温度同調の動的単一モード・レーザ ~位相シフト分布反射器レーザ~
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「末松安晴」の記事における「温度同調の動的単一モード・レーザ ~位相シフト分布反射器レーザ~」の解説
末松は1960年に大学院を修了して東京工業大学に採用され、光通信の実現に向けて、光源と光伝送路の両方の可能性を探る研究を始めた。1963年に、光ファイバ通信実験を世界で初めて行い公開した(図1)。この実験は世界最初期に行なわれたものとして、国立科学博物館館の未来技術遺産として重要科学技術史資料に登録されることになった。吸湿性でデシケータに保存されているこの時に利用したADP結晶と共に、2008年7月に復元されたレプリカが、東京工業大学百周年記念館内の博物館で保存・展示されている。研究費が乏しかった初期には理論を主体にした研究を行った。1965年に光ビーム導波路の理論を、1967年に半導体レーザの直接変調の上限周波数を明らかにし、1970年には半導体レーザの動作理論などを構築した。1967年から1年間、末松は文部省の在外研究員として米国のオハイオ州立大学に滞在して、MITやベル研究所などを訪ねて交友を広めた。1969年に末松に転機が訪れた。川上正光工学部長の紹介で東京電気化学(株)の山崎貞一社長から新しい研究の後押しをしたいと、見返りを求められないで多額の研究費の寄付を受けた。これを契機に、末松は研究の指針を「この世にないものを創る」「その原理を明らかにする」として、大容量の情報を長距離にわたって世界中に隈なく伝送できるところに光ファイバ通信の本質があると見定め、長波長帯単一モード光通信を提唱し、大容量長距離光通信実現に不可欠な、波長が安定した光を発する通信用半導体レーザの実現に向けた本格的な研究に取りかかった。そして、その通信用半導体レーザとして、1972-1974年に動的単一モード・レーザ(DSMレーザ;Dynamic Single Mode Laser)を示唆した (図2)。この動的単一モード・レーザは次の3機能を併せ持つ半導体レーザである:1)長距離伝送のために、光ファイバの損失が最低になる波長1.5μm帯(この波長帯は研究を進める途中で明確になった)の光を出し、2)単一モード光ファイバ内の伝搬速度が波長により異なる伝搬定数分散に由来する伝送容量制限を乗り越えるために、単一波長で安定に動作し、さらに、3)多波長の通信に対応するために、波長が同調により可変できることである。まず、Donald A Keckらの予測を参考にして、光ファイバの最低損失波長帯レーザの研究を進め、1979年に、波長1.5μm帯のGaInAsP/InPレーザを荒井滋久や板屋義夫らの協力で開拓した。この研究発表に対して2016年にSSDM実行委員会は35年遡ってSSDM2016 Awardを与えている。この年にNTTの宮哲夫らにより最低損失波長帯は1.5μmになることが明らかにされた。この研究では、当初、高価なInP基板の調達の問題があったが、国際電信電話株式会社の中込雪男所長の協力が得られて切り抜けられた。1981-1983年に、多くの学生や同僚の協力の下に、まず、宇高勝之らと温度同調の動的単一モード・レーザを実現した。この実現の研究に関して、1983年のValdemar Poulsen Gold Medalが与えられている。この間の事情が“Light Unseen” に記載されている。 そして1983年に、古屋一仁らと位相シフト分布反射器レーザを実現した (図3)。この実現に対して、1985年のElectronics Letters Premium Award が与えられている。 このレーザは、温度同調の動的単一モード・レーザの代表例である。この位相シフト分布反射器レーザは、基盤の温度により波長を変える動的単一モード・レーザで、生産性が高く、大容量長距離光ファイバ通信の標準レーザとして広く用いられている。位相シフト分布反射器レーザ、あるいは位相シフトDFBレーザ、さらには単にDFBレーザと呼ばれることもある。中心波長が異なる1ダースほどの動的単一モード・レーザをアレー状に並べて広波長域の通信用レーザとしても用いられている。図4は商用化されたアレー・動的単一モード・レーザを示す。生産性が高いので、データ・センターや家庭向け回線にまで用途が広がっている。この間の1975年7-8月の夏休みの期間中に、末松は小口文一日本電信電話公社研究本部長の招きで、日本電信電話公社通信研究所の客員研究員として週1-2回出向し、新関暢一統括を始め優れた研究者達と有意義な意見交換をした。1977年8月には、柳井久義教授を中心にした「光集積回路光通信国際会議(IOOC)」の発足に末松は参画した。
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