周回軌道投入マヌーバ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/22 21:44 UTC 版)
「あかつき (探査機)」の記事における「周回軌道投入マヌーバ」の解説
12月6日午前7時50分に金星周回軌道投入マヌーバ(VOI-1)のための姿勢変更を実施し、OMEを進行方向正面に向けた。その後の予定は以下の表のようになっていた。 「あかつき」の軌道投入計画(引用資料:)予定していたイベント時間 (JST)金星最接近時刻(12月7日09:00JST)からの相対時間軌道制御エンジン(OME)噴射開始 12月7日 08時49分00秒 11分前 地食開始、地上局との通信断 12月7日 08時50分43秒 約9分前 OME噴射終了 12月7日 09時01分00秒 1分後 地食終了、通信再開 12月7日 09時12分03秒 約12分後 日陰開始 12月7日 09時36分37秒 約37分後 日陰終了 12月7日 10時40分44秒 約1時間41分後 Z軸地球指向への姿勢変更 12月7日 10時59分00秒 約2時間後 中利得アンテナ(MGA)から高利得アンテナ(HGA)への切替 12月7日 12時09分00秒 約3時間後 金星周回軌道決定 今後の軌道修正計画作成 12月7日 21時頃 約12時間後 OMEを予定通り12分間噴射した場合、あかつきは約4日で金星を周回する長楕円軌道に投入される。4日後の金星再接近時に軌道修正を行って公転周期約2日の軌道に、更に2日後の軌道修正で公転周期約30時間の観測軌道に入る予定だった。また、OMEを少なくとも9分20秒噴射できれば、約50日で金星を周回する超長楕円軌道に入れる可能性があった。 12月7日午前8時52分36秒、あかつきが同日午前8時49分に逆噴射によって減速を開始したことが探査機からのドップラーデータより確認された。あかつきまでの通信ラグは約3分半である。同日午前8時50分にあかつきは地球から見て金星の向こう側に隠れ、予定通り地球との通信が途絶えた。同日9時12分に通信再開予定だったが、探査機からの電波を受信したのは10時28分で、予定されていたMGAではなくLGAによるものであった。同日午後、太陽電池パドルと片方のLGAを太陽に、もう片方のLGAをその反対方向に向けたまま低速で回転する「セーフホールドモード」になっていることが判明した。これは機体に重大なトラブルが発生した場合、電源確保とそのための姿勢の維持を最優先するモードである。翌12月8日までに3軸制御モードへの復帰とテレメトリの取得を行った。テレメトリによると、あかつきはOME噴射開始から約2分30秒後、横方向に異常な力が加わって姿勢が大きく乱れ、直後に噴射を中止してセーフホールドモードに移行していた。減速が不十分だったことにより、金星周回軌道への投入はできなかった。 12月27日に、トラブルの原因は加圧用のヘリウムタンクから燃料タンクへの配管に設置された逆止弁(逆流防止用の弁)が閉塞したためと発表された。通常の燃焼では酸化剤に対して燃料を多めに混合することで意図的に燃焼温度を下げ、セラミックスラスタの耐熱温度を超えない様にしている。しかし、逆止弁が閉塞したことから燃料タンクの圧力が低下してスラスタへの燃料供給が滞り、酸化剤と燃料の混合比がより効率的な燃焼を促すものとなった。これにより異常燃焼が生じて機体に想定外の回転モーメントがかかると共に想定外の高温でスラスタの一部が破損した可能性がある。 2011年6月、JAXAは地上試験の結果、逆止弁閉塞の原因は燃料(ヒドラジン)と酸化剤(四酸化二窒素)が反応して生じた硝酸アンモニウム結晶である可能性が高いと発表した。酸化剤側逆止弁のシールに用いられていた樹脂材料が四酸化二窒素を透過する性質を持っていたために、酸化剤が徐々に燃料側逆止弁に向って拡散、燃料と反応して生じた結晶が弁を詰まらせたと推定された。また、異常燃焼によるセラミックスラスタの破損も再現され、再度スラスタを点火すれば損傷がさらに拡大するであろうことも確認された。
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