自動書記とは? わかりやすく解説

自動書記

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/07 10:07 UTC 版)

レオノーラ・パイパーによる自動筆記 (1911)

自動書記: Automatic writing: Écriture automatique)とは、あたかも何か別の存在に憑依されて肉体を支配されているかのように、自分の意識、意思によらず身体が動く自動作用のうち、文字や絵などを描く現象のこと[1]自動書記自動記述とも。スピリティズムではサイコグラフィーフランス語版、シュルレアリストの詩作の実験ではオートマティスムとも呼ばれている。

概要

霊媒霊能者チャネラーなどと呼ばれる人々は「死者のが下りてきた」「神や霊に命令されている」「体を乗っ取られている」「高次元の存在や宇宙人とチャネリングを行う」などの理由により、無意識的にペンを動かしたり語り始めたりする。これは神霊などがこの世界に接触を図る方法として説明されている。日本ではかつて「神がかり」「お筆先」とも呼ばれていた。

霊媒による自動作用ではトランス状態で生じる場合と、意識を保ったまま自動作用が発生する場合がある[1]

心霊主義の全盛期に自動書記などを行った霊媒の多くは女性であり、ヴィクトリア朝文学研究者エラナ・ゴメルは、この非常に偏った男女比は「受動的な存在である女性は、霊がメッセージを伝達するためにうってつけの、空っぽの器である」というヴィクトリア朝の考え方によって成立したと述べている[2]

原理の説明

心霊主義の立場では自動書記を憑依現象の一種と考えて、霊が霊媒の手を借りて意思表示や創作を行っていると説明している[1]。科学的には自動書記は自己催眠の一形態として説明されるケースがある。統合失調症夢遊病など、何らかの病的要因が潜んでいるケース、薬物などの使用によるケースも指摘されている。

ウィジャボードコックリさんの原理は、観念性運動と呼ばれる筋肉の無意識の動きとして説明されている[1]

シュルレアリストによる自動筆記

第一次世界大戦後、フランスの詩人でダダイストでもあったアンドレ・ブルトンは、ダダと決別して精神分析などを取り入れ、新たな芸術運動を展開しようとした。彼は1924年シュルレアリスム宣言」の起草によってシュルレアリスム(超現実主義)を創始したが、彼が宣言前後から行っていた詩作の実験がオートマティスム(自動記述)とも呼ばれている。これは眠りながらの口述や、常軌を逸した高速で文章を書く実験などだった。半ば眠って意識朦朧とした状態や、内容は二の次で時間内に原稿用紙を単語で埋めるという過酷な状態の中で、美意識倫理といったような意識が邪魔をしない意外な文章が出来上がった。無意識や意識下の世界を反映して出来上がった文や詩から、自分達の過ごす現実の裏側や内側にあると定義された、より過剰な現実、即ち「超現実」が表現でき、自分達の現実も見直すことができるというものだった。

西洋近代の女性の表現の場として

心霊主義の全盛期には、出版のような「正当な」創作の場から女性は締め出されており、心霊主義運動がタブー視されなくなるにつれて、教養があり、読書家で、創造性を発揮する機会に乏しい作家志望の女性たちは、この運動に惹きつけられた[2]

女性霊媒たちは降霊会で、海賊の手記から殺人ミステリーまで、ゴーストライティングに対する大衆の欲求に応え、豊かなストーリー、キャラクター、台詞回しに満ちた物語を書き、出版業界は盛り上がった[2]。多くの場合こうした物語は、降霊会を聞いていた裕福な顧客や男性の家族が出版し、執筆した女性は著作者としてクレジットされなかった[2]。例えばジョージー・ハイド・リーズ・イエィツ英語版は夫で詩人のウィリアム・バトラー・イェイツに、 自動書記で instructors なる霊、精霊の言葉を伝え、それを整理したものがイェイツ作『ヴィジョン』(A Vision、1937年)として出版されたが、彼女の名前がクレジットされることはなかった[2]

また、亡くなった著名な男性の名を借り、彼のメッセージの自動書記を作品にすることで、脇道から出版業界に参入する女性も現れた[2]。ローラ・V・ヘイズは死後のマーク・トウェインの新作を、ジャーナリスト・作家志望で生前のトウェインと文通していたエミリー・グラント・ハッチングス相手に降霊会でウィジャボードで執筆し、二人は『ジャップ・ヘロン英語版』(1917年)として出版、トウェインの出版社と娘から訴訟を起こされた[2]。当時、「大いなる彼方」から受け取ったという文学作品はそれほど珍しいものではなかったが、トウェインの著名さから全国的に注目を集め、出版者に法的圧力がかかり、出版は中止、書籍は破棄された[2][3][4]ヘスター・ダウデン英語版は死後のオスカー・ワイルドの作品として新刊『煉獄のオスカー・ワイルド―心霊メッセージ』を出版し(1923年)、オカルト・レビュー誌では、アーサー・コナン・ドイルは著者は明らかにワイルドであると主張し(ドイルは妻の自動筆記集を妻への献辞を添えて自分の名前で出版していた)、C・W・ソールは「霊媒=受動性」を前提に作品は創作性に乏しいと評価し、「たとえ著者が自分の偽りに気づいていなかったとしても、文章の著者は霊媒自身だ」と批判し、論争になった[2][5]

作家マルグリット・エムリーの筆名ラシルド英語版は、彼女の母親が行った降霊会で出現したスウェーデンの 16 世紀の男性貴族の名前であり、彼女は『ヴィーナス氏英語版』(1884年)でポルノ容疑の欠席裁判で有罪判決を受けたが、本当の作者は彼だと説明している[2][6]。革命前のロシア最大のオカルト小説作家ヴェーラ・クリジャノフスカヤロシア語版も降霊会の自動筆記で小説を執筆したと述べており、ラシルドやクリジャノフスカヤは、スピリットガイドの名の下に数多くのセンセーショナルな小説を出版した[7][8]

心霊主義者によるゴーストライティングの全盛期は、近代的な著作者と著作権の考え方が体系化されつつあった時期であり、自動筆記の霊媒の女性には、ヘスター・ダウデンのように著者権の曖昧さを逆手に取った人もいたが、ドイルの妻やイェイツの妻のように、著者、共著者とクレジットされなかった人や、本の中で言及されることすらなかった人もいた[2]。霊媒が受身的な女性であるべきという当時の支配的な考えは、能動的な才能をもつ作家や「ストーリー テラー」と相容れない関係にあり、自動書記による作品の創作性を否定する見方につながった[5]。一群の自動書記を用いたという女性作家たちの存在は、現在では忘れ去られている[2]

著作権裁判とAIの著作権への影響

建築家で心霊主義運動に参加していたフレデリック・ブリー・ボンド英語版は、彼が参加した降霊会で霊媒ジェラルディン・カミンズ英語版が自動書記で執筆した『クレオファスの年代記』について、「彼女の執筆中に、自分が彼女の背中に手を置くなどして協力しなければ、この作品を作ることはできなかった」として、自分がメッセージの受信者だと主張し、このいかにも売れそうな本を出版しようとした[2]。カミンズは1926年にボンドを訴え、法廷で彼の超常現象的な主張を法的に批判し、この作品の著作権は、霊媒か、霊か、それともセッションの代金を支払った聞き手か、誰にあるのか争われ、判事は裁判権はイギリスに限られていおり、霊的な面については裁けないと指摘し、超自然のメッセージを読解可能な言葉に変換した者が著作者であると結論付けた[2]。著作者とは「その行為がなければ」作品が存在しない個人であるという判例が打ち立てられたのである[2]

カミンズ対ボンド裁判で、「著者は人間でなければならない」とされたことは、その後の知的財産法の行方に恒久的に影響を与えており、AIが発達した現代において重要な意味を持つと指摘されている[2]

主な自動書記

脚注

  1. ^ a b c d 羽仁礼『超常現象大事典:永久保存版』成甲書房 2001 p.70 Google Books版 2017年9月28日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Emily Ludolph (2018年12月5日). “W. B. Yeats’ Live-in “Spirit Medium””. JSTOR Daily. 2024年3月2日閲覧。
  3. ^ Erik Ofgang (Sep 16, 2018). “Ghostwriting: In 1917, a Medium Claimed Mark Twain Wrote His Last Book From the Grave”. CT INSIDER. 2024年3月3日閲覧。
  4. ^ COLLECTIONS / BOOKS Jap Herron: A Novel written from the Ouija Board (1917)”. The Public Domain Review. 2024年3月3日閲覧。
  5. ^ a b 小川 2019, pp. 31–32.
  6. ^ 熊谷 2013, p. 54.
  7. ^ Muireann Maguire (2011年). “Ghostwritten: Reading Spiritualism and Feminism in the Works of Rachilde and Vera Kryzhanovskaia-Rochester”. JSTOR . 2024年3月2日閲覧。
  8. ^ 久野康彦. “革命前のロシアの大衆小説 ―探偵小説、オカルト小説、女性小説―”. 東京大学大学院人文社会系研究科・文学部. 2024年3月2日閲覧。

参考文献

  • 熊谷謙介「BL小説の起源? : ラシルド『自然を外れた者たち』分析」『人文研究 神奈川大学人文学会 編』第181巻、横浜 : 神奈川大学人文学会、2013年、49-69頁、CRID 1520009409045467264 
  • 小川公代「ワイルドとドイルのクィアな”スピリチュアリティ”―「真面目」は肝心か、肝心でないか」『オスカー・ワイルド研究』第18巻、2019年、25-39頁、CRID 1010005505867932164 

関連項目


自動書記(ヨハネのペン)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 14:06 UTC 版)

インデックス (とある魔術の禁書目録)」の記事における「自動書記(ヨハネペン)」の解説

禁書目録防御機能インデックスに「首輪と共にかけられている魔術で、それに彼女の全魔力用いられている(ゆえに彼女は魔力精製できない)。インデックス生命脅かされたり、魔道書中身知ろうとすると発動され、彼女の頭脳にある10万3000冊の魔道書フル活用して敵対者魔術即座に解析し最も有効な攻撃算出して繰り出し、「禁書目録」の知識利用した強力な魔術対抗魔術対象者強制的に排除するまた、状況によっては魔術解説回復魔術の手順の指導なども行う。 その際インデックス意識消え完全記憶能力を持つ彼女でもそのとき記憶珍しくあやふやになる)、瞳には魔法陣浮かび上がり冷徹かつ無機質な擬似人格表出し無表情機械的な言動必要な措置実行するしゃべり方淡々とした口調変化し、特に非常時魔術行使の際には「第○○章第××節。 - 」といった書物記述引用のような語句を頭に付け話し方となるのが特徴本人はこの状態になることを「冷たい機械になってくみたいで怖い」として恐れている。 この状態のインデックス対峙することは一つ戦争迎えることと同義とまで言われ実質魔神そのものかそれに近い存在である。また、シルビアによると「普通の魔力だけで魔神の力行使する者は正真正銘怪物」らしく、インデックスはこれにも当てはまると思われる上条が「首輪」を干渉した際に発動するが、彼に破壊された。その後遠隔制御霊装強制干渉受けて再び起動するが、破損酷くインデックス不安定な状態にさせた。ウィンザー城での戦いでA.A.Aに対抗するため、「心理掌握」で残留思念から復元されたが、再び「幻想殺し」で破壊された。 竜王の殺息ドラゴンブレス) 「自動書記」モードインデックス上条迎撃する為に放った魔術。「聖ジョージ聖域」と呼ばれる魔法陣生み出され空間亀裂から出現した直径約1mのレーザー兵器のような光ので、伝説ドラゴン繰り出す攻撃同義であるという。空間亀裂からは正体不明怪物覗き込んでいる。圧倒的な破壊力、「幻想殺しに対して真正面から押し勝つ強大な物量と質、そして大気圏外にまで届き樹形図の設計者」が搭載され人工衛星撃墜するほどの射程距離を誇る強力極まりない攻撃。光の触れた物質は光の羽へと変換され1枚でも頭に触れただけで脳細胞物理的に死滅させるほどの威力がある(上条はこれによって記憶物理的に失った)。神よ、なぜ私を見捨てたのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ) 「竜王吐息」を改変した対十字教術式純白だった光の赤黒く変色するステイル用い歪曲した十字教術式魔女狩りの王」に対抗するために構築されており、「魔女狩りの王」の再生力弱めて霧散させている。 豊穣神の剣 北欧神話に伝わる、賢き者が所持した時、自動相手斬りふせるという豊穣フレイの剣の伝承元に白い光粒子でできた長剣生成して振るう術式。神ですら敗北し死を迎え北欧神話世界観で、一度敗北したことのない武具再現しているため、北欧神話系の術式では対処することができない北欧神話流れを汲む術式用いステイル対抗して編み出した。 他にも様々な攻撃を可能とする血のように「赤い翼」を背から生やすなど、多種多様強力な魔術発動するまた、遠隔制御霊装奪ったフィアンマは、「神よ、なぜ私を見捨てたのですか」の他に、足から這い上がるように関節をずらすような激痛伝播させる「ペクスヂャルヴァの深紅石」、50近いオレンジ色灼熱する矢を降らせる硫黄大地を焼く」といった魔道書図書館由来術式使用している。

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