厳罰政策と寛容政策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 17:20 UTC 版)
「幻覚剤#規制」も参照 厳罰な政策をとり薬物使用を犯罪とみなす国がある一方、薬物による害と人権侵害を減らすことを目的として、薬物に対して寛容な政策をとる国も存在する。 20世紀にはほとんどの国では法的に規制されており、許可なく製造、所持、使用すると刑罰が科される。スリランカ、マレーシア、シンガポール、中華人民共和国のようにアジア諸国には死刑を科す国も存在する。受刑者移送条約の非締結国で罪を犯した場合、日本より重い刑期をむかえることになる。しかし、麻薬依存者に対し刑罰を科しただけでは薬物依存症から抜け出せないため、その治療のため入院したり、刑法違反の累犯で刑務所に収監される人が後を絶たない。日本では医療刑務所に収監するケースも見られる。 21世紀初頭に、国際的に「薬物依存者には刑罰よりも治療が必要だ」とする見解が主流となり、2019年には国連の国際麻薬統制委員会は人権への配慮から、死刑の廃止を求め、軽微な犯罪には刑罰でなく治療の可能性を言及するようになった。持続可能な開発のための2030アジェンダ (SDG) の目標として薬物規制条約に従いながら人権保護を最大化するために、国連開発計画や世界保健機関は「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」を出版し、薬物使用者に対する差別や不当な拘留の撤廃、科学的根拠に基づく予防や治療、個人的消費のための薬物所持や栽培の非犯罪化といった推奨事項がまとめられている。 1971年に国際的な麻薬戦争が開始され、世界の違法なアヘンの生産量は1971年の990トンから、1989年の4200トンに増加し、2007年には国連は8800トンとなり最大生産量に達したと報告した。アメリカで1990年代の10年間でコカインの使用量は増加し、2008年の国連の調査でもコカの葉を生産するためのコロンビアの土地は根絶計画に反して劇的に拡大した。つまり、1990年代以降、麻薬戦争は全面的に失敗であるという意見も増加してきたためである。 ウルグアイでは、2013年に大麻を合法化しているが、薬物規制条約が製造や輸出入に対し犯罪とすることを要求しているということで、国際麻薬統制委員会は協議を重ねてきている。2018年にカナダにおける大麻(英語版)の合法化が続いた。合法化を含む解説記事の米国における非医療大麻の非犯罪化(英語版)も参照。 ポルトガルの薬物政策(英語版)では、2001年にすべての薬物を非犯罪化(英語版)して依存者を予防と治療に専念することで、死亡者数とHIV感染者数、特に10代の大麻使用を減少させてきた。2021年にオレゴン州では全米初の薬物の非犯罪化のための州法が施行され、犯罪ではなく交通違反切符のような罰金となり、薬物の使用によって犯罪化や差別を受けることから保護し治療へつなげることを支援する。ヘロイン1グラム以下、コカイン2グラム以下、メタンフェタミン2グラム以下、MDMA /エクスタシー1グラムまたは5錠未満、LSDを40使用単位未満、シロシビン12グラム未満は単に罰金となる。 オランダの薬物政策のように大麻について刑法上は違法となっているが所持・摂取に対しては刑を執行しない事例も見られる(非犯罪化)。オランダでは、薬物をソフトドラッグとハードドラッグに分類し、大麻をソフトドラッグとして定義して、ほぼ合法として扱い、許可を受けた店舗で合法的に販売している。これによって犯罪組織の収入源を奪い、あらゆる薬物を扱う密売人との接触機会を無くすことで、害が深刻なハードドラッグ類の蔓延を抑止する政策を取っており、実際にヘロイン使用者が減少し、大麻使用者も増加していないなど、一定の効果をあげている。チェコやスイスでも似たような薬物政策がある。大麻を参照のこと。 21世紀初頭には、タイは死刑を設け厳罰主義を貫いてきた一国であったが、警察に殺害された人々は数千人にも上る一方で麻薬取引量は増加していったため、2017年までには死刑は執行されないよう政策転換をはかり、社会復帰を目指す相談所や依存者の治療をはじめている。
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