裁判の資質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 15:24 UTC 版)
日当が目的の無職者や興味本位の人が率先して裁判員を志願したり、一般の会社員が不参加を求めたりすることや、暴力団などの反社会的団体の構成員を裁判員から排除する規定がなかったりすることなどで、裁判員の枠が不健全な人物によって占められるおそれがある。なお、陪審制や参審制の導入国には召喚を受けても制裁を覚悟で出頭しない者が多い。 国家公務員法及び地方公務員法の規定において、「政府を暴力で破壊することを主張する団体を結成・加入した者」は、公務員としての職に就くことができないと定められている(欠格)。裁判員は臨時公務員であることから、裁判員の選任は公務員法に沿ったものでなくてはならない。裁判所が暴力団構成員を裁判員に採用してしまえば、「政府を暴力で破壊することを主張する」暴力団に加入した者を公務員にしたという点で、裁判体の違法性と倫理性が問われることになりかねない。 マスメディアが大きく報道した事件を取り扱う場合、裁判員が予断を抱いて審理に臨むおそれがある。一部の国家では、審理中は陪審員を施設に宿泊させ、あらゆる情報媒体との接触を禁じる措置を講じている。イギリスでは陪審員に予断を与えかねない報道に対しては法廷侮辱罪が適用される。日本はこの措置を否定している。 刑事訴訟がワイドショーと化すおそれがある。2009年8月には、放送倫理・番組向上機構(BPO)に対し、「裁判員にプレッシャーを与える報道は慎むべき」、「裁判員法に規程がない記者会見は不要だ」などの意見・批判が39件寄せられている。 法に疎い裁判員は専門性が高い事件を正しく判断できないことが多い。法令の解釈は裁判官のみが行うのに対して、量刑の決定には裁判員も関与する。その裁判員には量刑の相場などの知識が不足している。 事実の認定において、裁判員は公判を正確に記憶して心証を形成することができない。 裁判員制度の狙いである「市民感覚」は必ずしも法曹の感覚を上回るものではない。 市民感覚によって公正な裁判が実現できるとは限らない。むしろ、障がい者・同性愛者・在日外国人・アイヌなどマイノリティへの差別意識・無理解・偏見を「市民感覚」として持った裁判員が関与しかねない。2012年7月30日、大阪地方裁判所で行われた裁判員裁判(平野区市営住宅殺人事件)では、実姉を刺殺したアスペルガー症候群(発達障害のひとつ)である男性に対し、「被告人の精神障害に対応できる受け皿の無さ」「社会秩序の維持」を理由とし、検察側の求刑懲役16年を超えた懲役20年という判決が下された。被告人が発達障害であることを以って刑期延長の理由とした裁判員らの判断は、障がい者への無理解と偏見が司法判断に持ち込まれた事態として法曹界にショックを与えた。なお2013年2月26日、大阪高裁(松尾昭一裁判長)は同判決を破棄し、懲役14年を言い渡した。裁判長は「障害の影響を正当に評価していない」と指摘した。「広汎性発達障害#刑事裁判における問題」も参照 取り調べの一部録画の導入により、取り調べの過程の捜査側にとって有利な部分のみを裁判で再生することで、警察や検察が虚偽自白を作出しやすい状況を作ることになる。 裁判員制度に当たる陪審員制度を採っているアメリカでは陪審員がインターネットを参照して審理をおこなっていることがあり問題となっている。 裁判員の感情が法廷に持ち込まれる危険性も識者から指摘されている。既に、強姦致傷罪に問われた被告人に対する裁判員裁判において、裁判員の一人から「むかつく」と被告人に発言した事例も発生している。上述の発達障害者の被告に対する求刑を上回る判決もその一つと言える。
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