浄の池の異魚毒魚
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/06 06:05 UTC 版)
「浄ノ池特有魚類生息地」の記事における「浄の池の異魚毒魚」の解説
浄の池に珍しい魚が棲んでいる、海の魚が池に棲んでいるという話は、幕末から明治の初期頃にかけ伊東周辺の人々に知られるようになり、特に蛇鰻(じゃうなぎ)、毒魚(どくぎょ)と呼ばれていた珍しい魚が居る池として珍重された。この2種以外にも当時の伊東周辺ではあまり見られない複数種の魚が棲みついており、人々はこれらの魚をまとめて異魚(いぎょ)と呼んでいた。これらの異魚がどのような経緯で、いつから浄の池に生息するようになったのかはまったく不明である。 風説として、江戸期に鎖国の禁を破り、伊豆各地の金山で産出した金を密かに外国に持ち出す等、南洋地方とも盛んに交易していた関係で、その地に産する異魚を誰かが持ち帰り、この池に移したという話もあるが、文献も資料も無く真偽の程は不明である。 また、小説の一節ではあるが、村松梢風が1953年(昭和28年)に発表した長編小説 『東海美女伝』の中には、大久保長安が海賊船の「お万」と取引した際に、「お万」は南方で捕らえてきた熱帯魚を大久保長安に贈り、「浄の池」という名の池にこの魚を放すという一節がある。だが、村松梢風が何を題材にこのエピソードを創作したのかは定かでない。 浄の池に関係する最も古い記録が見られる史料文献は、寛政12年(1800年)に刊行された地誌『豆州志稿』である。豆州志稿は伊豆半島一帯の地理を総体的にまとめた江戸後期の地誌であり、山岳、河川、湖沼等毎に分類して記載されている。その文中の「池溏部」には浄の池という名称の記載はないものの、「川渓部」に唐人川(とうじんがわ)として次の記述がある。 竹内村湯田に發し和田村に至りて此稱あり、昔唐船此處に漂着せしを以て名づくと云ふ。細流なれども異魚を産す。 豆州志稿川渓部 唐人川 唐人川とは浄の池の水が流出入していた極めて小規模な河川であり、2020年現在も当池からおよそ1キロ下流の伊東大川(通称:松川)河口付近で合流(地図)し、相模灘(伊東港)に注いでいる。 豆州志稿の唐人川の記述に、細流なれども 異魚 を産す。と、記述があることから、唐人川の上流部にあたる浄の池には、この頃(1800年頃)すでに異魚が生息していたものと考えられている。 この唐人川の名前の由来については諸説あり、はっきりとはしていない。江戸期の和田村の商家である、幸手屋(さったや)の第7代当主浜野建雄は、江戸時代後期に著した地誌『伊東誌』の中で、此川を唐人川という事いかなる故にや知がたれど、と断った上で、里人が伝えて言うのには、むかし異国の船がこの浜に漂着して、いろいろな異魚を放したから唐人川の名が出たとのこと。しかし、里人の言う異国船漂着の説は、どうも受入がたい。異魚を産するから、唐人川の名がでたのではないかという見解を示している。いずれにしても江戸後期から末期の頃には、唐人川(上流部の浄の池を含む)には見慣れない魚が棲んでいたことは間違いが無い。 異魚と呼ばれた複数魚類の具体的な魚種が確認出来るのは明治期に入ってからのことである。浄の池は明治30年代(1900年頃)以前には、当地(玖須美)在住の山田藤右衛門という人物が、使用目的等の詳しい経緯は不明であるが浄円寺より浄の池を借用しており、山田家では浄の池に生息する異魚5種類の写生画を所蔵していることが、後述する内務省史蹟名勝天然紀念物調査会考査員、黒田長礼により大正10年(1921年)に確認されている。 これらの写生画がいつ誰によって描かれたものか明らかではない。しかし、山田家が所蔵していた写生画に描かれた異魚5種とは、当地伊東の方言名で次の5種の魚であった。 蛇鰻 (じゃうなぎ) 毒魚 (どくぎょ) 湯鯉 (ゆごい) 迅奈良 (じんなら) 横縞 (よこしま) 明治の初め頃には、長さ6-7尺、胴回り2尺ほどの蛇鰻20尾余りが、のろのろと遊泳し、毒魚も大小30尾くらい生息していたとの古老の話があり、また、毒魚は餌を食べる時に全身が赤色になり、迅奈良は背びれにある棘を使って他の魚を刺し殺し、投網などで捕獲し水中から出すと異様な鳴き声を発した等の話が喧伝されていた。 明治後期から大正の初期頃になると、浄の池近隣の温泉宿に逗留する人々が浴衣姿下駄履きで見学に訪れるようになり、池の畔には茶屋が設けられ、各種異魚の写真や写生図(スケッチ)、池の全景写真などの絵葉書が茶屋によって作成され来訪者へ販売されるようになるなど、浄の池は温泉街の名所として多くの人々に知られるようになった。
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