近代的立憲主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/01 03:17 UTC 版)
17世紀になるとフランスにおいて、権力が王権に集中するようになり、国王に対抗する中世的な身分的団体である各種ギルドが君主によって解体されていく中で、君主は法の拘束から解放されているとされて絶対君主制が確立し、ローマ教皇の権利からの対外的な独立性と同時に、国内における最高性を示すものとして君主主権の概念が登場する。主権自体多義的な概念なので注意が必要であるが、上記の意味での主権概念の成立と同時に、巨大な権力である国家と向き合い対峙する、社会の最小単位としての個人という概念が成立した。 近代的立憲主義は、このような絶対君主の有する主権を制限し、個人の権利・自由を保護しようとする動きの中で生まれた。そこでは、憲法は、権力を制限し、国民の権利・自由を擁護することを目的とするものとされ、このような内容の憲法を、特に立憲的意味の憲法(近代的意味の憲法)という。憲法学における立憲主義とは、近代的意味の憲法に従うこと、あるいは「憲法」に則って政治権力が行使されるべきであるとする考え方、あるいはそうした考え方に従った政治制度のこと を指す。フランス人権宣言16条には「権利の保障が確保されず、権力の分立が規定されないすべての社会は、憲法をもつものでない」 とある。(アンシャンレジームからの解放としての)個人の人権の保障、および権力分立は、その重要な要素である。 フランスでは、1789年フランス革命が起こり、その後成立した1791年憲法は、国民主権の原理を宣明するとともに、国王を国家第一の公務員にすぎないと定めた。ここでの国民は、抽象的な全体を示すナシオンであるとされ、個々の市民の総体であるプープルと厳密に区別されていた。しかし、1792年、立憲君主派の擁護もむなしく、時の国王ルイ16世がその浅はかな行動によりギロチンにかけられることになり、このことが英国を始め諸外国の反発を招き、フランス包囲網へと発展する。このような国際状況下、フランスは、帝政を経験し、政治的な混乱を極める中で、共和制へ移行していく。その過程で、ナシオン主権論をとるか、それともプープル主権論をとるかが、統治構造のあり方を変えるものとして議論されるようになった。 他方、英国では、16世紀から王権神授説に基づく国王主権が主張されるようになっていったが、マグナ・カルタ以来の中世的伝統を受けて、これに対抗するかのように法の支配の概念が16世紀から17世紀にかけて確立されていった。その影響の下、1688年名誉革命を経て、1714年ジョージ1世の治世に立憲君主制が確立する。そこでは、フランスとは対極的に長い歴史を経て穏健な形で君主の権力を制限することができたことから、国民主権の概念をとる必要もなく、むしろ貴族院と庶民院という議会内部での権力の抑制が重視されることになって、議会主権の原則が確立された。 もっとも、ここで看過してはならないのは、英国での近代的立憲主義の確立がマグナ・カルタやアーブロース宣言にみられるような一見中世的な古典的立憲主義の復活という形をとりながらも、実際にはロックの社会契約説、抵抗権に支えられた信託に基づく人民主権論という近代的な思想に支えられていたことである。 その後、バージニアでは1776年、ロックの人民主権論を背景に、憎むべき耐え難い専政を布いたジョージ3世を告発し、このような契約違反を理由に信託に基づく国王の主権を人民の元へ取り戻すという形で、人民主権論をとるバージニア憲法が成立し、これを受けて、アメリカ合衆国では、「法の支配」を実際の明文憲法の起草にあたって根幹に据えたアメリカ合衆国憲法が1788年に成立する。 われわれの選良を信頼して、われわれの権利の安全に対する懸念を忘れるようなことがあれば、それは危険な考え違いである。信頼はいつも専制の親である。自由な政府は、信頼ではなく、猜疑にもとづいて建設せられる。われわれが権力を信託するを要する人々を、制限政体によって拘束するのは、信頼ではなく猜疑に由来するのである。われわれ連邦憲法は、したがって、われわれの信頼の限界を確定したものにすぎない。権力に関する場合は、それゆえ、人に対する信頼に耳をかさず、憲法の鎖によって、非行を行わぬように拘束する必要がある。 — 1776年ケンタッキー州およびバージニア州決議にてトーマス・ジェファーソン もっとも、アメリカ法では、法の支配の伝統に基づき、フランスにおける主権者の一般意志の表明による法律の至高性といったルソー的な人民主権論は忌避されており、かかるフランス流のルソー・ジャコバン型国家観と対極的な、多数の私的な団体が混在する多層的な多元的社会を背景とした市民社会主導型のトクヴィル・アメリカ型国家観が存在するとの指摘がある。
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