軍事研究に関する声明
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 12:56 UTC 版)
「日本学術会議」の記事における「軍事研究に関する声明」の解説
朝鮮戦争開戦の2か月前、1950年6月に「戦争を助長し、戦争に協力すると思われる研究には、今後絶対に従わない」という声明案が提案され、最終的に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」というタイトルで採択された。また、ベトナム戦争時の1965年、日本学術会議から国際科学会議(ICSU)に派遣されていた藤岡由夫は「資金源についての申し合わせ」を提案し、「ICSUとその傘下組織は、いかなる目的であっても、国家のいかなる軍事組織からも、資金を受け入れあるいは仲介してはならない」ことが確認されている。 1967年5月、日本物理学会 主催、日本学術会議 後援により国際純粋・応用物理学連合傘下の半導体国際会議が京都で開催されたが、この会議におけるアメリカの参加者に対して米国陸軍極東研究開発局から資金供与があったことが明らかとなる。さらに極東研究開発局が1959年から19の日本の大学・研究所に対して、アメリカで研究されていない医学などの研究に総額で数百万ドルの資金を援助していたことも発覚する。当時会長であった朝永振一郎が参議院予算委員会に呼ばれる事態に発展し、朝永は記者会見で遺憾の意を表明。日本学術会議では運営審議会を経て、学問思想の自由委員会や学術交流委員会、長期研究計画委員会などの常置委員会で議論を重ね、5委員長の連名で声明を発表する。この声明は1950年とほぼ同じ内容であったが、表題は「軍事目的のための科学研究を行わない声明」となっていた。 近年の国際社会の動きではハイブリッド戦争やサイバー戦争と呼ばれる工作活動も見受けられるため、2015年に防衛省が制定した「安全保障技術研究推進制度」に対し、日本学術会議は防衛省や文部科学省と議論を進め、「安全保障と学術に関する検討委員会」を設置する。検討会では、日本学術会議会長で検討会委員の大西隆と、有識者として検討会に招かれた池内了の意見が対立。大西は攻撃のための研究は駄目だが自衛研究は良い、デュアルユースは区別できるとしたが、池内は攻撃と自衛の研究は区別できず、自衛のための研究も認められないと主張した。学問の自由が保障されるかという観点では、大西は研究成果が公開されるので問題ないとしたが、池内は防衛省職員が研究進捗の管理に関わることから「担保されるはずはない」とした。サイバー犯罪の大規模化がサイバー攻撃として「武力の行使」に近いものになるという懸念も示された。 2017年には「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表し、報告『軍事的安全保障研究について』もまとめられた。声明には1950年と1967年の声明を継承するという文言が含まれ、「安全保障技術研究推進制度」で政府の人間である防衛省職員が進捗管理に関わることの懸念も表明した。また、報告では「自衛目的の技術と攻撃目的の技術との区別は困難な場合が多い」と明記された。その一方で、日本学術会議に関係する研究者が中国軍の「国防7校」に所属していたことが2021年1月に報じられている。 詳細は「千人計画#日本との関係」および「革命的祖国敗北主義」を参照 日本学術会議の声明の影響で、防衛省の「安全保障技術研究推進制度」への応募が2015年度の58件から、2018年度18件、2020年度9件と減少したと報じられている。また、2019年には日本天文学会の学会誌『天文月報』で議論を呼び、2020年10月の日本学術会議の見直し論議でも本声明が注目された。 国立大学協会会長の永田恭介(筑波大学学長)は2020年3月26日の記者会見で、GPSの過去の例、ウイルスに対するワクチン研究が生物化学兵器に転用される可能性を例に「デュアルユースは(線引きが)難しい」「自衛のためにする研究は、省庁がどこであれ正しいと思う」と日本学術会議が大学や研究者に事実上研究を禁止することに批判的な見解を述べた。また、東京大学教授の戸谷友則は、1967年の声明の表題に戦争や平和ではなく「軍事目的」という言葉が入ってしまったことの影響や問題点を指摘するとともに、日本学術会議の影響力から「非民主的に選ばれたごく一部の研究者の団体が、全ての研究者に画一的な価値観を押しつけて、自由を縛ることが許されるだろうか」と問題提起した。
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