特攻隊員の思想
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 08:16 UTC 版)
大日本帝国とナチス・ドイツは、共に枢軸国として特攻隊を有し、敗戦国となったこともあって比較されてきた。バード大学教授イアン・ブルマおよびヘブライ大学名誉教授アヴィシャイ・マルガリートの研究書『反西洋思想』によると、特攻隊志願兵たちは、大多数がエリート大学の人文学系の学生だった(理系の学生は文系よりは重宝されていた)。志願兵たちの手紙が示すところでは、彼らはドイツの哲学、文学、社会主義、マルクス主義、さらにはロマン主義や自殺の哲学、「死に至る病」に通じており、少数の隊員はキリスト教徒でもあった。 確かに日本では、「切腹」という自己犠牲の儀式的形が存在していたが、それは武士階級のみに許された特権であり、しかも戦争行為ではなかった。特攻隊員たちの自己犠牲は、武士道や天皇崇拝の結果というより、ロマン主義的なナショナリズムの表れとなっていた。例えば隊員の佐々木八郎は .mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}なお旧資本主義態制の遺物の所々に残存するのを見逃すことはできない。急には払拭できぬほど根強いその力が戦敗を通じて叩きつぶされることでもあれば、かえって或いは禍を転じて福とするものであるかも知れない。フェニックスのように灰の中から立ち上がる新しいもの、我々は今それを求めている。 と述べている。文化人類学者の大貫・ティアニー・恵美子によると、「破壊の灰の中から立ち上がるフェニックス」という隠喩は、佐々木など当時の知識人がしばしば用いていた。かつて神話・哲学・文学などにおける「破壊の後の復活」は、「第三帝国」と関連付けられており、ナチズム(国家社会主義)の中でヒトラーやゲッベルスが多用していた。例えばゲッベルスの主張は、「破壊の後の奇跡的な復活」や、自国再生のための「衛生的な破壊」などだった。 もともと日本では、「復活の前提としての暴力的な死」を掲げるナチズムやドイツロマン主義とは縁薄かったが、日本ロマン派(日本浪漫派)はこうした「テーゼ」を重視した。特攻隊員の日記にはこのテーゼや「フェニックス」の象徴が続出しており、佐々木はその一例となっている。また、特攻隊員以外の学徒兵にも同様の傾向があり、例えば「熱心なマルクス主義者」を自称していた林尹夫は、詩で「フィナーレ、タブー、崩壊」を切望し、「カオス」「破壊」「再生」という表現も多用していた。林はまた、ドイツ語混じりの「絶望」についての論考で、「唯心論者」と自称している。 読書はこうした学徒兵たちの生活の核心にあった。主だった四人である佐々木、林尹夫、中尾、和田の鑑賞した作品としては、確認できる文献だけでも1355冊あり、洋楽や映画もある(キリスト教徒の特攻隊員だった林市造の場合、聖書や『死に至る病』について、日記・手紙で頻繁に言及していた)。とりわけ隊員たちが言及した作品の中でも、ドイツの戦争宣伝映画は日本に浸透していた。 特攻隊員は、「近代」(西洋)から影響されると同時に、「近代」を超越する動きを体現していた。そうした彼らの体験の大部分は、ドイツなどで大流行し、日本にも届いたロマン主義だった。世界各地でロマン主義はマルクス主義と同様、「資本主義や物質主義に対抗する運動」でもあった。このため、「マルクスやレーニンはロマン主義の中の少なくともいくつかの要素を重視していた」という。様々なロマン主義は各社会で、「近代の超克」の一部を担い、かつ、国民国家間の武力衝突に向き合っていた。 詳細は「自殺攻撃#ドイツ思想(ロマン主義・反資本主義)の影響」を参照 特攻隊員に選抜されながら戦争を生き残った元隊員らの多くは、戦後の復興に大きく貢献したが、ごく一部に戦後に目標を見失い自暴自棄となり反社会的行為に身を染める元隊員も出ていた。彼らは「特攻くずれ」と呼ばれたが、戦中は多くの国民から特攻隊は「軍神」と崇められたのに、敗戦による国民の価値観の激変により、特攻は軍国主義の象徴として叩かれる対象となり、いわれのない差別を受ける事なったのも、「特攻くずれ」が一般社会に適合できない大きな要因となった。その内、特攻とは関係のない無法者が、特攻隊員の軍装をし元特攻隊員と偽り犯罪を起こすケースも増えて「特攻くずれ」は新聞等でも激しくバッシングされることとなり、特攻隊員の印象の悪化させることにもなった。
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