子の意思の反映(総論)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 04:00 UTC 版)
家事紛争(特に離婚・離別、監護権又は面会交流を巡る、両親その他の大人たちの紛争)は、子にも大きな影響を及ぼす。前述のとおり、家事紛争の当事者は子の福祉を最優先に考慮すべきであるが、何が子の福祉に沿うかは、その子自身の発達段階や意向・心情によっても、その子を取り巻く文化的、経済的、社会的、時代的背景によっても、様々に異なる。何が子の福祉に適うのかを最も良く知る者は、その子に最も身近な大人、すなわち当事者自身であるべきだが、当事者は往々にして、相手当事者に対する(時には子に対する)困惑・怒り・嫌悪・不信・対抗心・執着心、絶望、無知、経済的動機、支援者の意向、宗教その他の信条などの様々な要因から、自覚的か否かを問わず、子の福祉を十分に検討しないまま自己の要求を形成する。 そこで、家事紛争の解決手続開始前や進行中に当事者に対して知識付与を行う取組(親教育、親ガイダンス)が実践されるとともに、子を手続に関与させる取組が試みられるようになった。子の関与の方法としては、例えば以下のようなものが考えられる。 当事者に子の発言を説明してもらう。 子に自己の心情や意向を記載した書面を作成してもらう。 子に調停期日に参加してもらい、当事者と同席又は別席で、心情や意向を述べてもらう。 専門的訓練を受けた者に子の心情や意向を調査してもらう。 児童の権利に関する条約12条は、児童が自己に影響を及ぼす事項について表明する意見は、あらゆる司法上及び行政上の手続において聴取され、相応に考慮されるべきである旨を規定している。家事紛争の解決手続に子を関与させることには、次のような意義があると考えられている。 子に必要なものは子自身が表明するのが最も直接的であるし、早期に子に必要なものを明らかにすれば、紛争の強度も継続時間も減る。 家事紛争の解決策の立案、計画、決定、実行に子を参加させることにより、効果的な解決策を開発することができる。 両親の離別に関する情報を知らせ、両親の離別後の生活設計に関与させることは、子の多くが望むところであるし、子の意思疎通や交渉に関する能力を高めることにもつながる。 より多くの決定に参加した子は、新たな家族構成に順応し易く、両親の離別後に生じる混乱から回復する能力も高い傾向がある。 しかしながら、実際には2010年代に至っても、実務家の多くは家事紛争の解決手続に子を関与させることに慎重である。その理由として、以下のようなものが挙げられる。 一方の親が子の希望を自らに都合の良い合意を得るための切り札として利用したり、子が紛争解決手続によって傷ついていると主張して、建設的な議論を阻害するおそれがある。 両親が監護権や面会交流を巡って対立しているときは、親が子を操ろうとするために、子を不安や忠誠葛藤(「パパもママも裏切れない。」という二律背反)にさらすことになる。子が親の怒りや報復を恐れて本心を述べないこともある。 子の意向を確認する際に子の情操を保護しようとすると、当事者の適正手続を享受する権利が損なわれるおそれがある。 子の意向は、その文脈を理解しなければ正確に解釈できない。 両親間の葛藤が高い場合や両親が精神的な問題を抱える場合、居所指定権に関する紛争のような二択を迫られる場合は、子の手続関与から得られるフィードバックを活用困難なことがある。子は、両親に意見を無視されたり、逆に自らの意見に過度の責任を感じることで、一層傷つくことになる。 紛争に子を巻き込むことで親の権威が弱体化し、子の生活や家族関係に悪影響を及ぼす危険がある。 家事調停に子を関与させるべきか否か、関与させるとしてどのような方法を採るかは、上述した利害得失を考慮して判断する必要がある。学説や実務家が概ね一致して述べる考慮要素は、次のとおりである。 子の年齢 子の認知面及び感情面での発達 面接を希望するか否かに関する子の意思 子の安全 各種の参加方法の利害得失 子と面接する専門家が受けている訓練や資格 子の参加の可否に影響を与えあるいは制限する要因となり得る、文化的・伝統的背景の違いや言語などの障壁 親との情報共有や子の意向の親への還元に関する子の意思 父親は、母親に比べて子から引き離される立場に立つことが多いためか、子が家事調停に直接参加すべきであるという原則論に固執する傾向がある。
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