全世界的テロリズムの神話
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/07 05:24 UTC 版)
「帝国以後」の記事における「全世界的テロリズムの神話」の解説
アメリカは世界的な対テロ戦争を標榜している。実際、1980年代から起きた第二次スーダン内戦、ソマリア内戦、ユーゴスラビア紛争、チェチェン紛争、アフガニスタン内戦、六四天安門事件、911 テロなどにより、世界の破局のイメージが広まっている。しかし一歩離れて人口学的に見るなら、人類は確実に進歩している。1980年から2000年の間に、第三世界諸国でも識字化が進んでいる。 国識字率1980年2000年ルワンダ40% 67% ナイジェリア33% 64% コートジボワール27% 47% アルジェリア40% 63% 南アフリカ77% 85% ジンバブエ80% 93% コロンビア85% 92% アフガニスタン18% 47% インド41% 56% 国識字率1980年2000年パキスタン28% 43% インドネシア69% 87% フィリピン89% 95% スリランカ85% 92% タジキスタン94% 99% イラン51% 77% 中国66% 85% マリ14% 40% ニジェール8% 16% 若い世代については 2030 年に全世界の識字化がほぼ完了すると考えられる。 これに伴い、女性の受胎調整も着実に進んでいる。イスラム圏は出産率に大きな違いがあり、人口学的実体としての単一のイスラム圏は存在しない。 非イスラム圏国出産率1980年2000年アメリカ合衆国1.8 2.1 カナダ1.8 1.4 イギリス1.9 1.7 フランス1.9 1.9 ドイツ1.3 1.3 イタリア1.7 1.3 スペイン2.5 1.2 ルーマニア2.5 1.3 ポーランド2.3 1.4 ロシア2.0 1.2 ウクライナ1.9 1.1 日本1.8 1.3 中国2.3 1.8 台湾2.7 1.7 韓国3.2 1.5 北朝鮮4.5 2.3 ベトナム5.8 2.3 タイ3.7 1.8 フィリピン5.0 3.5 インド5.3 3.2 スリランカ3.4 2.1 アルゼンチン2.9 2.6 メキシコ4.8 2.8 ボリビア6.8 4.2 ペルー5.3 2.9 ブラジル4.4 2.4 コロンビア3.9 2.6 ベネズエラ4.9 2.9 南アフリカ5.1 2.9 ルワンダ6.9 5.8 ザンビア6.9 6.1 ジンバブエ6.6 4.0 ケニア8.1 4.4 タンザニア6.5 5.6 エチオピア6.7 5.9 コンゴ民主共和国6.1 7.0 コートジボワール6.7 5.2 シエラレオネ6.4 6.3 リベリア6.7 6.6 イスラム圏国出産率1980年2000年アゼルバイジャン3.1 2.0 トルクメニスタン4.8 2.2 チュニジア5.0 2.3 キルギスタン4.1 2.4 タジキスタン5.6 2.4 レバノン4.7 2.5 トルコ4.3 2.5 イラン5.3 2.6 インドネシア4.1 2.7 ウズベキスタン4.8 2.7 バーレーン7.4 2.8 アルジェリア7.3 3.1 マレーシア4.4 3.2 バングラデシュ6.3 3.3 モロッコ6.9 3.4 エジプト5.3 3.5 アラブ首長国連邦7.2 3.5 ヨルダン4.3 3.6 リビア7.4 3.9 カタール7.2 3.9 シリア7.2 4.1 クウェート7.0 4.2 スーダン6.6 4.9 イラク7.0 5.3 パキスタン6.3 5.6 サウジアラビア7.2 5.7 セネガル6.5 5.7 ナイジェリア6.9 5.8 パレスチナ6.9 5.9 アフガニスタン6.9 6.0 モーリタニア6.9 6.0 オマーン7.2 6.1 マリ6.7 7.0 イエメン7.0 7.2 ソマリア6.1 7.3 ニジェール7.1 7.5 ロシアは中央アジアの識字化と受胎調整に大きな役割を果たしたことが分かる。それより弱いながら、フランスもマグリブ三国(アルジェリア、チュニジア、モロッコ)に同じ影響を及ぼした。2050 年には世界の人口は安定化すると予測される。 この近代化の過程でトッドが強調するのが、移行期危機である。アンチル諸島を除き、世界のどこでも男性の識字化が先に起こり、女性の識字化が続く。従って、近代化は単調な前進ではなく、まず伝統社会との断絶によるイデオロギー的な混乱が起こり、次に受胎調整により安定化するのである。先に識字化したヨーロッパ、アメリカ、日本、ロシアが経験した戦争や革命、混乱は、この移行期危機である。イスラム圏に現在見られるイスラム原理主義の暴力もまた、移行期危機であり、イスラム教は本質から暴力的であるという近年の主張は人口学的には認められない。中東で最も近代化が進んでいるのはイランであり、移行期であるイラン革命の混乱を経て現在は民主化が進みつつある。一方、アメリカが同盟国と見なすサウジアラビアとパキスタンはこれから移行期の危機が激化するはずである。アルカーイダが両国と深い関係にあるのは偶然ではない。 この移行期危機は、決して退化ではない。原理主義の伸張はむしろ近代化の途中に現れる副作用なのである。このためトッドは、イスラム圏はいずれ自動的に沈静化すると予想し、全世界的テロリズム論は虚構だとする。
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