軍事科学の新しい問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 06:19 UTC 版)
二次大戦の末期における核兵器の開発によって軍事学では核戦略研究が重要な焦点となっていった。イギリスの軍事学者リデル=ハートは大戦略と間接アプローチ戦略の視座を示す『戦略論』の中で大戦略の下位概念として軍事戦略を位置づけ、また武力行使においても間接アプローチを採択する意義を主張した。アメリカのバーナード・ブロディは核兵器が開発された間もなく『絶対兵器』を発表し、今後の軍事的目標は戦争の勝利でなく抑止であると考察している。核戦略の理論構築のために核戦争に至らない程度の戦争として限定戦争という概念がオズグッド(en:Robert Osgood)により考案され、さらにキッシンジャーも『核兵器と外交政策』の中で限定的な核攻撃を活用することを論じた。作戦研究・戦略分析(Operations Research/Strategic Analysis, ORSA)などの数学的な研究方法は軍事学の中心的な方法論として確立され、戦略理論、計画立案、兵站支援、教育訓練などの領域へ導入された。例えばランド研究所のフォン・ノイマン、ハーマン・カーン、アルバート・ウォルステッター、シェリングはアメリカ軍事学において特に核戦略の領域で重要な研究業績を残している。しかしソビエトや社会主義国では革命戦略の成立が促され、二次大戦中に毛沢東が記した『遊撃戦論』の影響の下でキューバ革命の指導者チェ・ゲバラによる『ゲリラ戦争』、ベトナム戦争の指導者ボー・グエン・ザップの『人民の戦争・人民の軍隊』が書かれた。また革命や反乱が発生する国家に対して国際連合の下で効果的に介入するために国連事務総長ブトロス・ブトロス=ガーリは提言書『平和への課題』で平和維持活動の改革を提起している。 核兵器、革命、平和構築という新しい軍事問題は軍事科学の伝統的な領域にとどまらない幅広い問題を提起しているが、同時に従来の問題領域においても新しい進展が認められる。通常作戦において現代ではエアパワーの役割はさらに大きくなっている。弾道ミサイルや航空機の研究開発が進んだことによって、地球上のあらゆる地点に対して従来にない速度で打撃を加えることが可能となった。冷戦期においてレーガン政権は実用化には至らなかったものの、敵のミサイルを地上から撃墜する国家ミサイル防衛の構想を示し、ブッシュ政権ではミサイル防衛として引き続き開発されている。さらにアメリカのジョン・ワーデン(en:John A. Warden III)は『航空作戦』の中でステルス技術や精密誘導爆撃などの技術革新を踏まえながら新しい戦略爆撃の概念を定義している。情報革命に起因する軍事における革命についても、アメリカのエリオット・コーエン(en:Elliot A. Cohen)などはハイテク兵器により戦争に迅速かつ少ない犠牲で勝利する可能性を指摘している。実際に湾岸戦争ではアメリカを中心とする多国籍軍はイラク軍に対して絶対的制空権を駆使した軍事作戦を実行した。電撃戦の教義を発展させ、航空戦力と機甲部隊を組み合わせたエアランド・バトルの教義が成果を挙げた。
※この「軍事科学の新しい問題」の解説は、「軍事学」の解説の一部です。
「軍事科学の新しい問題」を含む「軍事学」の記事については、「軍事学」の概要を参照ください。
- 軍事科学の新しい問題のページへのリンク