神々の「名前」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/10 09:33 UTC 版)
「クラテュロス (対話篇)」の記事における「神々の「名前」」の解説
続いてヘルモゲネスが、先程のゼウスのように、神々の名前を考察できないか問う。 ソクラテスは、神々の怒りを招かないよう「自分たちは神々については考察する能力が無いし考察するつもりもない、あくまでも人間がどのような意図で神々の名前を定めたのかを考察するだけである」と断りつつ、考察を進める。 「ヘスティア」(Hestia)という名前は、かまどの神として動くことの無いその存在性(ousia)を、ドーリス方言では「essia」や「ōsia」と表現するが、この前者の「essia」から付けられた(他方で、存在性(ousia)を、後者の「ōsia」と表現する人々は、ヘラクレイトスの万物流動説のように、存在物は全て止まらず行き去るものであり、その原因・原動力を押すもの(ōthoun)と考えたからこう名付けた) ここでソクラテスは、「知恵の大群」が心に浮かんだ(つまりは、ひらめいた)と言い、神々の名前の命名者は、ヘラクレイトスの万物流動説と同じような考えの持ち主であり、神々にも「流動」に因んだ名前を付けていると指摘する。そして(既に言及した「クロノス」(Kronos)も含め)以下のように説明していく。 「レア」(Rhea)という名前は、流れる(rhein)という動詞から 「クロノス」(Kronos)という名前は、源泉(krounos)から 「テーテュス」(Tēthys)という名前は、水源の比喩であるふるい分けられたもの(diattōmenon)と漉(こ)されたもの(ēthoumenon)を合成して作られた 「ポセイドーン」(Poseidōn)という名前は、命名者が海に行く手を阻まれ、足(podes)の枷(desmos)、すなわち足枷(posidesmos)となったから、あるいは、たくさんのこと(polla)を知っている(eidōs)という意味の綴り(Polleidōn)を改変したもの、あるいは、震動させる(seiein)という性質から震動させる者(seiōn)の綴りを改変したもの 「プルートーン」(Ploutōn)という名前は、富(農産物)を地中から送り上げるその性質から富(ploutos)に因んで 「ハーデース」(Haidēs, ハイデース)という名前は、見えざるもの(aides)から、あるいは、彼が「完全な知者」であり、その善・徳性によって魂を魅了して地下に留め置くことに因み、美しきものを知る(eidenai)から 「デーメーテール」(Dēmētēr)という名前は、この女神が人間に食物を与えることに因み、母の如く与えるもの(didousa....mētēr)から 「ヘーラー」(Hērā)という名前は、愛らしい(eratē)から、あるいは、命名者(立法者)が上空に思弁をはせて空気(aēr)から 「ペルセポネー」(Phersephonē)という名前は、もたらす(pherein)と殺害(phonos)の合成に聞こえ、恐れられるが、この「ペルセポネー」(Phersephonē)という名前は詩文のために言い替えられたもので、元来は「ペッレパッタ」(Pherrephatta)という名前であり、これはこの女神が知者であり、運動しつつ有るもの(pheromenon)としての知恵への接触(epaphē)というその性質に因んだペレパパ(Pherepapha)といった名前を、口調の良さに合わせて変形させたもの 「アポローン」(Apollōn)という名前は、滅ぼす(apollynai)を連想して恐れられるが、医術・預言術を象徴する、洗浄し(apolouōn)諸悪から解き放つ(apolyōn)神、すなわち洗浄者(Apolouōn)から、また、テッタリア風の名前(Aploun)は、預言術の真実性・単純さ・誠実さ(haploun)から、また、弓術を象徴する常に射当てる者(aei ballōn)から、また、音楽術を象徴する共に回転させている(homopolōn)の、共に(homo-)の部分を同義の接頭辞「a-」に変換し、さらに、破滅させる者(apolōn、apollynaiの未来分詞)と混同されないように「l」を追加して名付けられたもの 「ムーサ」(Mousa)および「ムーシケー」(mousikē、学芸)という名前は、熱烈に希求する(mōsthai)から 「レートー」(Lētō)という名前は、この女神の柔和さを表す喜んで聞き入れる者(ethelēmōn)から、あるいは、他国風の名前(Lēthō)に従えば、性格(ēthos)が温和でやさしい(leion)を合成した「Leiēthō/Leēthō」を短縮して 「アルテミス」(Artemis)という名前は、この女神の処女性を欲求する性質を表す、保全されたもの(artemes)から、あるいは、徳を知る者(artēs histōr)から、あるいは、(男性の女性に対する)耕作(すなわち性交)を憎む者(aroton misēsasa)から 「ディオニュソス」(Dionysos)という名前は、(真面目な意味とふざけた意味の2つがあるが、前者は他人に任せるとして、後者は)酒を与える者(didous oinon)から、あるいは、酒(oinos)は飲む者を分別(nous)を持っているかのように思い(oiesthai)こませるから 「アプロディテー」(Aphroditē)という名前は、(真面目な意味とふざけた意味の2つがあるが、前者は他人に任せるとして、後者は)ヘシオドスの言う通り、水泡(aphros)から生まれたから 「アテーナー」(Athēnā)という名前は、まず別名(冠称)の「パラス」(Pallas)が振り上げる(pallein)や跳ねる(pallesthai)といった戦の神の性質を反映したものであり、「アテーナー」(Athēnā)の方は、知性・理性の神としての性質を反映して、神の思惟(hā theonoā)を変形したもの、あるいは、神に関すること(theia)を知っている(noousa)を合成した「Theonoē」から、あるいは、性格・本性(ēthos)における知見(noēsis)を合成した「Ēthonoē」から 「ヘーパイストス」(Hēphaistos)という名前は、火の神・工芸の神としての性質を反映した光の知者(phaeos histōr)を合成した「Phaistos」に「ē(hē)」を加えたもの 「アレース」(Arēs)という名前は、戦の神としての性質を反映して、男らしさ(arren)から、あるいは、不退転(arraton)から 「ヘルメース」(Hermēs)という名前は、通訳・伝令・盗み・商取引といった言説に関する神としての性質を反映して、話すこと(eirein)を発明・工夫した(emēsato)者を合成した「Eiremēs」を変形したもの 「パン」(Pan)という名前は、父ヘルメースの性質が関係する「言説」が、全て(pān)を表現することから(そして、パンが「上半身が人間で下半身が山羊」である二形的なのも、「言説」の真偽という二面性を表している) 「ヘーリオス」(Hēlios、太陽)という名前は、ドーリス方言では「ハーリオス」(Hālios)と言うが、これは太陽が昇っている間(昼間)、人間を同一の場所に集める(hālizein)から、あるいは、大地(地球)の周りを常に回転して(aei heilein)いるから、あるいは、大地を照らして多彩にいろどる(aiolein)から 「セレーネー」(Selēnē、月)という名前は、月は太陽からの光(selas)を新しい(neon)のも古い(henon)のも常に(aei)まとっているので、これらを合成した「Selaenoneoaeia」が短縮され、「Selānaiā」や「Selēnē」となった
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