言語連合としての性質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/12/20 03:43 UTC 版)
「標準ヨーロッパ語」の記事における「言語連合としての性質」の解説
Martin Haspelmathによれば、SAE諸語は以下の特徴を共有しており、言語連合を形成していると考えられる。これらの特徴は言語学的普遍性質(linguistic universal)になぞらえてeuroversalと呼ばれることもある。 定冠詞と不定冠詞を持つ。(例:英語"the"と"a") 関係節は関係代名詞により表現され、後置される。 'have'と受動分詞による迂言的完了表現を持つ。(例:英語I have said) 経験者格を主格で表現する。(例:英語 I like music.「私は音楽を好む。」しかしスペイン語だとMe gusta la música.「音楽は私に好ましい。」となり、行為者は与格で表現される。); 受動構文は受動分詞と繋辞によって表現される(例:英語の"I am known") 対格動詞と起動相非対格自動詞の対応がある。(例. ロシア語изменить「変える」とизмениться「変わる」) 与格 により外的所有が表現される。外的所有とは被所有項を直接修飾しない所有表現である。 (例:ドイツ語 Die Mutter wusch dem Kind die Haare. 「母は子供の髪を洗った。」, ポルトガル語 Ela lavou-lhe o cabelo. 「彼女は彼の髪を洗った。」) 否定不定名詞による動詞の否定 (例: 英語 Nobody listened) 不等比較における比較詞 (例: 英語 bigger than an elephant) 関係節副詞用法による同等比較(例:オック語tan grand coma un elefant、ロシア語tak že X kak Y) 動詞は主語に一致する。主語が明確な場合でも主語の代名詞は明示されることがある。(例:フィンランド口語mä oon, "I am" and sä oot, "you are") 強調語と再帰代名詞が異なる。(例: ドイツ語 強調語selbstと再帰代名詞sich). 以上の特徴は欧州外では稀であり、SAE圏を定義するのに都合が良い。上述の特徴に加えて、Haspelmathは欧州外でも散見されるものの、SAE諸語が共通して持つ以下の性質を列挙した。 極性疑問文において動詞が文頭に配置される。 形容詞が屈折し比較級を作る。(例: 英語bigger) 接続詞が並列の最後の要素の手前に配置される。(例: 英語A, B and C) 具格と共格の区別を欠く。(例:英語 I cut my food with a knife when eating with my friends) 序数詞の2が補充形により表現される。 分離可能所有(カバンなど)と分離不能所有(腕など)の区別を欠く。 一人称複数に除外形と包括形の区別がない。 畳語が生産的でない。 主題と 焦点がイントネーションと語順により表現される。 SVO型の語順を持つ。 動名詞をただ一種類持ち、定従属節を好む。 特定の"neither-nor"構文を持つ。 句を修飾する副詞を持つ。(例. 英語already, still, not yet) 過去時制が完了形に置換される傾向がある。 Haspelmathは挙げていないが、以下の特徴も広く共有される。[要出典] 軟口蓋音と口蓋垂音の対立を欠く。 有声と無声の対立を持つ。 語頭において「破裂音+共鳴音」の子音連続がある。 肺臓気流音のみを持つ。 母音が3段以上の高さに渡って存在する。(最小で a e i o uの5つ) 側面摩擦音と側面破擦音を欠く。 接尾辞が優勢である。 やや総合的な屈折語である。 対格言語である。 これらの特徴を基準とすると、SAE言語連合は以下の諸言語から構成される。 ゲルマン語派 ロマンス諸語 バルト語派 スラヴ語派 アルバニア語 ギリシャ語 ハンガリー語 バルカン言語連合 は拡大SAE圏に含まれる。 それぞれの言語のSAEへの所属性には程度の差がある。上に挙げた特徴のうち9つの特徴に基づき、Haspelmathはフランス語・ドイツ語をSAE言語連合の核とみなした。その周辺には英語・その他のロマンス諸語・北欧語・西スラヴ語・南スラヴ語からなる中央がある。ハンガリー語、バルト語派、東スラヴ語、その他のバルト・フィン諸語は周辺である。 ここに挙げた言語はハンガリー語やバルト・フィン諸語を除き全て印欧語族に属しているが、印欧語族の全ての言語がSAEに所属しているわけではない。例えばケルト語、アルメニア語、インド・イラン語派はSAE言語連合には属していない。 印欧祖語はSAEの特徴をほとんど欠いているため、SAEの形成は印欧祖語から共通の性質を継承したためではなく、民族移動時代以降の長年の言語接触によるものが大きいと考えられる。[要出典]
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