死刑適用の制限と廃止
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 04:04 UTC 版)
「死刑存廃問題」の記事における「死刑適用の制限と廃止」の解説
フランスで1789年に勃発したフランス革命を契機として、死刑執行方法はギロチンによる斬首刑に単一化されるようになり、文化の変化に伴って死刑の意義がなくなっていったため、適用範囲が次第に制限されるようになった。フランス革命ではマクシミリアン・ロベスピエールの恐怖政治によって大量の政治犯が処刑されたことから、死刑制度が廃止するかに思われたが、最終的にナポレオン・ボナパルトによって退けられた。 欧米の政治革命の結果として、死刑が適用される範囲は次第に制限されるようになった。たとえば建国間もないアメリカ合衆国では、トマス・ジェファーソンが死刑執行の範囲を制限すべきと主張していた。州レベルではペンシルベニア州が1794年に、死刑を適用できるのは第一級殺人罪のみと限定した。また1847年にミシガン州が殺人犯に対する死刑を禁止し、事実上死刑制度を廃止した。これは国家が国民の生命与奪権まで与えることに疑問が提示された結果ともいえる。特に権力者に対する政治的反逆を行った政治犯に対する死刑は、一部の国を除き忌避されるようになった。 20世紀末から欧州諸国が死刑制度を廃止し、国際連合も死刑廃止条約を打ち出したため、21世紀初頭の国際社会は死刑制度が廃止された国が半数となっている。一方で死刑制度を護持する国も依然として残っているが、死刑制度を存置する国においても、死刑が適用される犯罪はおおむね「他人の生命を奪った犯罪」に制限されるようになっていった。ただし、前述のように厳罰主義ないし宗教観による差異のために、「人の生命が奪われていない犯罪」 でも死刑が適用されている国家がある。 日本で死刑が適用される犯罪は法律上17種類あるが、起訴された事例がない罪種が大部分であり、実際には殺人または強盗殺人など「人を殺害した犯罪」である。そのため、人を殺害した犯罪者のうち、特に悪質な場合において、犯罪者の生命をもって償わせるべきと裁判官に判断された者に死刑が適用されている。 先進国の多くが死刑制度を廃止しているが、アメリカ、日本、シンガポール、台湾などの幾つかの国では現在でも死刑制度を維持している。凶悪犯罪者に対する社会的制裁や犯罪抑止、犯罪被害者遺族の応報感情などを理由に死刑を維持すべきという国内世論も根強い。例えば、死刑存置論者である刑法学者が死刑廃止運動に対する批判(中嶋 2004, p. 189)として「死刑制度には『私はあなたを殺さないと約束する。もし、この約束に違反してあなたを殺すことがあれば、私自身の命を差し出す』という正義にかなった約束事がある。ところが、死刑を廃止しようとする人々は『私はあなたを殺さないと一応約束する。しかし、この約束に違反してあなたを殺すことがあっても、あなたたちは私を殺さないと約束せよ』と要求しているに等しい。これは実に理不尽である」と発言している。 現在先進国のうち、実質的な死刑存置国はアメリカ合衆国・日本・シンガポールと台湾の4か国である。以前は非先進国のほとんどが非民主国家であったため、経済的な区分で死刑の維持派と廃止派を分けることが多かったが、近年では途上国でも民主国家の数が急増し、人権問題としては民主主義と非民主主義の国家での区分が有意義なものとなっている。この場合、民主主義の国では欧米文化の系列であるヨーロッパと南米などの国のほとんどで死刑が廃止、アジア、中東、アフリカの民主主義の国ではほとんどがは死刑を維持するという文化的な対立が鮮明となっている。またアメリカ合衆国では2013年10月時点で、18州が死刑を廃止・2州と軍は執行を停止という状況で、死刑制度がある32州と連邦も毎年執行している地域はテキサス州のみである。欧州議会の欧州審議会議員会議は2001年6月25日に、死刑執行を継続している日本とアメリカ合衆国に対して死刑囚の待遇改善および適用改善を要求する1253決議 を可決している。また、国連総会も死刑執行のモラトリアム決議(2007年12月18日)を可決している。さらに、国連のB規約人権委員会は日本を名指しして死刑制度廃止を勧告している。2008年10月30日 には、日本の捜査機関の手続きの改善 や、死刑制度についても「死刑執行数が増加しており、また本人への告知が執行当日であること」などが問題であり、死刑囚本人とその家族が死刑執行に向けて心の準備ができるよう「適切な時間的余裕を持って執行日時を事前通知すべきだ」と批判している。
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