には再稼働するところが出てくる可能性があった。海江田大臣は緊急安全対策後に安全宣言を行っており、再度のストレステストはその基準が甘かったことを意味すると受け止められ、原子力行政に対する不信感も高まった。再稼働はストレステスト後になる見通しとなり、電力不足早期解消の観点から言えばそれが遅れることとなった。一方で、ストレステストの基準が「再稼働ありき」となる懸念もあった。これに対しては、保安院および委員会による評価後、IAEAによる再評価を行うとの報道があったが、各国の事情を考慮するとの見解があることからどのような基準が適用されるかは不明。7月22日以降、各電気事業者(電力会社)による検査が実施されており、その結果は保安院に報告され、保安院はそれを委員会に諮る流れとなる。 日本国内の全ての原子力発電所が停止する事で、すべて火力で代替すれば燃料費のコストが年間2兆円〜3兆円増え、仮にその負担を電気料金にすべて転嫁すれば電気代は2割上昇するという試算がある。8月上旬の政府決定では、「計画停電の実施・電力使用制限令の発動・電気料金への転嫁の3つを極力回避する」という方針を守った上で、ピーク電力不足への対策および「減原発依存」と「分散型エネルギーシステムへの移行」を軸にした中長期でのエネルギー戦略の見直しを推進していくとした。その後、再生可能エネルギー買取法によって電気事業者に対して再生可能エネルギーの買い取りを義務付ける普及促進策(固定価格買い取り制度)が決定、2012年7月1日から実施される。 2012年4月下旬から5月上旬には関西電力管内の同年夏季需給見通しは14.9%の供給不足で厳しいという想定(需給検証委員会)が発表され、政府は西日本の電力各社に計画停電を行う場合の区割り等の準備を進める指示を出した。 また平行して福井県大飯発電所3,4号機では関西電力によるストレステストの審査が2012年2月13日に原子力安全・保安院、3月23日に原子力安全委員会をそれぞれ通過し、それ以降は地元住民、自治体、政府等による再開判断に移行した。4月13日には野田佳彦首相、枝野幸男経済産業大臣、細野豪志原発事故担当大臣、藤村修官房長官の関係3閣僚による協議において、供給見通しの厳しい関西電力の電力不足を回避するには再稼働が必要との結論を出すに至り、関西電力の電力危機回避のための再稼働が焦点となり地元同意に注目が集まった(地元同意の経緯については大飯発電所の項目を参照)。西川一誠福井県知事が首相に同意を伝えたことを受けて、政府は6月16日午前に同発電所の再稼働を決定。7月1日から大飯原発3号機が、7月18日から同原発4号機が再稼働した。
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